「忍びなんて代えの効く道具なんです」
「馬鹿が!」
怒鳴り声と共に振り上げられる拳。
幸村の拳は見事、佐助の右頬に命中した。
「お前の代わりなどいない!何故分からない!お前はお前だ!佐助は佐助だ!!」
「だんな…、」
「だから、悲しい事を言うな。お前の代わりなど何処にもいない」
佐助はその言葉に目から涙を零した。
忍びは代えの効く道具。ずっとずっとそう幼い頃より教えられた。
だから自分の代わりは沢山いると思った。
所詮、自分は代えの効く道具でしかないと思っていた。だから怪我をしても、それがどれ程酷い怪我でも、主を守るためなら死んでも良かった。
それなのにこの主は忍びを「馬鹿が!」と怒鳴り殴った。
そして心を痛めている。たった一人の忍びのために。
佐助はその気持ちを理解出来なかった。
しかし主は、幸村は、佐助を代えの効く道具とは思っていない。むしろ人として存在しろと言う。
「もうこの様な馬鹿な真似はするな」
「はい…」
「佐助、お前は佐助だ。たった一人の佐助だ」
幸村はそれだけを告げて、部屋を後にした。
残された佐助は、今更になって怪我の痛みに気付いた。そして気付いてしまえた、意識は痛みに持っていかれる。
(痛い…)
痛いのは当たり前だ。
生きているのだから痛みを感じる。
(生きてる、この俺が?)
(忍びは代えの効く道具なのに)
(感情を持ってしまった)
「真田、幸村…」
(あんた、変なお人だよ)
佐助は痛む体を横たわらせて眠りに堕ちた。
世界に貴方は
たった一人しかいない
08.1209
風花