綺麗な心を持つ者たち


 
 
 
 
 
どうやらあの噂は本当のようで、パルマコスタは何とも言えない重苦しい雰囲気に包まれていた。ディザイアンたちは広場に集まって何かをしているようだった。その広場には絞首台があり、そこには一人の女性が首に縄をかけられて立っていました。あの人は確か、このパルマコスタに来た時に寄った店の人でした。名前は確かカカオさん。そしてその絞首台に近づくうざったい髪をした男性。あれがパルマコスタの牧場主、マグニス…。
ロイドたちはただ遠くから何が起こるのか見ている事しか出来ませんでした。下手に手を出してしまえばどうなるか、分かっているみたいです。
 
 
「母さん!!」
 
 
悲痛な叫び声が聞こえてそちらを向くと、カカオさんの娘のショコラがその絞首台に近づこうと人垣を掻き分けていました。それを見たロイドたちも人垣を分けるようにして進んでいきました。僕もそれに倣い人の間をすり抜けるように通って行く。
 
 
「下手に逆らうと、死んだ方がマシな思いをする事になるぞ」


「ドア総督がそんな事許すもんですか!」
 
 
ディザイアンの一人がそう言うと、ショコラが拳を強く握り締め、そう大きな声で叫んだ。それを聞いたマグニスは口元を吊り上げ、大きな声を上げてそれを笑いました。
 
 
「ドアか…ガハハハハ!無駄な望みは捨てるんだなぁっ!」


「やめてーーーー!!」
 
 
ショコラが目を見開いてそう叫んだ瞬間、ロイドは我慢ならなかったのか飛び出してマグニスに攻撃していました。マグニスはその攻撃を受けて一瞬怯んだようだった。リフィルはそんな光景を見て顔色を変え、急いでロイドの腕を引いて諌めた。しかしロイドはその腕を振り払い、叫んだ。
 
 
「目の前の人間も救えなくて、世界再生なんてやれるかよ」
 
 
ロイドの言葉になおも何か言おうとするリフィル。しかしロイドの隣にコレットがやってきて、胸の前で手を組んで決意を秘めた声でこう言う。
 
 
「私もこんな処刑を見過ごすなんてできません!」
 
 
興味を持っていた事は確かだ。僕はこの純粋な少年と少女に確かに興味を抱いていた。これから先、彼らがどのようにして世界を変えていくのか。それとも彼らはこの世界の残酷さに負け、希望を失い、絶望していくのか…。そんな、興味を抱いていました。今思えば僕は何と酷い人間なのでしょうか。彼らは確かに今はまだ希望を持ち続けている。絶望がある事も知っている。けれど、彼らがその絶望に負けないのは、希望があるからだけではなく、彼ら自身が強いから…。何度打たれようとも立ち上がる心の強さが、彼らを支えている…。彼らは弱い。けれど彼らは僕には無い強さを持っている。そして彼らは何よりも綺麗な心を持っていた。人のためを想い、人のために行動するその心。僕が見てきた人間たちとは違う、綺麗な心。突然現れた僕を簡単に信頼してしまうようなお人好しだけれど、それが彼らの良い所なのだと、気づく事が出来た。
 
 
「…僕は、愚か者ですね…」
 
 
人間の汚い部分ばかり見てきてしまった故に、僕は容易に人を信頼する心を失ってしまったみたいです。そんな僕の心を、彼らの純粋さが思い出させてくれた。
くしゃりと顔を歪めてロイドとコレットを見る。彼らには目の前の命を救う事しか映っていなかった。その真っ直ぐな心に、漸く僕も応えようと思いました。根付いていたこの黒い気持ちを、少しは取り払ってしまえるように頑張りたいと…。
 
 
「お前が例のエクスフィアを持っていると言う小僧か!ガハハハハ!こいつはいい!ここでお前のエクスフィアを奪えば、五聖刃の長になれる。お前ら、あの小僧どもを狙え!」
 
 
マグニスが高笑いをしながら部下に指示を出すと、部下は魔術を放ってくる。ロイドがそれに身構えていると、ジーニアスがその前に立って魔術をいとも簡単に防いでしまった。マグニスはそれを見て顔を歪める。
 
