道路の淵に溺れることもなかった







少しずつ、世界はギルガリムに侵され始めている。ディセンダーであるあの子の力無しに、ギルガリムは止められない。誰も、自分でさえも。あの子と自分は違う役割を持って生まれてきたディセンダー。あの子は世界樹の危機を救うために。自分はあの子にもしもの事があれば助けるために。それぞれこの世界のために生まれてきた。なのにあの子は認められなかった。逆に世界を陥れる者として吊し上げられた。あの子は可哀想なほどに、献身的に働いたというのに、世界とは、人とは残酷なモノだ。


「あなたは何とか出来なくて?」


知的だったハズの女僧侶が声をかけた。女僧侶は自分がディセンダーと知っている。そしてディセンダーとは何たるかを深く理解しているはずだった。結局女僧侶はあの子の大切さを気付かなかったが。


「あの子がいないとどうにもならない。ギルガリムに対抗できる力はあの子しか持っていない」


「何てことかしら!これではテレジアは…」


女僧侶と男剣士が何かを話し合っていた。その様はとても可笑しくて、自分は吐き気がした。あの子を食い物にした連中は、あの子がいないと何も出来ない無能だったんだ。いや、初めから分かっていた事だけれど。彼らは自ら危機を呼び寄せた。あの子を失った世界はギルガリムに侵略され、いずれ吸収される。それがこのテレジアの運命…。


「あの子は誰よりも世界樹を愛していた」


狂おしいほどに。狂信的に世界樹を愛している。そして何より信頼している。そのあの子が世界樹を残して死んだり、消えるはずはない。


「何が言いたいんだ?」


狩人の男が厳しい視線をこちらに向ける。それは嫌悪では無いけれど確かに苛立ちを含んでいる。他の者たちも同じような視線を向けている。ただ、あいつだけは困惑?疑問?全てを信じきれない目をしている。


「何故あの子はこの世界を裏切る必要がある?あの子は何より世界樹を愛している。その世界樹を危険に晒すなんて考えられない」


それは確かに正論なはずだった。しかし彼らの誰もがそれを真剣に受け止めなかった。
嗚呼、なんと人の信頼、友情とは脆いモノか。自分は吐き気を抑えられない。何て気持ち悪い奴らなんだ。無力、無能、役立たず。思い知ればいい。あの子の深い深い闇の淵を…。

































(闇が迫る)





 
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