存在しない記憶


 
 
 
 
 
僕たちは相変わらず封印解放の旅を続け、次の目的地アスカードへとやって来ました。ここには何やら大きな遺跡が存在しているらしく、何か手がかりになるものは無いかと捜索していました。
そしてそんな時、僕はとんでもないものを目撃してしまったのです。
遺跡モードのスイッチが入っているリフィルが男性を蹴り飛ばしている瞬間を。あの明らかにどこかネジが外れてしまったような目で男性を蹴り飛ばすリフィルの凶暴そうな表情…。僕はきっと忘れる事など出来ないでしょう…。
何やら爆弾やら何やらの話で慌しくなり、もっと面倒な事にここの町長に遺跡を見ている所を見つかり、追い出されてしまったのです。それで詳しい事情を聞こうと先程リフィルが蹴飛ばした人物のいる場所へと訪れると、何やら深刻な話をしているようでした。
簡潔に纏めてしまうと、ここの遺跡には精霊がいて、その精霊は生贄を求めてくるそうなのです。そしてその生贄に選ばれたのが、精霊を復活させたとかいうライナーさんの妹であるアイーシャさんだとか…。そして遺跡を爆破しようなんて馬鹿な事を考えたのはこの二人の友達であろう赤い髪の男性。名前はハーレイさんだそうです。ハーフエルフでありながらも堂々としている所を見るとかなり凄いと思います。ハーフエルフの証であるその特殊な耳を全く隠そうとしていませんでした。
まあそんな事をは置いておいて、現在おかれた状況を簡単に説明いたしましょう。
現在僕たちの目の前では遺跡マニアのライナーさんと同じく遺跡マニアのリフィルが遺跡について語り合っていました。それはもう暑苦しいくらいに。そしてそれを脇で聞いているハーレイさんは今にも怒りだしそうなくらい震えていました。すぐに決壊するでしょうね…。
 
 
「いい加減にしろ!アイーシャは今夜にも風の精霊の生贄になるんだぞ!いいから出ていけ!」
 
 
まるで子供のように遺跡について語り合う二人にいい加減ウンザリしてきたのか、ハーレイさんはそう怒鳴って僕たちを家から追い出してしまいました。もちろん悪いのは彼ではなく緊迫した状況にも関わらず楽しそうに談笑してしまったリフィルとライナーさんでしょう。
 
 
「…先程聞いた精霊…。封印かもしれませんね…」
 
 
「おそらくその可能性が高いだろう。しかしどうする?」
 
 
現在おかれている状況を踏まえると、儀式を行うのはアイーシャさん。そしてその精霊は生贄を受け取るために現れる…。となれば…。
 
 
「……良い提案ではありませんが、アイーシャさんは生贄として石舞台に行くわけなのですから、どなたか別の方がアイーシャさんの代わりに石舞台に行けばよろしいのでは?」
 
 
初めからあまり良い案ではない事を承知でそう提案してみると、冷静な判断力を持っているリフィルはしばらく考えた後に顔を上げて町長に相談しましょう、と言ってきた。
そして遺跡の前で誰も侵入しないようにして立っていた町長にその事を伝えてみると、以外にもあっさりとそれを承諾してくれました。どうやら彼らにとって大切なのは生贄がいるという事なのだそうです。少しばかり苛立ちを感じずにはいられませんが、防衛手段を持たない彼らにはそれしか出来ないのでしょう。
さて、ここで問題になったのは踊り手です。アイーシャさんの代わりとなるとやはり女性がやるべきなのでしょう…。
 
 
「ここはやはりこの提案をしたフェルディにさせるべきだと思うわ」
 
 
………は……い……?
おや、おかしいですね…。僕は聴力が良い方なのですが…?
 
 
「ちょっと待って下さい。今幻聴が…」


「幻聴じゃなくてよ?あなたに踊り手をやってもらおうかしら?」
 
 
幻聴と思いたくてそう問いかけるも、リフィルは無情にも僕の方に視線を向けてクスリと笑っていた。その顔はもちろん確信の笑み。嫌な予感がしますし、何故僕なのですか!
 
 
「僕は生物学上男です!まさか清らかな乙女が行う儀式を僕のような不届きものに任せようとおっしゃるのですか!?いいえ、ありえません!!」
 
 
あまりにも取り乱したせいで声を大きくして叫んでしまいましたが、今はそんなことに構っている場合ではないのです。下手したら僕が女装をしなければなりません!!僕は上記でも言ったように生物学上でも男です!清らかな乙女が行うはずの儀式を僕のような男にやらせるなど、あってはなりません!!それに僕はいくら童顔で多少女の子に見られうようとも、男を捨ててません!!
 
