無題


 
 
 
 
 
我々は世界にとって果たしてどのような役割を持っているのだろうか?私は時折考える。生まれた瞬間から託された我々の力と記憶は、何故存在しているのだろうか?生まれた瞬間から記憶を持っている私とは、果たして何者なのだろうか?世界は私に向かって語りかけた。
お前は世界のために存在し、世界を守るために存在していると。
しかし、私は実際世界を守ることなど出来ない。私の力が世界に干渉してしまうと、理が崩れてしまうからである。全ての時間は境界を失い、過去と現在と未来は混沌とした全てに呑み込まれてしまうだろう。我々に出来るのは、ただこの世界を見ていることだけなのだ。我々に世界を救ったり、変える力など存在しない。そして、それをしてはならない。我々には意志など存在していない。我々にあるのはただ使命を全うするために存在する肉体と、人間の中に紛れていくために必要な頭脳だけである。我々は、何も出来ない。例えるならば、哀れな子羊に過ぎないのだ。
だから私は人間に希望を持つ事に決めた。私が生まれ、生命が生まれ、土地が肥えていく果て。その果てに何が存在しているのか、私は知りたい。そして、生命がどのようにこの世界を変え、この世界を動かしていくのかとても興味深い。私に出来ない事をしてくれるであろう人間に、私は深い関心と、希望を抱いていたはずだった。そして私は人間を愛しているはずだったのだ。
しかし、このような言葉を書いている私は、人間に過度の期待をかけすぎたのだと落胆せざるを得ない。人間は確かに私には出来ない様々な変化をこの世界にもたらしてくれた。文明の進化と退化。マナを様々なものに応用し、機械を生み出し、より効率よく生きようとしていた。私は人間に紛れながらその光景を見ているのが好きだった。人間は素晴らしい頭脳を持ち、我々を凌駕する存在へとなったのだ。我々には世界を変えることが出来ない。しかし、彼らには出来るのだ。そう思うと、嬉しくなった。
だが、彼らには唯一、欠点とも呼べるものが存在したのだ。
彼らはあまりにも貪欲すぎたのだ。
裕福と呼べるほどの富を持とうとも、人は満足を知らなかった。次から次へと富を生み出し、挙句の果てにはマナを大量に使用し始めたのだ。生命が生きるために必要なマナを限度を知らずに使い続ける人間は、やがてマナを取り合うように戦いを始めた。多くの者が戦場に赴き、多くの者が戦争によって命を落とした。
最早、見続けていられるほど、私は強くなかった。
私は確かに人間を愛していたはずだった。しかし、私が愛した人間はあまりにも愚かで、貪欲だったのだ。欲望の留まる事の知らない人間は朽ちるのみだ。嗚呼、哀れ。彼らには分からないのだ。貪欲が身を滅ぼし、この世界すらも滅ぼすという事を。
しかし、私には何も出来ないのだ。私は無力で哀れな子羊。いくら願おうとも、私に、いや、我々に世界を変えるだけの力は存在しない。ただ無力に嘆きながら惨劇を見ていることしか出来ないのである。我々はちっぽけだ。無力だ。目の前で仮にも愛している人間が互いを殺し合っていようとも、私には何も出来ないのである。
嗚呼、私は、私には耐えられない。私は、最早世界を別の形で見守りたい。もっと遠くから、彼らの愚かな奇跡を見つめ、やがて彼らが真実に気付けるときまで、見守りたい。
だから、私は私であるという事を利用し、掟を発動する事にした。
我々は、自らの記憶を対価に、次のものに使命を渡す。この日記と共に、我々の軌跡を。そしてこの日記を決して見てはいけない。見た瞬間に、我々を区別する境界線は崩壊し、我々は何か別のものに成り果てるであろう。それが何であるか、私にも理解出来ないが、きっと恐ろしいものになるだろう。もちろん、他人にこれを見られてもダメだ。我々は人間たちから離れなければならない。我々の力を狙う貪欲な人間が訪れるかも知れない。そのために、この日記は、我々以外のものが見た瞬間、そのものを殺すという能力を付ける。これは、我々を守るためなのだ。我々が人間に利用されれば、全ての時間は人間に乗っ取られてしまうだろう。全ての生命の破滅を招く事だけは避けよう。
我々は、世界と共に、そして、愛すべき愚かな人間と共に。
愛している。欲望に溺れ、自らを破滅に向かおうとも、私は彼らを憎みきる事は出来ないであろう。だから私は何度でも言おう。愛している。そして、再び会える時を楽しみにしている。再び見える時は、彼らが賢き生命に進化している事を私は願う。
 
 
 
 
 
番人たちよ、私は決して諦めない。
お前たちが人間を嫌悪しようとも私は愛し、共に生きていけると信じ続けよう。
そして私と同じような意志を持つ番人が現れることを願おう。
人間たちよ、私を失望させるな。私たちにその存在を認めて見せるのだ。我々は、いつもお前たちを見ている。人間に紛れ、いつも影から…。
 
 
 
 
 

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