「佐助ー!」
佐助はほつれた赤い小さな着物を縫っていた。そんな時に駆け寄る足音と楽しげに己の名を呼ぶ声が聞こえ顔を上げた。
「弁丸様、お帰りなさいませ。またお召し物を汚しましたね、あぁこんなにも…」
「佐助に土産だ!」
「え?」
「紅葉がきれいでな」
ほらと小さな弁丸の手のひらには弁丸のそれによく似た形の紅葉があった。
「きれいであろう?」
「綺麗ですね」
「うむ!佐助は何をしてたのだ?」
「弁丸様のほつれた着物を直してたんですよ」
佐助は赤い糸を弁丸に見せた。
「佐助、佐助!」
「なんですか?」
「それをかしてくれないか?」
「いいですよ」
赤い糸を弁丸に渡せば、弁丸はいそいそとその赤い糸を伸ばし、佐助の手を取った。
「弁丸様?」
「手をかせ、佐助」
「あ、はい」
佐助の小指に赤い糸を巻き付かせ弁丸は糸と格闘しながら佐助の小指に赤い糸を縛り付けた。
「弁丸様?なにを」
「父上が言ってたのだ。見えない運命の糸があるのだと」
「見えない運命の糸ですか?」
「弁丸と佐助には絶対、父上が言って見えない運命の糸が繋がってるのだ」
「俺と弁丸様に…」
「ずっと一緒だぞ、佐助」
「はい、弁丸様」
にっこり笑った弁丸に佐助は穏やかに微笑んだ。
「夢…」
佐助はぼうっとする頭で先程まで見ていた懐かしき思い出を思い出していた。
「懐かしいな…」
あまりの懐かしさについ涙が零れそうになった。
「これのせいかな?」
佐助は編みかけの赤いマフラーを見て苦笑した。
「早く完成させなくっちゃ」
佐助は時計を見て、編みかけのマフラーを手に取った。
佐助は器用に毛糸を編み込んでいく。
部屋には穏やかな曲が流れ、佐助は口元に笑みを浮かべた。
(喜んでくれるかな…)
「佐助ー!」
隣部屋から呼ばれる声がして佐助はすぐさまクローゼットに編みかけの毛糸を隠した。
トタトタと数回足音がすれば、部屋のドアを開けられる。
「どうしたの?旦那」
「お茶の時間にしないか?」
「うん、そうだね」
時計を見て佐助は椅子から立ち上がり部屋を出た。
残された幸村は佐助の部屋をグルッと見渡した。
佐助が座っていた椅子に座ってみればそれは簡単に見つけた。
「なんだ?これは」
幸村は椅子から立ち上がるとクローゼットに近寄った。
幸村の手には一本の赤い毛糸。
幸村はそのままクローゼットを開けた。
「旦那、お茶の準備でき……って!なにしてんの!?」
佐助は自室にて編みかけの毛糸を持つ幸村の姿を見つけた。
「これはマフラーか?」
「そうだけど」
「いつ出来る?」
「後ちょっとだけど」
「なら待つ」
「ちょっと待ってよ!誰も旦那にあげるなんて言ってないじゃんか!」
「なら誰にやるつもりだ?俺以外にやるなら没収するぞ」
「ゔ…、確かに旦那にやるつもりだけど…」
「なら、続けてくれ」
「でも、お茶…」
「お茶を飲みながらでも構わない」
「なら下に行こう」
佐助は編みかけのマフラーを持って幸村と共にリビングに向かった。
「ねぇ、旦那」
「なんだ?」
幸村は佐助と共にソファーに座りながらお茶を啜り、佐助の声に応えた。
「そんなに見てたら編み難いんだけど」
「いいではないか。別に減るものではない」
「気持ちの問題なんだけど」
「気にするな」
幸村は笑って佐助の手先を見つめた。
そして数時間後。
「出来たー!」
「中々の出来だな」
「当たり前でしょ?俺様を誰だと思ってるの?」
「そうだったな」
「ねぇ、つけてみて」
「あぁ」
幸村は完成したマフラーを佐助から受け取り首元につけた。
「暖かいな」
「良かった」
「ありがとう、佐助」
「どういたしまして」
はにかんで笑う佐助に、幸村は残った赤い毛糸に目か行った。
「旦那?」
幸村は己の小指に器用に赤い毛糸を結ぶと、佐助の手を取った。
「覚えているか?」
そう微笑まれ、佐助の小指に器用に赤い毛糸を結ぶ幸村を見て佐助は先程見た夢を思い出した。
「うん、…覚えてるよ」
「“ずっと一緒だぞ、佐助”」
「覚えてたんだね…」
「忘れるものか、あれが佐助との一番最初の約束だったからな」
「そうだったね」
佐助は己の小指に結ばれた赤い毛糸を見て微笑んだ。
「約束、ずっと守ってくれたね」
「当たり前だ。お前との約束を俺が破った事があったか?」
「……そうだったね」
「佐助、」
「なに?」
「俺は誓う。また俺とお前が別れる時が来ようとまたお前を見つけ出す」
「旦那…」
「だから、これからも傍にいてくれ」
「うん、ずっと一緒にいるよ」
二人は向き合い、その赤い毛糸が結われている手を互いに絡めた。
「ずっと貴方の傍に…」
「もうお前を二度と離さない」
絡む吐息、重なる唇。
幸村と佐助の小指には赤い毛糸が。
もう二度と離れない様に。
俺と貴方に赤い糸を
09.0122
風花
アンケートコメントから
ピンときて書いたお話です。
二人の幸せを願います。
どうか、
二人一緒に笑っていて。