道化師の嘲笑い


 
 
 
 
 
お城の門までは簡単に行けたが、中には入る事が出来なかった。どうやら現在王様は寝込んでいるらしく、面会を謝絶しているらしい。しかし、僕たちの目的はこの世界で最も権力のある人間に強力を仰いで、コレットを人間に戻す方法を探す事。そのためにはやはり王様に会う事が必要でした。僕たちは仕方ないのでとりあえず門番の人に言われた近くの教会へと入って行きました。近いうちに王様の病気が治るように祈祷が行われるらしく、その祈祷のために必要な神木を、一人の少女が運んでいました。しかし、その少女は普通ではありませんでした。
 
 
「エクスフィア…」
 
 
その少女の胸に輝くのはエクスフィア。人の命を糧として育つ恐ろしい物。それが妙に目についた。
 
 
「今のプレセアって子もエクスフィアつけてたな。こっちにはそんな習慣でもあるのか?」
 
 
ロイドが神木を運んでいく少女、プレセアの背中を見ながら呟くようにそう言った。しかし、ロイドはお馬鹿さんなのでもう忘れてしまったのでしょう。しいなが言っていた言葉を。彼女はこちらでは機械を使う事が一般的だと言っていた。つまり彼女がエクスフィアがつけているのは特別な理由があるからなのでしょう。そうでなければ彼女のような幼い少女がエクスフィアを着ける理由はない。
 
 
「とにかく、城に入る事から考えましょう。良いですか?悪知恵ですが、先ほどプレセアという少女は、神木と言う物を城に運ぶと言っていました。それに便乗させてもらいましょう」
 
 
先程までの考えを振り払って、今すべき事だけに頭を働かせる。僕の方を見ている全員に向けてそう言うと、リフィルはため息をついて、確かに悪知恵ねと笑った。
 
 
「よし、じゃあ追いかけよう」
 
 
そう言ってすぐに教会を飛び出してしまったロイド。僕たちはそんなロイドに苦笑しながら後を追いかける。するとロイドは教会のすぐ傍で彼女を呼び止めていた。
 
 
「俺はロイド。こっちはコレットにリフィルにフェルディに…」
 
 
「ぼ、僕はジーニアス!僕たちに神木を運ぶの手伝わせてもらえないかな?」
 
 
ジーニアスはどうやらプレセアに恋をしてしまったようで、顔を真っ赤にさせていました。しかしそんなジーニアスに対し、プレセアは何の感情も見えない目で僕たちを一瞥すると、振り返って城の方へと歩こうとしてしまう。
 
 
「すみません、待って下さい。僕たちは怪しい者ではありません。ある方のために王様に会わなければならないんです。もちろん、仕事の手伝いは致します。協力お願い出来ませんか?」
 
 
背中を向けたままのプレセアに向けて真剣にそう言うとプレセアはこちらを振り返り、僕の顔を見ました。僕も彼女の目をじっと見つめました。彼女の口は全く開こうとしませんでしたが、その目には拒絶の色はありませんでした。
 
 
「……」
 
 
プレセアは黙ったまま神木を運ぶために取り付けられていた取っ手から手を離した。ロイドたちが困惑していると、神木を指差して運んで下さい、と頼んだ。ロイドはパァッと顔を綻ばせると、ジーニアスと共に神木に近づき、それを引っ張ろうとする。
 
 
「任せとけ!ちょ、ちょっと待ってくれ!こ、これ…重…」
 
 
意気揚々と神木に駆け寄って持ち上げようとするロイドとジーニアス。しかし二人は神木を持ち上げる所か動かすことさえ出来ず、冷や汗を流していた。全く持って薬に立ちません。そんな様子を見ていたプレセアがこちらに戻って来ようとしていましたので、僕は仕方無くロイドとジーニアスを退かしました。
 
 
「全く…。手伝って頂くというのに言うのに、役に立たない人たちですね…。しっかりしていただかないと」
 
 
僕がため息をつきながらそう言って神木の取っ手に手をかけると、ロイドとジーニアスは二人揃って首を横に振っていた。どうやらこの二人は僕には無理だと言いたいようですね…?
 
 
「良いでしょう…。僕の力を見せましょう?」
 
 
二人の態度に苛立っていたため、少しばかり強めに引っ張ると簡単に動かす事が出来た。おや、意外と軽いじゃありませんか。
 
 
「うっそぉ…」
 
 
ロイドとジーニアスは驚いた顔をしていたが、僕は涼しい顔をしてプレセアの後ろへと歩いていった。プレセアはそれを見ると再び歩き出して門番兵に声をかけられる。プレセアは淡々と特別、とだけ述べる。門番兵はプレセアを信頼しているのか、すぐに僕たちを通してくれた。
 
