にゃあ。

猫の鳴き声に幸村は庭を見た。一匹の猫がこちらを見て鳴いていた。
どうやら人に慣れているのか近付いてくる。
足元に擦り寄る猫に首を傾げる。己の暑苦しい性格のせいか猫という生き物に好かれる事はあまりないのだがどうやらこの猫は平気らしい。

「飼い猫か?」
「あれー?旦那と一緒にいたの?」
聞きなれた忍びの声に振り返る。
「お前の猫か?」
「違うよ。おいで」
佐助は猫の視線に合わせてしゃがみこんだ。猫もにゃー。と鳴きながら佐助に擦り寄る。
「この子、最近よく見かけてさ。」

にゃあ。
「にゃぁー。」

佐助がにゃぁー。と鳴いた。


……………なんだ、なんだ今のは。
今、佐助は鳴かなかったか?にゃぁー。と鳴いた気がするが俺の気のせいだろうか。ついに俺は幻聴まで聞こえる様になったのだろうか。
猫は佐助の足元で戯れている。

にゃあ。

猫が鳴いた。その瞬間、俺は瞬きを忘れ佐助を見た。
「にゃあ。」

鳴いた。佐助が鳴いた。確かに、にゃあ。と鳴いた。
猫が鳴けば佐助も鳴く。
「……佐助、」
「なに?旦那」
「なにをしておる」
「え、なにって?ん―、会話?」
「会話?」
「ほら、この子さ、俺が返事すると鳴き返してくれるんだよ」
見てて。そう言って佐助は「にゃあ。」と鳴く。

にゃー。
「にゃー。」
にゃあ。
「にゃあ。」

(…お館様ぁぁぁあ!!)

口に出してしまいそうな叫びをなんとか胸の奥で叫びに変えた。口にしたら猫が驚いて逃げてしまうかもしれないからだ。逃げてしまったら佐助の鳴き声が聞けなくなってしまう。それだけは避けたい。

にゃぁ。にゃあ。

この胸にこみあげる想いをどうすればよいのだろうか。漲る。たぎる。
この熱き想いを止められない。
「旦那!?」

佐助が驚いた顔で俺を見た。

「旦那鼻血!!」
つうっと鼻筋から何かが垂れる感覚に鼻を押さえれば手のひらに血が付いた。
「大丈夫?」
ぶち。
心配そうな表情の佐助を見て俺の中の何が音を立てて切れた気がした。

(父上、お許しください。幸村は、幸村は――!)

「佐助ぇぇぇ!!」
「え、ちょっ!旦那ぁ!?」

ぎゃあぁぁぁ!!と叫ぶ佐助を見た気がするが気にしない。佐助が悪いのだ。
けしからん。実にけしからん。
にゃあ。と鳴く佐助が可愛すぎるのが悪いのだ。





「で、実際はどうなのだ?」
「なにが」

佐助は不機嫌そうな表情で俺に背を向けていた。そんなに拗ねなくてもよいでござろう。可愛すぎる佐助が悪いのだ。だからつい襲っただけなのに。

「猫と会話出来るのか?」
「そんなわけないでしょ。
ただ俺が猫の鳴き声すると鳴き返すだけだもん」
だから会話してる様に見えるだけだと佐助は言う。

「今度俺もやってみるか」

俺がにゃあ。と鳴けばあの猫は返事をしてくれるだろうか。

「旦那は猫っていうかやっぱり虎だよね」

猫みたいに可愛げないもんという佐助に唇を寄せた。全くこやつは誠に可愛くない事ばかり申すがまぁよい、その減らず口を塞いでしまおう。



10.0218
風花



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