恐ろしい過去


 
 
 
 
 
人間牧場に潜入する手段を手に入れた僕たちは早速牧場の入り口へとやってきました。牧場の入り口付近には、確かに貰った情報の通り、不思議な岩がありました。そこに存在しているのが有り得ないというような場所にあったので、すぐに分かりました。ロイドはその岩が人の力で動かない事を確かめると、すぐに預かった宝石を掲げました。すると岩は先程まで動かなかったのが嘘のようにあっさりと動いてしまった。岩が避けた先には、隠し通路が存在し、僕たちは全員頷きあった後にその通路を下りて行った。
 
 
「とりあえず、この牧場の全景図を出しましょう」
 
 
通路を下りて行った先の部屋には大きな機械が存在していた。おそらく僕たちのように機械に慣れていない人間なら使い方なんて分からないようなそれに、リフィルは平然とした顔で近づき操作をし始める。リフィルが機械を弄り始めて少しすると、この牧場の全体図画表示された。
 
 
「どうやらクヴァルのいるフロアに行くには、ガードシステムを解除する必要がありそうね」
 
 
リフィルは本当に巧みな指捌きで機械を操り、必要な情報を次々と映し出していく。リフィルには本当に恐れ入ります。衰退世界の人間でありながら、とても優秀な頭脳を持ち、機械を操る技術を持っている。これはおそらく彼女が人間とは違う種族だから出来るのでしょうね。
 
 
「この左右の通路の先に、二つのスイッチがあるでしょ。これが解除スイッチよ」
 
 
素早く機械を操り、全景図が点滅し、目的の場所を分かりやすく示してくれる。リフィルはもっと詳しい情報を探ろうと、機械を弄るが、その瞬間に激しい警報が鳴り響きリフィルの手が止まる。今の警報はおそらく侵入者を示すものであるはず…。ならば、この警報は全フロアに聞こえているでしょうね。
 
 
「まずいわね。メインコンピュータにアクセスしたのが、バレたようだわ」
 
 
「どうするのロイド!すぐにディザイアンたち、とんでくるよ」
 
 
警報の音に慌てたジーニアスがロイドに指示を仰ごうとしていますが、この場で指示を仰ぐべきなのはロイドではなくリフィルやクラトスなのでは……?猪突猛進なロイドに冷静な判断は下せないかと…。
 
 
「ここは戦力を分断させてしまいますが、二手に分かれてはどうでしょうか?」
 
 
ロイドには悪いですが、頼りなかったので僕が横から口出しさせてもらいました。冷静にそう言うと、ジーニアスは戦力の分断に苦い表情をしましたが、リフィルやクラトスはそれしかないと考えていたのかあっさりと頷いてくれました。
 
 
「では…」
 
 
「ロイド、あなたが決めてください」
 
 
もう二度とアスカードの時のようにならないように、すぐさまロイドへと視線を向け、主導権を全てロイドに託す。こうしなければまたしても僕は苦い思いをするに違いありません…。
 
 
「分かった…」
 
 
ロイドは皆さんが言う野生の勘とやらで僕たちを二つの班に振り分けた。ロイドにしてはバランスの取れた良い選択をしたと思う。進入班がロイド、クラトス、リフィル、僕。解除班がコレット、ジーニアス、しいな。
 
 
「では、お願いします」
 
 
僕たちはクヴァルを倒すために走り出し、コレットたちはスイッチを解除するために走り出した。さて、僕も本気を出させてもらいましょうか…?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
解除班によって作動した転移装置に乗り、ついにクヴァルがいるであろう部屋への潜入に成功した僕たち。そんな僕たちの前で、クヴァルともう一人の人間が会話をしていた。人、というよりも映写機などと表現した方が正しいのでしょうか?ともかく機械に映った女性と会話をしていました。
 
 
「それがロイドかえ?なるほど、面影はあるのぅ」
 
 
「話を逸らさないで欲しいですねプロネーマ!あなたが私の元からエンジェルス計画の研究データを盗み出したことは明白なのですよ」
 
 
「しつこいのぅ。わらわは知らぬと言っているだろう」
 
 
「…強情な。さすが、五聖刃の長の座をかすめ取っただけはある。プロネーマよ。この劣悪種からエクスフィアを取り返せば、五聖刃の長は私となるでしょう。その時に後悔しても遅いのですよ」
 
 
プロネーマ、と呼ばれた女性の言葉に一度は顔をしかめたクヴァルだが、すぐさまその顔に冷徹な笑みを浮かべ、嘲笑を向ける。プロネーマはその言葉に気分を害したのか、眉間にしわを寄せてクヴァルを睨み付けた。
 
 
「寝言は寝てから…と申すな。そなたこそロディルの口車に乗って何か企んでおるようじゃが、ユグドラシル様の目、そうそう誤魔化せると思うでないぞぇ」
 
 
プロネーマが厳しい目をクヴァルに向けた後、その映像は消え去った。どうやら通信を斬ったようだが、未だにクヴァルは機械の前に立ったまま何か考えているのか、腕を組んで小さく呟いていた。微かに、僕だけに届いた言葉。魔導砲。
そう呟いた後、クヴァルは僕たちの方を見てその手にある杖を振りかざした。その瞬間に辺りがびりびりとした空気に包まれたのを、誰も逃しはしなかった。
 
 
「ライトニング!」
 
 
天から唸りが聞こえ、技が落ちてくる前に僕たちはそれぞれ四方に散り、攻撃を避けて前へと走り出す。ロイドとクラトスは前へと一気に駆け出し、その剣を振るってクヴァルを攻撃する。僕とリフィルは後ろへと下がり、詠唱する。
 
