ただその決して触れる事のない体をそっと抱き締めた。
「だ、んな、」
「泣くな、佐助」
「旦那」
はらり、零れ落ちる雫は美しかった。
「怖いか?」
「…」
この血塗れた腕で抱かれて。
この血塗れた腕を見て。
お前は心を痛めたのか。
「俺が怖いか?佐助」
「怖くない、ただ…」
ただあの真っ白だった弁丸だった少年が、真田源次郎幸村と名乗り今では躊躇いもなくその二槍を操り命を奪う事が佐助には受け入れられなかった。
「すまぬ、すまぬ佐助」
武人として生まれた幸村は命を奪う事が宿命だ。しかし佐助はあの純粋で真っ白な弁丸の影を幸村となった彼に探していた。
そんな中、今日の幸村の初陣。幸村は躊躇いもなくその槍を振り下ろした。そこには恐怖も焦りもなかった。それを佐助は見ていた。
(あの真っ白な弁丸様が)
(分かってたつもりだった)
(この人は誰よりも武士だと)
(でも実際は、受け入れられなかった)
「だんな、」
「泣くな、佐助」
「だんな、」
「いいのだ」
ぎゅうっと強くまた抱き締められた。
佐助はその腕の逞しさに、大きさにまた泣いた。
何時の間に、こんなにも成長したのだろうか。いや、ずっと傍にいた佐助は幸村の成長を誰よりも知っていた。知らないふりをしていた。気付きたくなかったのだ。
「佐助、」
戦場で交わした口付けは血の味がした。
紅に染まりし真白
08.0803
風花