忘れた事など一度たりとも有りはしない。馬鹿みたいに騒いでいれば少しだけ気が紛れ違う事を考えていられた。
だが、ふと1人になった時だとか、風呂に入ってる時だとか雨が降った時だとか、昔を思い出して当時の光景がフラッシュバックしてしまう。
忘れたつもりはない。忘れたいわけでもない。ただ、今まで生きてきて、こうも色んな事があるならこの先もまた同じ想いをするのかと思うと酷く億劫になる。
出来る事ならもうあんな想いはしたくはない。そう願うのだが多分自分はこの先も昔と変わらず、面倒事に首を突っ込んだり、何かを背負う人生を送るのだろうなと他人事の様に思う事がある。
そう思ったら、どうでもよくなった。今更望むものも在りはしない。夢見る将来などない。全てが無気力で世界が色を失った。
元々、色なんてありはしない。どうせ世界は白と灰色と赤しかないのだ。
何処に行こうが、何をしようが、銀時の世界は何時だって白と灰色と赤しか映らない。
その色しか銀時は知らなかった。色がない世界など今に始まったわけではないのだから。

「ぎ……んさ、ん……銀さん!!」
「…んー……、あ…?」
「何時まで寝てるんですか!?起きてください!お昼出来ましたよ!」
「あ――……ぱっつぁん…」
「いい加減起きてください!お昼ご飯冷めちゃいますってば」
ショボショボする目をなんとか開けば、そこには眼鏡(助手)が腰に手をあてている。あ―…そういやもう昼だったか。と、食卓から香る匂いを吸い込むと腹がぐぅと鳴った。
「ほら、起きてください銀さん。ご飯にしましょう」
今よそって来ますから、顔洗って来てくださいね。と言われ重い身体を起こした。まだ寝起きで動かない思考で洗面所まで行き冷たい水で顔を洗えば、少し目が覚めた。
「銀さーん」
「へィへィー」
ボリボリと髪をかきながらソファーに座れば新八がお茶碗を差し出してくる。
それを受け取り一旦、テーブルに置き手を合わせる。
「いただきます」
そう言ってから箸を取れば新八がくすりと笑った。
「なに?」
「いえ、ちょっと嬉しくて」
「なにが?」
「最初は銀さん何も言わないで食べてたから」
もごもごと白米を食べてから玉子焼きに手を出す。
「うめぇ…」
思ったより甘くはないが微かな甘さがまた気に入った。
「良かった。今日は上手く焼けたんです」
嬉しそうに笑う新八の周りが明るかった。
なんだこれ。なんで新八の周りが明るいんだ?しかも輝いて見える。
ズズっと味噌汁を飲み込めば腹が温かい。でもそれだけじゃない。なんだか別の所も暖かく感じる。
「今日、特売日なんで後で買い物付き合ってくれますか?」
「ん」
「天気が良かったので沢山洗濯物したんでそれ片付けてからになるんで少し遅くなりますけど大丈夫ですか?」
「あ―…、うん、別に平気」
お茶碗から視線を外し、外を見てみれば雲一つない真っ青な空が広がっていた。その青の眩しさに銀時は思わず目を細めた。
「すげぇ青…」
「でしょう?お布団も干したので今夜はふかふかですよ」
良かったですね。銀さんと微笑まれて銀時は箸を置いた。
「そ―だな、……すっげぇ眩しい」
眩し過ぎるだろ、これ。銀時はその眩しさに耐え切れず食後のお茶を啜って瞳を閉じた。
目を閉じた世界でも変わらずそこには光があった。もう一度、目を開ければ新八が行儀よく食事を続けてる。
「…ごっそーさん。旨かった」
「どういたしまして」
嬉しそうに笑う新八はやっぱりさっきと同じで輝いて見えた。


色付き始めた世界





2011.0915
風花



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