「またか」
低く怒りに震えた声が聞こえた気がして佐助は足を止め振り返った。
「佐助?」
前を歩いていた幸村は足を止めた佐助に気付き、振り向く。
「てめぇのそれは死んでも治らない様だな」
艶やかな黒髪に、凍てつく様な鋭い隻眼の少年の声に佐助は肩を震わせた。
佐助はこの少年を知らない。しかし、少年は佐助をその隻眼で嗤う。
「佐助」
隻眼の少年が佐助の名を呼ぶ。
知らない、知らない。佐助は知らないのだ。
いくら記憶を辿っても今の佐助の中にその隻眼の少年の名はない。しかし、佐助の何がが知っている。
そして同時に危険信号が鳴り響く。
「佐助、何をしている?」
幸村の手が佐助の肩を掴んだ。びくっと震える体に佐助は漸く息を吸い込んだ。
「知り合いか?」
隻眼の少年と佐助を見て幸村は尋ねる。佐助はどう答えていいのか分からない。
言葉が見つからない佐助を余所に隻眼の少年は幸村を見て、嗤った。
「相変わらずだな、真田幸村」
「そなたは誰だ?何故俺を知っている?」
「あんたも記憶がないのか。なら、尚更だ。おい、佐助」
「な、に?」
「俺についてこい。お前がいるべき場所はそこじゃない」
「どういう事?」
(聞きたくない。聞きたくない。だけど、俺は、知らないといけない。だって俺は、俺は――――?)
頭が痛い。佐助は浮遊感を感じた。まるで夢の中だ。
「そいつは、もうお前の知っている真田幸村じゃねぇ、そして、お前が」
少年の隻眼が細められる。優しく、まるで夢見るようにうっとりと。
「政宗様!」
その声に佐助は弾かれる様に顔を上げた。
「お前がいるべき場所は小十郎の隣だ」
政宗は首だけ動かし、振り返る。
「見つけましたぞ、政宗様」
隻眼の少年に近付いてくる男を見て佐助は時が止まった気がした。
「小十郎、さん…」
知らないはずなのに。
自分はこんな男を知らない。
しかし、佐助はその男を呼ぶ名を知っていた。
いや、その名しか佐助は知らない。
「小十郎さん」
佐助の口から、まるで甘える様な音がこぼれ落ちた。
輪廻転生
記憶有→伊達主従
記憶無→真田主従