言葉の鎖


 
 
 
 
 
ウンディーネとの契約を済ませた僕たちはユニコーンのいるユウマシ湖へと再びやって来ました。湖の中に横たわっているユニコーン。その姿を認めたしいながウンディーネを召喚して湖の奥へと移動していく。僕はしいなたちの姿を見届けながらも、湖にいるユニコーンへと視線を向けた。もう絶滅したユニコーンが生きているなんて、素晴らしい…。
 
 
「そういえばフェルディ、あなた水の封印では何をしていたの?やけに遅かったけれど」
 
 
やはり怪しまれますよねー。あの時に言われなかったから油断してました…。
 
 
「少しばかりあそこに興味があったので見ていました。何と言っても精霊がいる場ですし…」
 
 
誤魔化すためにそう言ったつもりだったのですが…。どうやらリフィルにはそう受け取られなかったようです。というよりも目が怖くなってしまいました。まるで目の前の獲物を狙っているような…。ギラリとした凶暴な目です…。
 
 
「やはり貴様も遺跡に興味があったのだな!!確かにあの素晴らしい仕掛け、美しい構造!」
 
 
あー…、しまった…。彼女は遺跡に関してはとんでもなく性格が変わる人物でした…。しかもそれが大人しいなたまだしも、口調が荒々しく、ついでに行動も荒々しい。僕とした事が…。
 
 
「フェルディ、そういう話はダメだって…」
 
 
すみませんジーニアス。最早手遅れですよ…。誤魔化すためにとはいえ、もう少し考えてから発言すればよかったですね…。
 
 
「ね、姉さん!コレットたちが戻って来たよ!!」
 
 
その時丁度良く返ってきたコレットたちを見て、ジーニアスは大きめな声で言った。どうしてもこの状態を打破した簡単でしょうね…。助かります、ジーニアス。
しかし、返ってきたコレットたちの表情は優れない。その手にはしっかりとユニコーンの角が握られている。どうやらユニコーンはちゃんとくれたようですね。自身にとってとても大切な物を。
 
 
「ユニコーンは死んでしまいましたか」
 
 
穏やかに、あまりにも穏やかだったのがいけなかったのか、俯いていた顔を上げたしいなが僕に掴みかからん勢いで詰め寄ってきた。その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていました。
 
 
「アンタ、知ってたのかい!?」
 
 
「ええ。ユニコーンにとって角とは命そのもの。角を失えばその存在を維持することが不可能となり死んでしまう。しかし、そう肩を落とさなくても大丈夫ですよ。ユニコーンは復活と再生の象徴。再び生まれるんです。この地に、新たなユニコーンが」
 
 
これを繰り返していけばユニコーンは絶滅しないと思われがちですが、ユニコーンは透き通った水場を好む。世界が荒れ、水が濁ればユニコーンたちは住む場所をなくす。おそらく絶滅してしまったのは水が影響しているのではないでしょうか…。
 
 
「とりあえず、これでピエトロさんを救えるのですね」
 
 
「ええ、このユニコーンの角とボルトマンの術書があれば、今度こそ救う事が出来るわ」
 
 
コレットから受け取ったユニコーンの角を握り締めたリフィルの顔は、何かを思いつめているようにも思えた。僕はそんなリフィルの横顔に不信感を覚え、なんだか胸騒ぎを感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ハイマに着いた僕たちはすぐさま宿にいるピエトロさんのところへ足を運び、手に入れた術書とユニコーンの角を使って彼を治療する事に成功した。その後、どうやって救いの塔に向かうかと悩んでいると、竜観光、というものをしている男性が飛竜を貸してくれると約束してくれました。これで救いの塔に行く手段を手に入れることが出来ました。とりあえず今日はハイマで休憩し、明日、救いの塔に行く事になりました。
誰もが皆外に出て、思い思いに耽っているようでした。しかし、それは僕も同じ事。明日の事を考えると、どうも胸騒ぎがしてなりません。何も嫌な事が起こらなければいいのですが…。
 
 
「フェルディ」
 
 
少しばかり思いつめたような表情で僕のところへやって来たロイド。僕の所に来る前にリフィルやジーニアスに同じように声をかけているのを見かけていましたから、そこまで驚く事無く反応を返す事が出来ました。
 
 
「最早戻る事は出来ませんね」
 
 
ロイドの気配は後ろに、確かに感じている。しかし僕は振り返らずに眼下の光景を見下ろしながらロイドに声をかける。
彼は、迷っている。最早戻る事など出来ないのに、それでも悩んでいる。本当にこの選択はあっているのか。自分は果たしてどうすればよかったのだろうか…。
 
 
「あなたは後悔しますか?彼女を人間から遠ざけ、天使にしてしまう事に」
 
 
「俺は…分からない。コレットが天使になる事で世界が再生されるならって……、そう思ってた……」
 
 
「……ならば、これから後悔しないようにしなさい。何が最善かなど誰にも分からない。だから、分からなければ分かるまで悩めばいい。それでも分からなければ、自分の心に嘘をつかず、後悔しないような行動を取ればいいのです」
 
 
僕は、もう既に後悔してしまったから。自身の行動に、この結果に、あの事件に。僕の世界は後悔ばかりだ。初めから、生まれてしまったその事すら後悔したいほど、僕はその感情に苛まれている。それでも僕が生きているのは……、あの人が、それを許さなかったから…。さっさと僕が消えて別の人物に渡してしまえばよかったのに、それでも僕はあの人の言葉の鎖から逃れられない…。いつもいつも卑怯なくせに…。残忍で、目的のためならなにものも厭わないくせに、どうして、最後にあんなに優しくて残酷な言葉で僕を縛るのでしょうか……。
 
 
「ありがとう…。俺、後悔しないように行動してみるよ」
 
 
「ええ、そうするといいですよ…」
 
 
何かが吹っ切れたように穏やかな顔をしてコレットの方へと歩いて行ったロイド。僕はそんな彼の背中を見ながら、明日について思いを馳せていた。
果たして、僕はいつになればあの人の言葉の鎖から解放されるのでしょうか…。いっそのこと、掟なんて破って逃げてしまえればいいのに………。
 
 
 
 
 

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