「政宗様に紹介したい人がいます」
その日、政宗が自宅に帰ると見慣れない靴が玄関にありました。不審に思った彼に小十郎は一人の青年を紹介しました。
「こちら猿飛佐助と申します」
「はじめまして」
「俺は認めねぇからな…!」
政宗は小十郎の事が好きでした。それは家族としてではなく一人の男として小十郎の事が好きだったのです。そんな小十郎から紹介されたのは赤毛の男でした。政宗はあまりのショックに小十郎の馬鹿野郎!と叫んで帰ってきたばかりの自宅から出ていってしまいました。
「政宗様!!……まったく困ったお方だ。あんなに照れなくてもいいのにな」
「いや、あれはそうじゃないと思うよ?」
「大丈夫だ、佐助。政宗様は俺達を祝福してくださっている」
「え、あれのどこが俺達を祝ってくれてんの!?ってか、全然反対してたじゃん!」
「政宗様はとてもシャイなお方なんだ。お前もその内分かる」
(なんだろ…、俺様もしかして何か間違えた?もしかしたらヤバイ人選んじゃったかもしんない…)
政宗の想いを完全に勘違いする小十郎と、何かがズレてると気付いた佐助。もしかしたらこの人を選んだのは間違いじゃないか…と思い始めた佐助です。
それからです。たまに小十郎のマンションに泊りに来る佐助に政宗は遅い反抗期に突入しました。
佐助が泊まりに来ると小十郎は今まで政宗に見せた事がない優しい笑顔で佐助に微笑みかけます。政宗はそんな小十郎を見たくありませんでした。だから佐助が泊りにくると分かれば政宗は夜遊びと称して外で時間を潰していました。
そんなある日、今日もまた夜遊びして帰宅すれば、政宗は明かりのついてない部屋に少しだけ落胆の溜息を零しました。
もしかしたら心配して小十郎が起きて待っていてくれているんじゃないかと期待しましたが小十郎は仕事が多忙で疲労が溜まっているので寝てしまったのです。
小十郎の馬鹿野郎…と涙目になっていた政宗は目をごしごし拭いました。そんな時です。
「そんなに強く擦ると目を痛めるよ?」
ふわりと肩に温かいものを感じました。振り返った先には政宗の肩にブランケットをかけた佐助がいました。
「おまっ…!」
「しー。片倉さんが起きちゃう」
佐助の言葉に政宗は口を塞ぎます。
「小十郎は…?」
「今日も仕事が忙しかったみたい。もうぐっすり寝てるよ。こっちにおいで」
優しく政宗の腕を引く佐助に警戒しながら着いていくとテーブルの上にはラップのされている夕食がありました。どうやら政宗の分の様です。
「ほら、座って。今温めるから」
佐助の言葉に素直に頷き政宗は椅子に座りました。
ラップを外した料理は冷めていてもとても美味しそうに見えました。
「はい」
温め直した味噌汁を受け取り政宗はその匂いにお腹を鳴らしました。
「冷めない内に食べてね」
こくりと小さく頷くと政宗は箸を動かしました。
「明日は休みなんだよね?」
「あぁ、」
「そっか…。今夜は冷えるから風邪に気をつけるんだよ。おやすみ」
佐助は優しく笑って部屋に戻りました。
政宗は泣きながら夕食を噛み締めて食べ始めました。
政宗は小十郎以外にこんなに優しくされたのは初めてでした。とても嬉しくて、苦しくて切なくて政宗は佐助の料理を噛み締めました。佐助の優しくて温かい料理が涙で塩っぱくてもとても美味しかったのです。
そして次の日、政宗はお昼近くに目を覚ましました。とってもいい匂いがします。ぐぅとお腹が鳴きました。しかし今日も小十郎は仕事でマンションには誰もいないはずです。
政宗はまさかとベッドから慌てて降りてリビングに向かいました。
「あ、起きたみたいだね」
政宗の予想通りそこにいたのはエプロンを着て料理をしている佐助でした。
「顔洗って着替えてきなよ。もうすぐ出来るから」
政宗は佐助の言葉に俯きながら頷き返すとくるりと背を向けて洗面所に向かいました。
洗面所の蛇口を思いっきり捻って政宗はばしゃばしゃと顔を洗いました。ですが火照った頬はいくら水をかけても戻りません。
「ご飯できたよー」
(夢じゃねぇ…!)
美味しそうな匂いも佐助が政宗を呼ぶ声も夢ではありません。
今、政宗の目の前にあるものはずっとずっと夢にみていたものでした。
「冷めちゃうよー」
「今行く!」
政宗は赤く腫れた瞳も火照る頬も気にせずキッチンに駆け出しました。
こんな弱い自分を彼なら受け入れてくれる。――そんな気がしました。
その日の夜、小十郎が帰って来るのを待っていた政宗は彼におかえりも言わずに一番最初に「佐助を泣かしたら許さねぇからな!」と指を差して言いました。
当の小十郎は「もちろんでございます」と答えます。それを聞いた政宗は「それでこそ漢だ!あ、風呂空いてるからな。いつもThank youな。小十郎。今日はよく休んでくれ。good night」と手を振って部屋に戻りました。
「―……政宗様、なんて勿体ないお言葉…!この小十郎感激いたしました…!」
昨日まで遅い反抗期を向かえていた政宗の事を忘れたのか小十郎は玄関で男らしく泣きました。
やはり片倉小十郎は何処か普通と比べたらズレているのでしょう。しかし、この男はとても政宗が大切でとても彼に甘いのです。
そしてもう1つ忘れていけないのは片倉小十郎の恋人、猿飛佐助の事です。
今更ですが佐助の事をお話しましょう。


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