 
「神木はどうしますか?」
 
 
「…ここに置いておきます」
 
 
プレセアがそう言ったので、僕は言われた通りに取っ手から手を離してその場に置いた。
 
 
「よし。それじゃあ王様の寝所ってとこを探そうぜ」
 
 
「プレセアはどうするの?」
 
 
全員の視線が一斉にプレセアに向く。しかし視線を向けられているプレセアは顔色を全く変えずに黙っている。このままプレセアだけを残しておくのはよくないし、かと言って帰ってもらうのは不自然。となると残るのは一つのみ。
 
 
「一人で帰られては不自然ですし、来てもらいましょう。すみません、よろしいですか?」
 
 
丁寧にそう頼むと、プレセアは顔色を変える事なく頷いた。それを見たジーニアスはあからさまに嬉しそうな顔をしていました。僕はそんなジーニアスに苦笑しながらロイドへと視線を向ける。
 
 
「王の寝所は上です」
 
 
「何で分かるんだ?」
 
 
「大体そういうものなのです。偉い人は上の階にいるっていうのは。さあ、行きましょう。コレットを早く戻してあげましょう」
 
 
疑問の表情を浮かべるロイドの背中をぐいぐい押しながら階段を上がって上の方へと上がっていく。少しばかり訝るようなリフィルの視線を無視して。そして最上階の方へ行くとそれらしき部屋が見えました。その部屋の前には兵士が立っており、その部屋が王様の部屋である事を知らしめていました。僕はそんな部屋の前に立っている兵士に近づき、そっと声をかけた。
 
 
「あの、神木を運んで来たんですけど、祈祷の準備を手伝うよう教皇様に命じられたのですが…」
 
 
恐る恐るという雰囲気を作りながら声をかける。すると兵士は首を傾げながら教皇様の?と声を上げる。そして今、聞いてくる、と言って背中を見せた瞬間に、ロイドが双剣の柄で兵士の頭を強く殴りつけ、気絶させた。そしてその扉を開くロイド。僕は何となく、ホント何となくですが、ストレスが溜まっていたので倒れた兵士のお腹を踏んづけてから中へと入りました。いや、ホント何となくですよ?他意はありませんよ?決して『警備が甘いんだよクソ野郎』とか思ってませんからね?いやいや、ホントですよ?
 
 
「何事だ!?」
 
 
扉を開いた先にいたのは、無駄に派手な装飾をじゃらじゃらとさせた少しばかり肥えた男性。いかにも偉そうな雰囲気を出していますね…。あれがおそらく教皇ではないでしょうか…。その男性の後ろには大きなベッドと、その傍にはドレスを着た女性がいました。そして、そのベッドから少しばかり離れたところには…。
 
 
「…あれ?お前ら」
 
 
先程広場で会ったと思われる赤い髪の男性がいました。エクスフィアを装備していたあの男性がこの場にいた。それに気づいた教皇らしき人物が神子、と声をかける。ああ、この場にいる時点でかなり位が高いと思っていましたが…。
 
 
「あなたがこの世界での神子…」
 
 
少しばかり低い声を出して、神子と呼ばれた男性に鋭い視線を向けると、彼は唇に薄い笑みを浮かべる。その藍色の瞳は少しも笑ってはいませんでしたが。
 
 
「この世界の……とは引っかかる言い方じゃねぇか」
 
 
神子は皮肉ったような笑みを浮かべると探るようにこちらを見た。それを脇で聞いていた教皇が顔を真っ青にしてシルヴァラントの人間か!と叫んでいた。その姿があまりにも滑稽で仕方ありません。まるで僕たちが死神みたいな言い方じゃありませんか。全く、なんて酷い。
 
 
「挨拶が申し送れました。僕たちは衰退世界シルヴァラントから来た者たちです。以後、お見知りおきを」
 
 
溢れ出そうになる笑いを我慢しながら、くすくす笑いに抑えながら腰を折る。そんな僕を見た教皇が顔を真っ赤にしながら手に持っていた杖を握り締めていた。
 
 
「さて、僕たちはこんな事をしに来たワケではありません。手紙を受け取って頂きたい。ミズホの民のしいなから預かってきた物です。ロイド」
 
 
手紙を持っているロイドに目配せしてその手紙を懐から出させ、国王に手渡した。神子と国王はしいなの名前に引っかかっていましたが、その手紙を見るだけで何も言いませんでした。国王はその手紙を受け取ると、教皇に命令し、僕たちを別に部屋に待たせるように指示しました。
さぁて…、この国の人間は一体どのような判断を下すのでしょうか?一人の人間を救うために力を貸すのは馬鹿馬鹿しいと切り捨てるか、あるいは神子として完璧になってしまったコレットを始末しようとするか…。どちらだって有り得ます。誰かの為に自らを危機に晒すなど、ロイドたちぐらいしかしないでしょう…。もしも、もしもコレットを殺そうとするのなら、手加減出来ないかも知れませんね…。
ロイドたちの一番後ろを歩きながら、自然と嘲笑うような笑みを浮かべていた。
 
 
 
 
 

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