 
「行きます、フォトン!」
 
 
リフィルの杖が天へと高々と掲げられ、その杖に答えるようにクヴァルの元に光の塊が収束し、弾ける。しかしクヴァルはその攻撃をものともせず、ロイドとクラトスへ杖を振るう。勢い良く振るわれた杖を避けるために二人はバックステップをする。その瞬間、彼の口元が歪んだのをこの目で見た。
 
 
「危ないっ!」
 
 
「スパークウェブ!」
 
 
クヴァルの手の中にある杖が叫びと同時に唸り、ロイドとクラトスの足元から紫電の塊が湧き上がる。その紫電の塊は二人を呑み込みながら当たりに紫電を撒き散らし、悲鳴すら呑み込むように酷く唸る。
 
 
「しっかりしなさい!ファーストエイド!」
 
 
紫電の塊が消えると同時にその場に崩れた二人に対し、リフィルはすぐさま詠唱していた治癒術をかける。二人は強力な雷によってあちこち焼けたようだが、ファーストエイドのお陰でそこまで酷くならずに済んだようだ。すぐさま落としていた剣を拾い、クヴァルに向かって駆け出して行った。
そんな様子を見ていた僕は、今まで慎重に練り上げていたマナを術へと変換していく…。
 
 
「唸れ烈風、大気の刃よ、切り刻め、タービュランス!」
 
 
慎重に変換していたマナを一気に解き放ち、強力な術へと変化させる。クヴァルの足元から風の塊が現れ、その塊は全てを切り裂く刃となる!風の塊は先程の紫電の塊と同様にクヴァルを呑みこみ、体中を切り裂いていく。悲鳴すら上げられないほどの猛烈な攻撃が止むと、クヴァルはボロボロで、立っているのがやっとの状態だった。そしてそんなクヴァルに情けをかける者など、この場に存在していなかった。
 
 
「喰らえ!!」
 
 
最早何も出来ないであろうクヴァルに、ロイドは双剣を振りかぶりそのまま体を引き裂いた。クヴァルから鮮血が散り、呻き声をあげてその体は崩れ落ちた。
 
 
「…やったぞ。母さんの仇を…倒したんだ!」
 
 
剣についた血を払ってからロイドは自分の左手にあるエクスフィアを優しく撫でた。その声は歓喜で震えていて、僕は何とも言えない気持ちになった。確かにクヴァルは母の仇なんでしょうが…。
 
 
「ロイド!ショコラの行方が分かったよ」
 
 
「ホントか!」
 
 
解除班であるコレットたちが部屋にやってきて、ロイドに向かってそう告げた。ショコラ。パルマコスタにて救えなかった少女。その少女の行方が分かったとなると、今度こそロイドたちは彼女を助けようと頑張るでしょうね。彼らは本当に強い。僕が羨むほどに、強い。
ロイドたちの微笑ましい光景を見ていた僕の視界の端で、何かが蠢いた。それは確かに倒したと思われたクヴァルだった。剣で斬られてもう立ち上がる事など出来ないと思っていたのに、奴は、起き上がって見せた。
 
 
「ロイド!」
 
 
「危ない!」
 
 
僕とコレットがそれに気付き、同時に叫んだ瞬間、クヴァルは持っていた杖をロイドに振り下ろそうとしていた。コレットはおそらく咄嗟だったのでしょう。攻撃されそうだったロイドの前に飛び出し、彼を庇った。そしてその瞬間に彼女から飛び散ったのは、赤い血だった。
 
 
「許さねぇっ!!」
 
 
コレットの姿を見た瞬間、ロイドは双剣を力強く握り締め、空前の灯火であったクヴァルの体に剣を突き立てた。クラトスもロイドに続くようにクヴァルに迫り、剣でその体を貫いた。
 
 
「クラトス…この劣悪種がぁっ…!」
 
 
「その劣悪種の痛み…。…存分に味わえ。…地獄の業火でな」
 
 
クラトスは厳しい表情でそう言うと、手首を返してクヴァルの腹を深く突き刺した。クヴァルは目を恐ろしい形相に見開くと、そのままずるりと崩れ落ちた。今度こそ完璧な死体となっていた。
 
 
「血……」
 
 
僕は一部始終を眺めている事しか出来なかった。目の前にはロイドを庇って血を流しているコレット。そしてロイドたちはそれを囲むようにして心配している。フラッシュバックする…。遠い日の記憶。褪せる事のない鮮明な赤。僕はただ見下ろしていた。僕にとって大切だったものを、ただ恐怖に震えながら…。僕は…、僕にはどうしようもない事だった。やってはいけない事をしてしまったのはあの人だ。だから僕は掟に従わなければならなかったんだ…。掟を破る事は出来ない。それは僕の本能で、いくら理性が働いても止められなくて…。
違うんです……、違うんですよ…。僕はこんな事望んでいなかったのに……!
 
 
「フェルディ!!」
 
 
いつの間にか肩を掴まれ、グッと引かれた。僕の肩を引っ張ったのはロイドのようで、僕の肩を掴んだまま心配そうに顔を歪めていました。
 
 
「大丈夫か?」


「え、ええ…。問題ありません…」
 
 
昔の事を思い出してしまったせいか、少しばかり呼吸が乱れてしまっていた。おそらく微かなので誰も気づく事はないでしょうが…。
 
 
「何言ってんだい!?真っ青じゃないか!急いでアスカードに行くよ!」
 
 
しいなは僕の顔を覗き込むと、目を見開いてそう叫んだ。僕自身は自覚がないけれど、どうやら凄く具合が悪そうに見えるらしい…。しいなは強引に僕の腕を取ると、転移装置へと引っ張られた。恐ろしい過去を思い出してしまった今の僕に、しいなの手の温かさはとても嬉しく感じられた。
 
 
 
 
 

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