ゴポ、ゴポリ。
水泡が水面を目指していく。
それをただぼーっと見つめながら、佐助は身を水の中に身を預けた。
体は重く沈んでいく。
しかし、水面は光を反射しキラキラ輝いている。

(ああ、きれい)

ぴかぴか光る。
ゴポ、と聞こえる水泡の音。
優しい。この光の世界は優しく心地好い。
佐助は薄く瞳を閉じる。
青色の世界。光輝く世界。
美しいと思う。だけど、何処かその光輝く世界は物足りなかった。
綺麗な世界、光輝く世界。全ての始まり世界。
しかし、何かが足りない。

(どうして?)

ゴポリ。佐助の口の中の酸素はそう音を立てて全て無くなった。
呼吸が出来ない。苦しい、苦しい。

(ああ、呼吸ってどうするんだっけ?)

佐助はぼんやりとそんな事を思いながら、水面に手を伸ばした。途端、グッと力強い何かに腕を捕まれ、引き上げられる感覚がした。

「馬鹿者」

水面から引き摺り出されごぼっ、ごぼっ、と咳き込む。

「だ、んな…?」
「何時まで潜っておるのだ、入水自殺でもするつもりか、この馬鹿者」

言葉は怒っているようだか、その表情は何処か優しい。

「綺麗だったであろう?」
「あ、うん。ぴかぴかしてた」
「そうか」
「でもね、眩しくなかったんだ」
「ん?」
「旦那を見た瞬間、眩しくて、世界がもっと輝いて見えた」
「そうか」

幸村は穏やかな笑みを浮かべると、佐助の腕をひいた。
ばっしゃーん。と飛び散る水しぶき。
二人はその勢いで水の中に沈んだ。
反射的に閉じた瞳を開くと、目の前には幸村の笑顔。そして触れられる唇。
冷たく気持ちいい水の中、幸村の唇だけが熱を持っていた。
そこから触れられて幸村の熱が佐助にも移る。

(あつい…、溶けてしまいそう)

呼吸も出来ないまま、佐助と幸村は水面に上がった。
バシャッっと顔を出して、大きく息を吸い込む。

「窒息死したら、どーすんの」
「その時は決まってるだろ?人工呼吸だ」

二人とも抱き合いながら、そんな戯れ言を言い合う。

「やっぱり、」
「佐助?」
「旦那がいないと世界は眩しくないよ」
「俺もだ」

水の中で交わした口付け。それは永久に続けばいいと願う程幸せに満ちて、世界は眩しく輝いて見えた。

「佐助」
「んっ、」

また口付けられる。

「愛してる」

それは無数の泡沫の様に常に生まれる想い。
何度も、何度も新しく生まれる想い。

「だいすき、旦那」

冷たい体温。しかし、二人共に抱き合えばまるで溶けてしまいそうな熱を持っている。

(溶けてしまいそう!)

それもいいかもしれない。あ、でも、やっぱ嫌だ。

(だって、貴方と一緒じゃないと世界は眩しくないから)

きらきら光る世界。
反射する水の光。
全てが美しい中、幸村の笑顔が一番美しく思えた。

(だいすき、)

どうか泡の様に消えないで。ずっと傍にいて。
貴方が笑うだけで幸せだから。
瞳を閉じた世界は変わらずに光輝いていた。


燦々と光輝く蒼い世界で


09.0605
風花


紅のイメージがある真田主従。
そんな中、蒼色の世界というイメージを
使ってみたくて
書いたお話です。
蒼色も似合うと思います。
燦々と光輝く太陽の下
水の中で戯れる二人。
そんな二人が書けて幸せです。



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