笑顔の少年


 
 
 
 
 
水がうねるような感覚。
襲い来る壮絶なる何かの流れ。
頭の中を目まぐるしく駆け巡る何かの映像。
果たして自分は何者なのか。
それが分からなくなるような空間だった。
私は、俺は、僕は…。
その時一つの光が自分の前に下りてくる。
嗚呼、これが自分を助けてくれる。
その光もまたこの流れに合わせたようにうねりながら告げる。
――対価を…、そして再生を…――
僕はその光に手を伸ばした。
そして再び再生する世界に、ゆっくりと目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
暗い暗い牢屋の中で会ったのはいたって普通な少年。茶色い髪を逆立てて、いかにも活発そうな感じを醸し出し、その髪と同じ色をした目はまだまだ幼さを残していた。
彼の名はロイド・アーヴィング。
イセリアから来たらしく、そこでディザイアンと交わされていた不可侵条約を思いっ切り破ってしまって村から追い出されたらしい。彼は何とあの五聖刃のフォシテスを倒した者として追われているそうです。なかなかの腕だと思ったのですが、彼を見る限りそこまで強そうには見えないんですよね…。
 
 
「それで?出る方法は考えてますか?」
 
 
そして、上記の一番上で述べたと思いますが、現在牢屋の中に入れられています。本気で逃げようと思えば不可能ではありませんが、面倒事は起こしたくないのでとりあえず黙っていたのですが、彼が来たのでついでに脱出しようかと考えてます。
しかし、ロイドには良い案が思いつかないようです。…全く使えない奴ですね…。
 
 
「っ!?何か寒気が…」
 
 
「気のせいじゃありませんか?」
 
 
ちょっと油断してうっかりオーラが流れてしまったようです。まあロイドはおそらく野生の勘で気付いたのではないかと思ってますが…。それにしても、とりあえず目の前にいる看守がいなくなれば僕の魔術でこの邪魔な鉄格子を吹き飛ばしてあげても良いんですがね…。残念ながらそれはありえないようですね。
そんな事を考えながら周りを見回していると、ロイドのつけている指輪に目が留まる。ロイドが指輪なんて性格とか考えるとまず似合いません。そういうのは貴族様とかがつけるような奴では…?
 
 
「ロイド、その指輪は…?」
 
 
「ん?ああ、ソーサラーリングだよ。火が出せるんだ」
 
 
ロイドはそう言った瞬間に、自分の手の中に脱獄のための重要なアイテムがある事に漸く気付いたようです。てか、今まで気付かなかったんですか?アホですか?アホですよね?
責めるような視線をぶつけ続けていると、ロイドは耐え切れなくなったように視線を外して看守をしているディザイアンに向かって火を放った。上手い事にその火はディザイアンの鎧に点火されました。そしてそれに気付いたディザイアンが慌てたようにこの部屋から出て行った。
 
 
「さて、後は牢屋を壊しますか…」
 
 
そう思って魔術を唱えようとする前に、ロイドが牢屋のレバーを押して鉄格子を簡単に開けてしまった。何だ、簡単に出られるんですね…。
呆れて溜息をつきながら牢屋の外へと足を踏み出す。
 
 
「さて、武器はどこですか?」
 
 
こういう時って大体間抜けで武器を近くに置いとくのがパターンですよね。
 
 
「こっちだ」
 
 
周囲を探っていると、ロイドが奥の方から声をかけてきて、僕と自分の武器を持ってきた。ロイドは腰に双剣を挿している。彼は二刀流だったんですか…。そして彼の手の上には僕の武器が握られている。真っ黒な二丁拳銃。
 
 
「お前のはこれか?」
 
 
「ええ」
 
 
黒塗りで艶が出ている洗礼されたフォルム。そして所々に施されている銀の装飾がこの拳銃の美しさをされに引き立てている。
その拳銃を受け取って自分の腰にあるホルダーに戻すとしっくりとした。やはりあるべき物が無いと落ち着きませんからね。
 
 
「さて、これからどうします?」
 
 
「とりあえず脱出だろ。てかフェルディは何で掴まってんだよ?」
 
 
「それは個人の事情により企業秘密です」
 
 
唇に人差し指を当てて面白そうに笑うと、何だそれ、と呆れたような視線を頂きました。…あなたに馬鹿にされると何だが苛ってしますね!まあ、そんな事は表情に出さないでしまったままにして、銃の安全装置をさり気無く外しておいた。これでいつ敵が来ても対応する事が出来ます。
 
