酷似する存在


 
 
 
 
 
マナの守護塔から発った僕たちは、塔の中で手にしたボルトマンの術書に記された術を使うために、ユニコーンに接触する事になりました。ユニコーン。今は既に絶滅したと言われる生物で、清らかな乙女しか会う事を許されない清浄な生き物。しかし、今唯一のユニコーンに会うためにはウンディーネとの契約が必要という事になり、現在水の封印の場所へとやってきました。前と同じようにタライに乗り、ソダ間欠泉まで行き、そこから封印の場所へと向かう。海が苦手なリフィルは相変わらず真っ青な顔をしていましたが…。
遺跡の中を進んで、祭壇までやって来ると今まで顔を強張らせていたしいながさらに顔を強張らせていた。
 
 
「しいな、契約って奴を頼む」


「…分かった。やれるだけ、やってみるよ。…ちょっと怖いけどね」
 
 
ごくりと息を呑むように緊張した面持ちで一歩前に進み、顔を引き締めて祭壇を見上げる。すると、人の気配を感じたかのように青色の光が祭壇に集まり、人の姿を模った。
 
 
「契約の資格を持つ者よ。私はミトスとの契約に縛られる者。あなたは何者ですか」
 
 
水のように流れる美しく長い青い髪。彼女が水の精霊ウンディーネ。水の全てを司る事の出来る力を持つ者。
 
 
「我が名はしいな。ウンディーネとの契約を望む者」
 
 
「このままでは…できません」
 
 
「な…何故!」
 
 
「私はすでに契約を交わしています。二つの契約を同時に交わすことは出来ないのです。」
 
 
「ミトスって奴との契約か…。どうしたらいいのさ!研究機関じゃこんなこと習わなかったよ!」
 
 
ミトスとの契約…。本の中で語られてきた勇者ミトスは剣士であったと記されていた。しかしミトスは水の精霊であるウンディーネと契約を交わしている。普通の人間に魔術は扱えない。僕のような特殊な人間か、クラトスのような人なら使えるが…。もしくは天使。ミトスが神子のような力を持っていたのなら、天使術という特殊な術を使える術士という事になる…。しかし、ミトスとは一体何者なのか…。
とにかく、今はしいなを落ち着けなければならない。契約できないと言われてしまい、彼女は酷く混乱している。学んできた事を通じないと首を振って声を荒げている。
 
 
「落ち着いて下さい。契約とは、誓いを守っていてこそ成立する事です。もしその誓いが破られていたのなら、契約は可能です。ですからあなたは昔の契約の破棄と、新たな契約を望めばいいんです」
 
 
いくらミトスと契約していようとも、ミトスは本で語られるほど古い人間のはず。そんなに長命であるはずがない。あり得るとしたら……本当にミトスが天使だった場合だけかもしれません。いや、クラトスのような人間だったら生きていられるのかもしれない。あり得ない時間の流れ。人としての枠をはみ出してしまった者……。
 
 
「分かったよ。ウンディーネ。我が名はしいな。ウンディーネがミトスとの契約を破棄し、私と新たな契約を交わすことを望んでいる」
 
 
僕の言葉に耳を傾け、ゆっくりと落ち着けるように息を吐いたしいなは、真っ直ぐとした視線でウンディーネを見つめる。するとウンディーネはその視線をきっちりと受け止め、首を動かした。
 
 
「新たな誓いを立てるために、契約者としての資質を問いましょう。武器を取りなさい」
 
 
ウンディーネが静かにそう言うと、ロイドが目を見開いて急いで武器を構えた。彼女も同じように自ら剣を生み出し、その手に持って構えた。
僕も、戦わざるを得ないでしょう…。彼女と戦うのは、あまり乗り気ではありませんが…。
 
 
「スプレッド!」
 
 
全員が武器を構えた事を確認した瞬間にウンディーネが魔術を唱える。標的になったロイドは咄嗟に前に転がる事で術を回避し、そのまま起き上がってウンディーネへと駆け出した。双剣をしっかりと握り締め、突き出す。
 
 
「喰らえっ!散沙雨!」
 
 
無数の突きを双剣によって浴びせようとするが、ロイドの攻撃はウンディーネが纏っていた水のヴェールのようなものに防がれ、彼女に届く事はなかった。そしてロイドの攻撃が止んだ瞬間に、その手に持っていた水の剣を振るう。ロイドは攻撃を仕掛けてすぐに後ろに下がり、距離を取るが、それを隙と見たウンディーネが高速で術を詠唱する。
 
