今日は土曜。部活動がある幸村は朝早く出かけて行った。部屋に残った佐助は炬燵に入りウトウトとその暖かさに眠りに落ちた。



「佐助、」
「……ん、」

聞き慣れた声が普段より堅く緊張していたため佐助は未だ動かない思考のまま顔だけを上げた。スッと横から手が伸びて来て佐助の前髪を払った。

「汗をかいている。悪夢でも見たのか?」

幸村はすでに私服に着替えていて彼が帰宅した事に今気付いた。深く眠り過ぎたと佐助は鉛の様に重い頭を手で押さえた。

「夢……。夢を、見たんだ変な夢だった」

佐助は深く息を吐きながら腕を枕にして炬燵で寝ていた自分の上半身をゆっくりと起こした。

「俺とアンタが草原に二人っきりで立ってた」
「そうか…」
「アンタ、真っ赤な服着てて、見たことない顔で俺に言ったんだ」


『愛してる』


「夢の中の俺はすぐその場から逃げる様に消えたんだけど、夢見てる俺はまだアンタを見てて、でもアンタ笑った。酷く悲しそうな顔で笑った…」
「そうか」
「嘘みたいに簡単に“愛してる”なんて言われて俺は凄く嬉しかった。でも何故か凄く悲しくて、俺は逃げてた」
「夢は夢だ、佐助。」
「……そうだね、だって今此処にいるもんね」

まだ完全に機能しない脳に佐助は今こうして幸村と会話も夢かもしれないと錯覚を覚えた。何故なら普段のと違って幸村の声は優し過ぎた。まるであの夢に出てきた男の様に思えた。


「好き。愛してる。今なら簡単に言えるのに夢では言えなかった。」
「それは…」
「夢は夢だけど。俺は夢の中でもあんな顔させたくなかった…」
「佐助…」

大丈夫だと幸村は夕日色の髪を優しく撫でた。
かつて遥か昔、幸村が夢を見て恐いと泣いていた夜に夕日色の少年は幸村を抱き締め頭を撫で続けてくれた。

『大丈夫です。恐いものはありませんよ。弁丸様』

幼き頃、何度か泣き疲れて眠ってしまった事があった。その時、傍にあった温もりは酷く優しくて暖かかった。

「大丈夫だ、佐助。恐くない」
「好きだよ、幸。だから傍にいて。」

震える体を抱き締めて幸村はその柔らかい夕日色の髪を撫でた。



(嗚呼、何故神はこんな酷い事をした。俺はただもう一度佐助に会いたいと願っただけなのに、)

前世の記憶を持つ幸村と佐助は違う。佐助は前世の記憶を持たない。だが運命とは皮肉なもので今もこうして幸村と佐助は共にいる。そして厄介なのは佐助の記憶。佐助は幸村と出会ってから前世の記憶が時々、呼び起こされるらしい。だが佐助の記憶は断片的で数少ない。それでも現世の佐助が前世の感情を受け取る事は佐助自身を不安定にさせる。
幸村は己の過失に後悔しながらも佐助の傍にいる。
それは前世での出来事、先程佐助が見た夢から全てが始まったのだから。


『愛してる』と終わりを告げたのは前世の幸村。

『好きだ』と始まりを告げたのは現世の佐助。



あの頃と今も変わらない。二人は互いに一方的に愛を告げただけ。
それでも佐助が幸村を求める今が幸せだと感じる自分は身勝手で我儘だと幸村は思った。



終わりも始まりも互いの身勝手で我儘な愛の告白から



08.0717
風花



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