 
「よし、行こう」
 
 
意気込んで双剣を強く握って走り出すロイドの後ろに続いて、僕も遅れない程度に走り出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「遅いです」
 
 
パンとに二丁拳銃から放たれた弾丸が敵の腕を貫き、その手から武器を奪う。そこへロイドが身を屈めながら懐へ突っ込んでいき、双剣を振るう。相手の体に十字を刻み込むと、その体はあっさりと床に崩れ、死体となった。
ロイドは血の付いた双剣を振って血を払ってから鞘に収める。僕も同じように煙を吹き消してホルダーへとしまった。
 
 
「ロイドは随分と抵抗が無いんですね」
 
 
あっさりと敵を切り伏せるロイドを見ていると、そこには迷いも躊躇いも何も無かった。ただこれが普通だと言わんばかりに戦っていた。別に僕は抵抗があるわけではありませんが、ロイドがそれを抵抗していない所を見ると、何故か問いかけてみたくなるんです。
 
 
「別に…、ディザイアンは仇だから…」
 
 
仇…。何か昔になったのでしょうか?いえ、それは僕が干渉すべき事ではありませんね。
 
 
「そういうフェルディはどうなんだよ」
 
 
「僕ですか?僕は彼らが嫌いですから…。彼らは人々から笑顔を奪い取る」
 
 
笑顔を奪い取るのは良くない事です。笑顔は人が生きる上で必要な感情。それを奪い取る彼らが嫌いです。
 
 
「笑顔…」
 
 
「ええ、だから私は彼らに容赦など致しません。さあ、ロイド。行きましょう。あなたの笑顔のために」
 
 
にこりと笑って拳銃をくるりと手の中だけで回転させると、タイミングを図ったかのように現れる敵。僕はそいつの心臓に向けて発砲し、すぐ命を奪う。しかしその後ろからやって来た敵が大きな声で何かを叫ぶ。
 
 
「その前に脱出しないと行けませんね」
 
 
苦笑いしながらロイドと共に走ると、ロイドは嬉しそうな笑顔を浮かべた。それからどこかの部屋に適当に飛び込んで一息ついた。ここまで来たのは良いのですか、これからどうしましょうか…。
 
 
「誰だっ!?」
 
 
なんて思っていたらこの部屋には別の誰かがいたようです。服装からしてかなり偉い人物。青い長い髪を前で結んでいる。その人は警戒してようにマントを翻し、こちらに魔術を放とうと手を突き出す。そんな彼を見て、僕は言いたい事が浮かんできて、一歩前に進み出ました。
 
 
「あなたがここの責任者ですね?はっきり言わせてもらいますが、ここは牢屋の管理から部下の躾まで甘すぎます。大体牢屋なのにも関わらずあんな簡単に開けられること自体ありえません。それにあなたが僕たちを連れてきた人たちの責任者なんですから、僕たちの事を把握しといてもらわないと困るんですけど?自己紹介とかしませんからね?どうしてもして欲しいのなら土下座して額を床に擦り付けながら乞いなさい。と言うかそんな情けないから僕たちにあっさり逃げ出されるんですよ。分かってます?」
 
 
「「………」」
 
 
腕を組んでつらつらち考えていた不平不満を吐き出すと、二人は何やら冷や汗をかいて一歩後退ろうとしたので、その足元に弾丸を一発ずつ撃ち込んでおいた。ピタリと止まった足を確認しながらまたしてもつらつらと意見を述べていると、ロイドがおずおずと声をかけてきた。
 
 
「あのさ…」
 
 
「言い訳無用!僕が求めているものはこの状況の改善です!と言うわけであなた!名乗りなさい!」
 
 
「どういうわけだ!?」
 
 
青い髪を振り乱してツッコミを入れてくれた事には感謝します。だけど…さっさと名乗れ…ボケ!
 