 
「ライトニング!」
 
 
短縮詠唱でライトニングを放ち、ウンディーネの詠唱を中断させる。水に雷は弱いもの。ライトニングで隙が出来たウンディーネに向かってしいなが一気に距離を詰め、懐から札を出してそれを放つ。
 
 
「炸力符!」
 
 
しいなの札がウンディーネの体に触れた瞬間、それが爆発しウンディーネの体を後ろの方へと吹き飛ばす。その瞬間、今まで詠唱していたジーニアスが自分の剣玉を高く掲げ、魔術を放つ。
 
 
「燃えちゃえ!イラプション!」
 
 
吹き飛ばされたウンディーネの下から赤い魔方陣が浮かび上がり、マグマのように真っ赤な炎が噴き出し、その体を包み込んだ。ウンディーネは声にならない悲鳴を上げると、その体が水へと還り、消滅した。
 
 
「見事です」
 
 
しかしすぐに声が聞こえ、そちらを向くと、ウンディーネは祭壇に立ちこちらを見下ろしていた。その姿に疲労の色はなく、まるで戦闘などなかったかのように穏やかだった。
 
 
「誓いを立てなさい。私との契約に何を誓うのですか」
 
 
「今、この瞬間にも苦しんでいる人がいる。その人たちを救う事を誓う」
 
 
「分かりました。私の力を契約者しいなに」
 
 
しいなの言葉に納得したウンディーネは穏やかな表情で頷くと、しいなの頭上から美しく輝くアクアマリンの指輪が降りてきた。ウンディーネが契約者を認めた証として渡す宝石。つまり、契約の証…。しいながそのアクアマリンを受け取ると、ウンディーネはその姿を消してしまった。
一瞬だけ訪れた沈黙の後、ジーニアスやロイドが喜びの声を上げた。僕はそんな様子を視界の端に留めておきながらも、様々な事を考える。
 
 
「おーい、フェルディ。行くぞ?」
 
 
ロイドの僕を呼ぶ声が聞こえ、そちらに踏み出そうとするけれど、僕の足はやはり止まってしまう。どうしても、彼女と話したい事があった。僕はロイドたちが祭壇から離れた事を確認すると、ゆっくりと祭壇へと近づいた。すると、水色の光が集まって人の形へと成る。
 
 
「……久し振りと言えば良いのでしょうか?それとも初めまして?水の精霊ウンディーネ」
 
 
「…我々から見たらお久し振りですが、あなた様からだったらきっと初めましてでしょう。あなた様が今の時代の方ですね?」
 
 
ウンディーネは優しげな表情をしながらゆっくりと祭壇を降り、僕の方へと近づいてきた。
 
 
「…しかし…、その割りに彼の人に良く似ていらっしゃる…。一体どうしたというのですか?あなた様たちは決して同じにならないはず…」
 
 
するりと遠慮がちに頬を撫でられ、まじまじと顔を覗き込まれた。やはり、僕は彼と酷似しているらしい。最初から分かっていた事だ。僕だって自覚している。だから、僕はいつだって耐えられない。
 
 
「僕は…出来損ないなんです…。彼の人のように、優秀ではない…」
 
 
彼の人はさぞ優秀だったのでしょう。皆に愛されていたのでしょう。でも、僕はきっと愛されない。だって僕は出来損ないだから…。
 
 
「…卑屈にならないで下さい…。あなた様たちは素晴らしい存在です。例え精霊と呼ばれる我々とて、あなた様たちには構いません」
 
 
ウンディーネはまるで母親のように優しく僕の頭を撫で、諭すように言ってくれました。その優しい言葉に、僕の心は微かに救われたような気がします。
 
 
「………。あなた様の武器を見せて下さい」
 
 
ウンディーネは少しの沈黙の後そう言って、僕の腰のホルダーに収まっている二丁銃へと視線を落とした。僕は突然の申し出に目を瞬かせたけど、彼女の言う通りに素直に二丁銃をホルダーから取り出して差し出した。ウンディーネが差し出された二丁銃にそっと触れると、彼女の手から水色の淡い光が現れ、それを包み込む。
 
 
「何を……?」
 
 
「あなた様に水の加護を。私の力をお使い下さい。あなた様に幸多からん事を…」
 
 
「水系の最高術ですか…。ありがとう、ございます、ウンディーネ…」
 
 
銃を両手で包み込み、頭を下げて礼を述べると、ウンディーネは苦しそうな表情で僕の事を見ていた。僕はその視線の意味が理解できずに首を傾げると、彼女は何も言わずにそのまま消えてしまった。僕はその光景に呆然としていたけれど、このままここに留まっているのは良くないと思ったので、ロイドたちを追いかける事にした。
確実に、怪しまれてますよね……。
 
 
 
 
 

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