愛されないことを嘲笑ったこともなかった







あの子は裏切り者でも何でもない。純粋に世界樹を愛している少女だ。自分はそれを一番よく知っている。あの子はよく世界樹の麓に行って、世界樹の声を聴いている。ざわざわと木々がさざめく音があの子の子守歌だった。あの子はテレジアの誰よりも世界樹を愛し、守ろうとしている。自分の存在だって危なくなってきているのに、だ。唯一の親の為に必死なのに…。
誰も分かってはくれないんだ。
アイリリーもドープルーンもカヴァダも、誰も。彼女の苦しみも痛みも悲しみも理解出来ていない。病で苦しむ親を見守る苦しみが胸を満たしているだろう。身を裂くような痛みが駆け抜けているだろう。消滅するかもしれない事に悲しんでいるだろう。なのに全部、あの子は捨ててしまった。感情も痛みも、全て。世界樹に愛されていたあの子は一気に全てのモノを失った。何でこんな事になってしまったんだろう。あの子は何もしてなかったのに、何故彼らはあの子が裏切り者なんて言ったのだろう。
わからない。
ただ分かるのは、それを言った事によりあの子は姿を消した。彼女は全てを失い、姿を消した。まるで初めからいなかったかのようにあの子の存在は消えた。誰もそれを不審に思わない。だって彼らの中ではあの子は裏切り者で、消えてほしかった存在だから。それは何よりも悲しい事だと思う。存在を否定されているのと同じモノだと思う。
あの子はいつも人に愛を与える人だった。そして自らは愛を求めない人だった。博愛と言うにはあまりにも重い愛だった。そう、あの子はテレジアにある全ての生命を愛していたんだ。
あの子はある意味可哀想な子だった。愛を与えるだけしか出来ず、与えられる事がない。けれどあの子はそれを悲しんだり嘆く事もなかった。そう、あの時見た最後のあの子すら、愛を受け取れない事を悲しんだり嘆いたりしなかった。嘲笑うことも、なかった。愚かな娘だと罵る事もなかった。あの子は知っていたんだろう。自分に愛が与えられる事がない事を。
あの子は悲しいほど、全てを理解していたと思う。

































(あの子にとってそれは当たり前過ぎたから)





 
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