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「これは重要な問題だよ、葵!世の中に男がいるから犯罪がなくならないんだよ!」
めちゃめちゃだが言っている本人は至って真剣。
だから余計に質が悪いのだ。
「それ偏見だから!真剣な顔して何言っちゃってんの!?だいたい、急にいなくなったら困るでしょ?」
「私は別に困らないしぃ〜。葵が居なくなったら困るのは高瀬遥だけでしょ?リア充なんて爆発すればいいのに。…じゃあ、一万歩譲って全ての男が女になればいいと思うんだ。」
「それじゃあ人類滅亡しちゃうよ!居ないと困るのは遥かだけじゃないし!ほら…えっと…あ、お父さんとかお兄ちゃんとかお父さんとか!…って今なんか物騒な事言いましたよね?結奈さーん?聞いてますかー?」
結奈は耳を塞いでいやいやするように首を振っている、と突然前をにらみ始めた。
その視線の先には…。
「あっ!遥かだ!」
葵が嬉しそうに声を上げると結奈は不機嫌そうに眉をひそめる。
(どんだけ男が嫌なんだろ、この子は…。)
もしかしたら永遠の謎かも知れない。
「どうしたの?遥……と杉村君。こんな所で立ち止まって。」
「やっぱり葵と岬か…。今なんか物騒な会話が聞こえたんだけど。」
聞かなきゃよかった、と遥が思ったのは内緒だ。
「あら、高瀬遥。私の葵に気安く話しかけないで頂戴。それと、私の名前を気安く呼ばないでもらえる?」
「ちょっ、結奈?その人一応私の彼氏だから!」
「チッ」
「えっー?今の舌打ち何なの?」
結奈はぷいっと顔を背けてしまった。
遥たちの登場がよほど気に食わなかったらしい。
「………岬は相変わらずだな。葵も、一応はないだろ……ん?そういえば明人、どうしたんだ?」
やけに静かだな、と遥は後ろを振り返る。
「……………。」
反応ナシ。
「おい、明人!?お前熱でもあんのか?」
「……………。」
また反応ナシ。
こんなに静かな明人は正直不気味だ。
そしてここまで無視されると腹が立つ。
「おいこら明人!さっさと帰っぞ!」
そういって遥は明人の頬をつねる。
「……うぉっ!?」
「わっ!?」
「なんだ、遥か…。驚かせんなよ…。」
「それはこっちのセリフだ!お前さっきからおかしいぞ?なんか顔赤いし、風邪でも引いたか?」
「病気……。そうか、これは病気か…。」
「今度はどうしたんだよ…」
「なあ、遥。俺、病気みたいだ。」
「さっきからお前、気持ち悪いぞ。病気って自覚あるならさっさと帰って寝ろよ。」
「……あー…うん……そう…だな。」
「ねぇ、高瀬。」
結奈が声を上げた瞬間、明人がピクン、と反応した。
「今更だけど…こいつ誰?」
「「「……………。」」」
結奈の今更な衝撃発言に固まる3人。
「ゆ、結奈…。あんた知らないの?一応同じ部活だよ?」
「だって…。男になんて興味ないもの。」
「てか、明人が石化してるんだけど。」
「そんなの知らないわよ。高瀬が連れてきたんだから、あんたが何とかしなさいよ。それじゃあ、私は葵を送っていくから。葵、行くわよ?」
「え?あ、ちょっ……」
「遥ぁ〜。ごめんねー。また明日ー。」
結奈に引きずられるようにして葵は帰っていった。
「明人ー。しっかりしろー。」
「あぁ……遥…俺…。」
「そんなにショックだったのかよ…。まぁ、岬がお前を知らなくても無理ないかもな。あいつ、男を毛嫌いしてるし。」
「そ、そうなの?知らなかった……。」
「同じ部活にいて知らない方が凄いと思うぞ。それに、岬も結構有名だぜ?なんたって美人だ。おまけにかなり変わってるからな…。」
少し遠い目をする遥。
葵を口説くより結奈を説得する方が大変だったのはここだけの話だ。
「そんなに男が嫌いなの?」
「さっきの危ない会話、聞いてただろ?」
「………ははは。…………はぁ。」
乾いた笑いと溜め息。
「なんだよさっきから……。まさかとは思うけど、岬に惚れたとか言わないよな?」
「………。フ、フハハハハ…。」
「「アハハハハハッ」」
顔を見合わせて二人は笑い出した。
「マジかよ。」
「男嫌いか……。」
「お前が惚れる女ってだいたい変だよな…。」
「あぁ……。どうして俺は男なんかに生まれてきたんだ…っ!」
「落ち着け。お前が女だったとしても、それはそれで茨の道だぞ?」
「岬さんがフェミニストなら大丈夫!問題ない!」
「問題大アリだ!」
「なぁ、それじゃあ性転換ってどうやったら出来るんだ?」
「真剣な顔してナニ言ってんだ…。そもそもどうして岬が好きなんだ?」
「そんなの決まってるだろ。一目惚れ!」
「………。はぁ……。」
やっぱコイツはバカだ、と遥は改めて思う。
「俺……明日、岬さんにこの想い伝えるんだ……。」
「何その死亡フラグ!?しかも決意早っ!?お前さ、岬に告った男どもがどうなったか知ってるか?」
「いや、知らん!だが俺は行くぞ!輝かしい未来の為に!!」
「何なんだよ、そのウザいノリとテンション…お前も体験してみればいいよ。きっと醒めるから。」
すっかり自分の世界に浸っている明人をみて、遥は溜め息を吐いた。
「……ホント、残念なヤツ。」
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