「何を悩んでおる」

低く響く敬愛する師の言葉に幸村は身を堅くした。

「お主らしくもない」
「お館様…」
「己の想いに嘘はつけん。そうだろう?幸村よ」
「……分かっております、お館様、ですが某は…」
「失ってからは遅いのだぞ、幸村」

諭される様な声音の信玄に幸村はハッと顔を上げた。

「なんという顔をしておる?いつもの覇気はどうした?」

穏やかに温かい声音に幸村は瞳を潤ませた。
信玄は全てを知っていながら尚、笑うのだ。
それが幸村には心苦しく同時に嬉しく思った。

「申し訳ありませぬ」
「お前なら安心してあ奴を任せられる」
「申し訳ありませぬ…」
「幸村よ、」
「はい、」
「佐助を。我が孫を頼む」
「ありがとうございます、お館様…!」

幸村は一雫の涙を流した。


「お前は、どうして望まない?」
「かすが?」
「あいつは、真田をお前を選らんでいる。なのに何故お前はそれを受け取らない?」
「……怖いんだよ、拒否されたら、俺はもうきっと生きていけない」
「何故、答えが分かっていてもお前は逃げる?真田は最初からお前を選んでいる…!」
「だから怖いんだよ。旦那の優しさは知ってる。だから怖いんだ、あの優しさがずっとある事が」
「それは、そなたがかいのとらのまごだからですか」

神聖な声が響いた。

「謙信様!」

かすがが直ぐ様、謙信の傍に膝をついた。

「薄々気付いてましたよ、俺とあの人の関係を」
「だからこわいのですか?さなだゆきむらがあなたをおもうきもちが」
「えぇ、あの人が俺と大将の関係を知れば、俺と旦那の関係は変わってしまう、だから―…」
「こわいのですね」
「怖い、……怖いですよ、だって変わるんです」
「かわらないものが」
「え?」
「そなたとさなだゆきむらにはなにがあってもかわらないなにかがあるのではないでしょうか」
「変わらないもの?」
「そなたがさなだゆきむらをおもうきもち、さなだゆきむらがそなたをおもうきもち、それはどんなことがあっても、どんなじじつがあろうともかわらない。ちがいますか?」
「変わらない想い…」
「私も謙信様のお言葉に共感いたします」
「かすが…」
「行け」
「でも、かすが、」
「こころのままに、」
「心のまま?」
「そうです、こころのままにつたえればよろしいのです。そなたのおもうきもちをありのままにつたえなさい」

軍神は穏やかに微笑んだ。



幸村は走っていた。
馬も使わず、武器も持たすにただがむしゃらに走っていた。

(佐助、佐助ー!)

伝えたい、伝えなければならない言葉がある。

「佐助!」
「叫ばなくても聞こえてるよ」

小さな、だがしかしはっきり聞こえた声に幸村は立ち止まった。

「さ、すけ、」
「旦那」

幸村と佐助は互いに見つめあった。そして二人は同時に口を開く。


「佐助、俺は、」
「旦那、俺ね、」

あぁ、何を恐れていたのだろう。
変わらないものは確かに此処に、この胸の奥にあるのに。
だから、
伝われ。

「お前が好きだ!」
「旦那が好きだよ」


溢れる想い


09.0126
風花

アンケートコメントから
閃いたお話です。
時様ありがとうございました。
佐助と幸村がひたすら
ぐるぐるするお話ですが
凄く個人的に気に入った
お話になりました。
佐助がお館様の孫という
捏造話で申し訳ありません。


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