犠牲から生まれるもの


 
 
 
 
 
結局、ドア総督はキリアの攻撃のせいで死んでしまい、彼の奥さんであるクララさんはキリアが最後の力を振り絞って牢屋を開けてしまったため、どこかへと逃げていってしまった。
ドア総督からカードキーを受け取った僕たちは再びパルマコスタの人間牧場に戻り、ニールと合流を果たした。そしてニールは僕たちの表情を見てドア総督がどうなってしまったのか察したのか、悲しそうに目を伏せた。それを見たロイドのその表情に悔しさを感じたのか、カードキーを強く握り締めていた。ロイドは今、自分の事を酷く無力だと感じている事でしょう。奥さんを助けるために頑張っていたドア総督の努力など初めから無駄だったのです。悪魔の種子を取り除く方法など存在せず、彼の本物の娘はすでに死んでいた。結局僕たちは何も守る事が出来ませんでした。
 
 
「結局世の中は絶望に溢れている…」
 
 
いつの時も、人は希望を見出すも、その前に立ちはだかる壁に絶望し、手段を失う。全てのものに犠牲はつきもの。犠牲無くして成り立つものなど、在りはしないのだろう…。ロイドは今回の事で、自分が予想よりも無力だと知る事が出来た。この事があったからこそ彼は強くなる。もっともっと、何かを守るために。
 
 
「ロイド!あれ!」
 
 
現在僕たちはパルマコスタの牧場に潜入していました。そして連絡通路をワープしながら進んでいくと、ディザイアンに捕まっているショコラを見つける事が出来ました。ロイドはすぐにショコラの元に駆け寄り、彼女を捕まえていたディザイアンを倒してしまった。
何も知らない彼女は、ドア総督がついに動き出したと勘違いしていました。僕たちは彼女に本当の事を告げず、彼女の協力を元に管制室へやって来た。
 
 
「ようやく到着か。天から見放された神子と豚どもが」
 
 
管制室に入ってすぐに響き渡るマグニスの声。その声が聞こえる場所を辿ると、魔科学によって作られたのであろう機械に座ってこちらを見下しているマグニスの姿が。
しかし、先程マグニスが言った言葉に、何か引っかかるものがあります。天に見放された?おかしい。確かにコレットは信託を受けた正式な神子だったはず…。
 
 
「放っておいて!」
 
 
そんな僕の思考を中断させたのはショコラの叫び声でした。いつの間にか俯いていた顔を上げると、助けたはずのショコラはまたディザイアンに捕まっていました。どういう事か理解できずに困惑していると、ショコラはロイドの事を鋭く睨み付けた。
 
 
「おばあちゃんの仇になんて頼らない。それぐらいなら、ここで死んだ方がマシよ」
 
 
ショコラの口から出た言葉はあまりにも悲しく、それと同時に傲慢であった。
 
 
「誰もがあなたのように自分の命を自分で左右出来るわけではありません。その言葉は、あまりにも傲慢です」
 
 
僕が力強くそう言うと、ショコラは一瞬目を大きく見開いたが、首を左右に振って泣きそうな声で叫んだ。
 
 
「それでも…!私の事はドア様が助けてくださるわ。放っておいて!」
 
 
ショコラがそう叫ぶと、彼女の腕を掴んでいたディザイアンが彼女と共に転移装置に乗り、そのままどこかへと消えてしまいました。その様子を見ていたロイドが拳を強く握り締め、怒りを混ぜた視線をマグニスに向ける。
 
 
「マグニス…っ!」


「ガハハハハ!マグニス様が直々に相手してやるぜ!!」
 
 
マグニスは機械から降りると、巨大な斧を振り回しながらこちらへ襲い掛かってきた。僕たちはそれを見て一斉に武器を構え、それぞれ散って行く。
 
 
「マグニス!」
 
 
ただ一人、ロイドを除いて。彼は酷く頭に血が上っているのか、猪突猛進でマグニスに突っ込んでいこうとしました。怒りに任せて握られている剣には隙が生まれ、それが死に繋がる場合だってあるのに、彼は本当にどうしようもないお馬鹿さんです!
 
 
「アイシクル!」
 
 
ロイドとマグニスが接触するその前に、氷の塊が二人の間に出現し、二人の行方を防ぐ。マグニスはそれを冷静に回避し、ロイドは反対にその氷に驚いてこちらを振り返る。
 
 
「フェルディ!!」
 
 
ロイドが僕の方を振り返った事により出来た隙を埋めるためにマグニスに向かって銃を発砲する。マグニスはその弾丸を斧で防ぐと、こちらを見た。その隙にクラトスが素早くマグニスに近寄り、剣を振るう。
 
 
「冷静に戦ってください!怒りに任せた戦いは隙を生みます!」
 
 
銃を何発も撃ちながらそう言うと、ロイドは自分の行動がいかに軽率だったか理解したのか、ぐっと眉間にしわを寄せた後に、双剣を強く握り締めてマグニスの元へと走り出した。
 
