さよならと言われない彼は滑稽だ







裏切った。
あの誰よりも優しくて世界樹を愛している彼女が。最初は信じられなかった。でも、みんなが口々にそう言うと、自分まで彼女を信じられなくなった。そう、彼女がそんな事をするはずないと知っているのに。
でも、彼女は弁解も何もしなかった。
いや、どっちみち誰も信じたりしなかっただろうな。


「ねぇ、悲しくないのか?」


ベンチに座って空を仰いでいたら、声をかけられた。そいつは彼女と同じディセンダーって名乗っていた気がした。今はどうでも良い話だけど。


「何が?」


今の自分はすごく素っ気ないと思う。それは彼女に裏切られたからなのか、彼女を最後まで信じられなかったからなのか、分からないけど。


「彼女は全てを失った。哀れな娘」


苛ついた。こいつは彼女の何を知っていると言うのだろうか。一番彼女と接点がないのに。依頼の時も普段の時も、こいつは彼女と一番一緒にいない。いや、むしろこいつが一人になる事を願っているようだった。彼女は何回もこいつに接触して仲良くなろうと試みていた。彼女はこのテレジアにいるモノを全部愛しているから。


「お前に何が分かるんだよ」


彼女の何を、自分の何を知っていると言うのだ。苛々する。こいつの淡々とした言い方や無表情な顔、何でも見通したような瞳。全部苛々する。


「分かる分からないじゃない。知っているかいないかだ。お前たちは彼女を知っていなかった。それだけだ」


いかにもこいつは彼女を知っているみたいな言い方、腹が立つ。


「お前は哀れだ。そして滑稽だ」


彼女に何も言われないお前は、彼女にとって何でもなかったんだろう。
そう言われた時、何も言い返せなかった。
彼女は確かに何も言わなかった。苦しみも悲しみも。そして別れさえ、言われなかった。


「彼女を信じられなかったお前に、彼女は何を伝えると言うんだ?」


全てが悲しく思えてしまった…。





































(そう、彼女は誰よりも全てを愛していたのに…)





 
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