 
「ゆ、ユアンだ…」
 
 
僕から発せられるオーラを呼んだ青い髪の男性、ユアンはきっちりと名乗ってくれました。いやぁ、素直なのはいい事ですね。
 
 
「ではユアン。僕とロイドを今すぐ解放して下さい。僕たちの事を知らなかったのなら問題ないでしょう?」
 
 
僕たちを知らなかったという事は拘束している理由も無い。正論である故にユアンは顔を歪めて何かを言いかけていた。けれど言い訳なんて無用。こちらには拘束され続けてる理由も義務も無いのです。
 
 
「しかしっ!」
 
 
何やら僕たちをここから出したくない何かがあるのかユアンは酷く渋っている。そうして渋っている間に、僕たちが入ってきたドアとは反対のドアから屈強そうな男性が乱入してきた。
 
 
「リーダー!神子たちが侵入した模様ですぞ!」
 
 
その人の姿を見た瞬間に、ロイドの表情が固まる。どうやら知り合い…と言うか顔見知りのようです。
 
 
「ボータ。そいつがロイドだ」
 
 
ユアンがロイドの名前を言った瞬間に、僕は自分が墓穴を掘っていた事に気付いた。あー!うっかり彼の名前を言ってしまいました…。
 
 
「…そうでしたか、これは傑作ですな」
 
 
傑作?それに何故ロイドの事を知っているのですか?顔を見ても驚かなかったのに、名前を聞くと驚いた。とすると、彼はロイドの事を知っているというよりも、聞かされた。もしくは聞いていたと判断するべきなのでしょうか…?
 
 
「ああ。私は一旦退く。奴に、私のことが知られては計画が水の泡だ」


「神子の処理はいかがなさいますか?」


「お前に任せる」


「…了解しましたぞ」
 
 
…神子?ここに神子が来る…?もしや、ロイドはあの神子様と知り合いなのか…?確か今度の神子はイセリアの人間だと聞いていたけれど、まさかそれがロイドと知り合いだと?
 
 
「…ロイド。次こそは貴様を我が物とする。覚悟しておくのだな」


「な、何気持ち悪いこと言ってんだよ!」
 
 
ロイドは顔を真っ青にしながら後退り、さらには顔を引きつらせていた。えー、世の中の良い子の皆さんは誤解を招かないような発言をする事をお勧めします。とりあえずここはギャグのために言わせてもらいましょう。
 
 
「あなたってホモなんですか?」
 
 
僕がそう言った瞬間のユアンのこけっぷりを別の人にも見せてあげたかったですねぇ…。そりゃあ見事だったんですよ?
そんなわけあるかっ!と大きな声で叫んだユアンはそのままドアを潜っていなくなってしまった。ああ、弄る人がいなくなってしまって非常に残念です。
しょうも無い事を笑っていたら、ユアンにボータと呼ばれていた男性が曲刀をすらりと抜いて構えた。その後ろに控えているディザイアンも同じように。僕はホルダーから二丁拳銃を、ロイドは双剣をそれぞれ抜いて構える。どちらが先に動くかが問題…。最初に行動を起こしたのはボータの後ろにいたディザイアンだった。僕はその瞬間に構えていた銃の引き金を引いて相手の足元に威嚇を込めて弾丸を放つ。
 
 
「魔神剣!」
 
 
ロイドも遠くの方から地を這う攻撃を仕掛ける。それを一瞥した僕は力強く床を蹴り、一気に後ろの方へと下がり、二丁拳銃を構える。
 
 
「行きます!ツインバレット!」
 
 
二丁の銃から放たれた弾丸は確実に彼らの心臓や急所部分を貫く。ロイドも容赦の無い攻撃で相手を切り伏せる。さて、周りにいた雑魚の人たちは一掃しましたが、問題は今まで何のアクションも起こさなかったボータです。非常に冷静な目で僕たちの動きを見ていました。僕たちはまだまだ未熟者です。出で立ちからして経験者である彼に敵うとはとてもじゃありませんが思えません…。ここはどうするべきか…。
 
 
「ロイド!」
 
 
何かがスライドするような音が聞こえてきて、横目だけでそちらを見ると、神衣を纏った少女と、その少女の仲間と思われる人たちがわらわらと入ってきた。その少女、神子様はやはりロイドの知り合いのようですね。真っ先にロイドに駆け寄って無事を確認していました。けれど、これはラッキーです。今までの状況を一気に覆す事の出来るだけの人数がここに飛び込んできてくれました。これでボータを倒す事が出来るでしょう。
 
 
「ロイド!分かってますね?」


「分かってる!コレット!力を貸してくれ!」
 
 
ロイドが双剣を強く握り、神子様にそう声をかけると、彼女は深く頷いてからチャクラムを取り出した。それを見てロイドは嬉しそうに笑い、ボータへと切りかかった。後ろにいる銀髪の女性はロイドの怪我を治療し、同じく銀髪の少年が魔術を唱えた。僕は後ろの方で銃の弾丸を入れ替えて、にこりと笑いました。
 
 
「やはり彼は面白い」
 
 
 
 
 
 
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