何故だろう。夏の空気を吸い込むだけで息苦しくなるのは。
まるで焼け焦げそうな胸の痛み。
「佐助」
スウッと焼け焦げそうな灼熱が治まる。
振り向けばそこには、穏やかに微笑む幸村がいた。
「苦しくないか?」
「苦しかったけど…」
「今は?」
「へ、いき」
「そうか、ならいい」
そう言って微笑んだ幸村を見て佐助は小さく声を上げた。
「どうした?」
「なんでもないよ」
何故忘れていたのだろう。この焼き付きそうな痛みを佐助は知っていた。
前世で幸村を失った時に感じた物。
胸を焼く程の灼熱の痛み。
夏が来る度に思い出す。
「佐助」
「なに」
「見ろ、夕立だ」
ザァと降りだした空を見上げる幸村に視線をやれば佐助の胸の痛みは消えた。
幸村が此処にいる。
生きて此処にいる。
それだけが真実。
何を恐れる?
恐れる理由はない。
「旦那、」
「なんだ?」
「ありがとう」
「お前が笑っているなら俺はいい」
佐助の笑みに幸村もまた笑い返した。
「涼しいね」
「あぁ」
焼けたアスファルトは雨によって冷やされ、温度が落ち、雨に打たれた紫陽花の花が嬉しそうに咲いていた。
それらに気付いた佐助は、一つ深呼吸をした。
苦しい程の焼け付きそうな胸の痛みは消えていた。
枯れた大地に命の雫を
08.0727
風花