 
「剛・魔神剣!」 
 
 
ロイドが、マグニスの所に着く手前でクラトスが剣を強く振りかぶり、地面に叩きつけるように衝撃を与える。その攻撃で砕けた床の破片がマグニスへ飛び散り、その顔を微かに歪める。その隙を丁度良いタイミングでやって来たロイドが双剣を交差させてマグニスに斬りかかる。咄嗟にその斧で防がれたものの、双剣のうちの一つがマグニスの腕を斬る。僕はその隙を狙って強く踏み出し、それと同時に二丁の銃から何発も弾を撃つ。
 
 
「チャージバレット!」
 
 
相手に隙が生まれないように何発も連続して弾丸を撃つ。それと同時に後ろの方で詠唱していたジーニアスが剣玉を高く掲げる。
 
 
「ライトニング!」
 
 
放った魔術は正確にマグニスへと当たり、マグニスはその電気のせいで動きが鈍る。そこに生まれた隙を逃す事無くマグニスの懐に飛び込み、足払いをかけてバランスを崩し、そのまま巨体を蹴り上げて宙に浮かせる。
 
 
「エリアルレイザー!!」
 
 
宙に浮かせた巨体に二丁銃を向けて発砲する。マグニスはその弾丸を避ける事が出来ずその身に受け、そのまま床に落ちる。あちこちから血が滴り、多少はダメージを与えられたと思って油断していた。
 
 
「なめるなぁっ!!」
 
 
完全に、これは僕の油断だった。まさかマグニスが僕の攻撃をものともせずに立ち上がるとは思わなかった。マグニスは凶暴な顔をしながら僕に突進すると、その左腕にある盾を振りかぶってきた。その盾は何かを挟むかのように大きく開かれ、確実にそれは僕の首を狙っていた。咄嗟に僕は危険だと判断し、その間に銃を押し込むことで首を挟まれる事を回避した。
 
 
「煉獄崩爆破!!」
 
 
盾が銃を挟んだ瞬間、その盾の間で物凄い爆発が起こった。僕はその爆発に対しどうする事も出来ず、ただ吹き飛ばされるしかなかった。あまりにも強い爆発に、壁まで吹き飛ばされ、背中を強く打ちつけてしまった。腕を動かそうとすると鋭い痛みが走り、思わず呻き声を上げてしまう。どうやら至近距離で爆発を受けたせいで、あちこち火傷しているようだった。
 
 
「しっかりなさい!ファーストエイド!」
 
 
僕の怪我に反応したリフィルはすぐさま治癒術をかけてくれた。そのおかげで少しばかり体が楽になった。火傷もそこまで重傷じゃなかったようで、さっきの治癒術でほとんど消えかけている。まだ痛む腕に力を込めて立ち上がると、ジーニアスが駆け寄ってきて僕の体を支えてくれた。
 
 
「フェルディ!大丈夫!?」
 
 
まだ少しばかりふらついているものの、そこまで深刻ではなかったので、軽く頷いておく。とは言うものの、僕の武器である二丁の銃はさっきの攻撃のせいでマグニスの近くに転がったまま。取りに行くにも戦闘中にいくらなんでも危険すぎる。となると、やることは一つ。
 
 
「ジーニアス。二人同時にライトニングを放ちましょう」
 
 
「分かった」
 
 
僕の提案をすぐに理解するとジーニアスは剣玉を操って詠唱を始める。僕もその隣で両手を突き出し、マナを練り上げて雷をイメージする。そして体のそこから湧き上がるマナをそのまま外へ、放つ!
 
 
「「ライトニング!!」」
 
 
同時に放たれた雷は空中で一つの大きな雷となり、マグニスの体に命中する。その雷は体中を駆け巡り、確かにダメージを与える。マグニスは血を吐き、その場に崩れ落ちた。
 
 
「ぐぅっ…何故だ。この優良種たるハーフエルフの俺が…」
 
 
マグニスは忌々しそうにそう吐き捨てながらも未だに戦おうとする意志があるのか、床に転がっている自分の武器に手を伸ばそうとしている。そんあマグニスを見下ろしながら、クラトスが言い放つ。
 
 
「愚かだからだ、マグニスよ。クルシスはコレットを神子として受け入れようとしている」
 
 
その瞬間、マグニスは驚いたように目を見開き、その口から騙された、という言葉が零れた。その言葉に引っかかりを覚えて眉間にしわを寄せていると、リフィルが機械に近づき、牧場の全てのロックを解除し、自爆装置を発動させていた。爆発する前に出なければならないという事で、みんなで急いで脱出しようとしている中、僕はやはりマグニスの言葉が気になって仕方がなかった。
騙された。その言葉は一体何を示しているのか…。クルシスがコレットを神子として受け入れた事。そう、彼はその事に驚いていた。なら…。
 
 
「フェルディ!急げ!」
 
 
「はい!」
 
 
もしも僕の想像している通りなら、彼はコレットが神子として認められていないと誰かに嘘を教えられた、という事…。一体誰が何の目的でそんな事をする必要があるのでしょう…。いえ、今はそんな事を一々気にしている暇はありません。このパルマコスタの牧場がなくなれば、もう人々を縛るものはなくなった。彼らは自由。後をどうするかは彼ら次第。
こうしてパルマコスタの牧場を破壊した僕たちは、次なる封印を解くために再び旅を始めるのだった。
 
 
 
 
 

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