俺が佐助として生まれて、まだ間もないのだと思う。それは旦那と出会った時に、俺は、佐助は生まれたのだ。



名はあった。“猿飛佐助”。それが、俺を示す名だった。通り名と言ってもいい。
いつの間にか、俺はその“猿飛佐助”という名を無意識に認識していた。いや、それしか自分を表す名前がなかったのだと思う。

“猿飛佐助”が俺を示す名だと思っていた。
だけど、それは違った。


「佐助か、いい名前だな」

あの人に初めて会って、名前を呼ばれて。
今までの“猿飛佐助”は中身がなくて空っぽだった。
そんな空っぽな俺を壊し、新しく作り上げたのはあの人。

「佐助」

名前を呼ばれる度に、俺はただの猿飛佐助から一人の「佐助」になった。
意志を持つ「佐助」になった。
あの人が俺に命を与えてくれた。
だから、俺はあの人だけの「佐助」になろうと誓った。

この「佐助」という名を今まで好きになれなかったけど、この人のために自分は存在するのではないかと思った。
だから、俺は佐助でよかったのだと思う。
誰かを助けるために存在する名。
ならばこの命はあの人のために使おうと決めた。

「佐助」

あぁ、ほら、貴方に名前を呼ばれる度に、空っぽだった俺の心は満たされ、貴方だけの佐助になる。

「佐助、」
「なに?旦那」
「呼んでみたかっただけだ」
「もっと呼んでよ」
「佐助」

貴方に呼ばれる度に、俺は俺でいられる。
佐助という存在が証明される。

「俺ね、旦那の佐助でよかった」
「ん?何か言ったか?」
「別に、なんでもないよ」


貴方が俺を佐助と呼んだ。
その時から、俺は貴方だけの佐助になった。
空っぽだった佐助を構築したのは貴方。
だから、今更、別の「佐助」になるつもりもないし、なれやしない。

「ねぇ、旦那」
「なんだ?」
「ずっと傍にいるからね」
「当たり前だ。お前は俺の佐助なのだからな」

そう、俺は貴方だけの佐助。

(貴方なしの俺なんて存在しない)


貴方だけの佐助



「佐助」には二通りの意味があります。
一つは、佐助自身を指す名前。
もう1つは、名前の意味です。
佐助の名前の意味は「助ける」という意味でとってください。だから、佐助=助ける人という意味でとらえてください。

08.1231
風花


茶会で真剣に考えました。
そんな中であたしなりに
行き着いた答え。
それがこのお話です。



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テーマ「人外ファンタジー」
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