 
「言い出しっぺがやるものでしょう?それともあなたは私が精霊の生贄役をやれと言うの?」


「そ、それは…」


「あなたが適任だと思うわ。実力も判断力も申し分ない。それにあなたは紳士ですもの。女性を危険な目に合わせないでしょうし」
 
 
確かに提案したのは僕です。それをリフィルたちに押し付けるようにするのは申し訳ないと思っています。僕はそれなりに紳士だという自覚はあります。女性を危険な目に合わせるのはあまり好ましいと思っていません…。しかし、この場合は別物なのです!僕は、僕は…!!
 
 
「じょ、女装は勘弁してもらいたい…」
 
 
しかしどうやら僕の儚い願いも叶えてもらえないようです。がっくりと肩を落とした僕を慰めるように手を置いたのはリフィルの手で、視線を上に上げると、にっこりと笑ったリフィルの顔がありました。
 
 
「さあ、行きましょう?」
 
 
気がつけばリフィルは僕を逃がさないためにしっかりと腕を掴んでいました。その感触に全く気がつかなかった僕は驚いて目を見開いてしまいました。
ああ、僕の儚い夢も消えたのですね…。本当に…。
ずるずると女性とは思えない力で僕を引っ張っていくリフィル。僕が最後の願いを込めて仲間たちへと手を伸ばす。
 
 
「ロ、ロイド!ジーニアス!コレット!クラトス!」
 
 
けれどその仲間と思っていたのはどうやら僕だけだったようです。ロイドたちは見事にバラバラながらも全員僕を助けてはくれませんでした。ロイドとジーニアスは哀れむような視線を。コレットはきらきらとした笑顔で手を振られ、クラトスにいたってはこちらを見ようとしませんでした。あまりにも酷すぎるその反応に、僕はあらん限りの声で呪詛の言葉を吐いてやりました。
 
 
「恨んでやる!特にクラトス!覚悟してろ!!」
 
 
まるで負け犬が去り際mにいうようなセリフでしたが、今の僕には全く関係ありませんでした。ただただいらついたのでそう言ったまでです。
そして僕はリフィルに引き摺られながら儀式のための準備をするのであった…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「もう僕は女装など致しません!」
 
 
儀式が終了し、少しばかり乱れた服装を直しながら石舞台飛び降りて僕はそう叫んでやった。降りた時に隣に立っていたジーニアスは慰めるようにまあまあ、と声をかけてきたけど、まだ苛立ちが抑えられそうにないので横目で睨み付けておいた。
あの後、見事に女装をさせられた僕は石舞台に上がり、見事に精霊を償還する事に成功しました。しかしその精霊と呼ばれたものは実は偽者で、単なる魔物だったのです。まあ、その魔物が僕の事を女呼ばわりしたので、ちょっと、いえかなり怒ってしまいましたが…。別に超短時間詠唱を連発したり、杖を振り回しながら中級の魔術をぶっ放したりしてませんよ?いや、本当本当!
 
 
「まあフェルディのおかげて石版も手に入ったし」


「先ほどリフィルとライナーさんが持っていったあれの事ですか?何やら字が刻まれていたとか……。いえ、そんな事はどうでもいいです…」
 
 
先程リフィルとライナーさんが意気揚々と持って行った石版。どうやらあれが今回の鍵らしいのですが…。今の僕には全く関係のない事です。今の僕にやらなければいけない事とは…。
 
 
「覚悟、出来てますよね?」
 
 
もちろん先程僕の事を思いっきり無視してくれたこの傭兵の事だ。他の人たちと違って完璧に僕の事を見捨てたこの男の事が憎くて仕方ないんですよ…!
早足で近づいてその胸倉を掴み上げた。
 
 
「すまない…」
 
 
顔を引きつらせながらもどこか必死に訴えかけるようにそう言うクラトス。いつもと違って弱く思えてしまって、やる気が失せてしまった。それと同時に掴んでいた胸倉を離してやるとホッとした息を吐いていた。
そんな様子を見た瞬間、何かが僕の脳裏を掠めていった。今と同じように安心したように息を吐くクラトス。けれどその服装は今と違っていて…。
 
 
「っ!?」
 
 
そんな光景が一瞬だけ思い出された瞬間、僕は体が強張る思いだった。その記憶は僕には存在しないはず…。なのにも関わらず僕の脳裏にはその光景が過ぎってしまった。こんな事、あってはならないのに…。
 
 
「フェルディ、クラトス!宿に戻るぞ!」
 
 
階段の下から聞こえるロイドの声のおかげで意識をしっかりと保つ事が出来た。でなければ多少面倒な事になっていたかも知れない…。
先程あった事は忘れてしまおう。そうしなければ、嫌な予感がする…。
そんな事を考えながらも僕はロイドたちに追いつくために階段を駆け下りていった。
 
 
 
 
 
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