 
「くそっ!このヘタレどもが!もういい!まずはこの女の始末をつけてやる!」
 
 
苛立ったマグニスは絞首台の床を外そうと台に近づいて手を伸ばす。そしてその手が床を外す。僕はそれを見て、足に力を込めてタン、と地面を蹴る。僕の能力を持ってすれば、あそこまで行くのは簡単だ。
 
 
「危ない!」
 
 
コレットがその手にあるチャクラムを投げてカカオさんの首を絞めている縄を切ろうとした瞬間、僕は自分の銃でその縄を焼き切り、カカオさんの体を自分の方へと引き寄せた。そんな僕の姿を見た全員が驚いたように目を見開いた。僕は確かに人混みの中に紛れていた。しかし一瞬にして絞首台へと上り、カカオさんを助けたのだ。驚かない方がおかしいでしょうね。
そんな僕を見て油断したマグニスに、クラトスが魔神剣を放つ。そして剣をしまってからロイドたちに近づくと、わざとらしく大きな声で言った。
 
 
「…神子の意志を尊重しよう」
 
 
クラトスの言葉は広場の中に響き渡り、人々の耳へと届く。そしてそれらはざわめきへ変わり、やがて歓喜に変わる。
神子様だ!神子様が我らに力を貸して下さる!と。
 
 
「みんな、分かってるの?ディザイアンに逆らうと、この街もイセリアのように襲われてしまうかもしれないのよ」


「そうさ、分かってる!二度と同じ間違いは繰り返さない。牧場ごと、叩き潰してやるさ!」
 
 
リフィルの説得するような声に、ロイドは力強く答える。もう二度と同じ過ちは犯さないと。つまり徹底的に叩き潰す。そんなロイドに、リフィルは顔を歪めて無理よ、と呟く。けれどロイドはそれでも引かなかった。
 
 
「俺たちには神子がついてる。世界を再生する救世主がさ!な、コレット!」


「…うん。私、戦うよ。みんなのために」
 
 
コレットは胸の前で手を組むと、強い意志を含んだ声でロイドの言葉に答える。すると町の人々はさらに歓喜し、コレットを応援するような声があちこちから上がる。それを聞いたマグニスは苦々しく顔を歪め、先程クラトスから受けた傷を手で押さえながら、その場を部下に任せてどこかへと消えてしまった。残った部下たちはというと、その手に持っている鞭を振るい、何度も地面を叩いた。まるで自分たちが偉いとでも言うように。それは…威嚇しているつもりなのでしょうか?
 
 
「…馬鹿馬鹿しい…」
 
 
人を虐げているものが偉そうな態度を取るなんて、許せない。こんな奴らより、彼らの方が数倍素晴らしいものを持っている。僕は彼らに応えます。僕の力を持ってして、誠意を。
 
 
「冷たく無情なるもの、彼の者を打ち砕け」
 
 
二丁の銃をしっかりと握りながら銃に自分のマナを込める。僕が持っているこの銃は特殊な物で、一般的な弾丸を入れて普通に撃つ事も出来るが、自分のマナを込める事によって特殊な攻撃を行う事が出来る。他の攻撃よりも強力な攻撃。
マナを込め終わった銃をディザイアンたちに向けて発砲する。吐き出された弾丸は綺麗に飛んで行き、奴らの体に命中する。
 
 
「刈り取ってしまえ」
 
 
冷たく言い放った瞬間、弾丸が命中した場所に花の文様が浮き上がる。それは死の刻印。無情なるものが命を刈り取るためにつけた証。
 
 
「いざ咲き誇れ、紫陽花!」
 
 
その文様が薄く不気味に輝くと、ディザイアンはその刻印がある場所を強く押さえ、苦しそうに呻き出した。その刻印は徐々に体の中のマナを奪っていく。まるで吸血されるかのように、ゆっくりと。けれど確かにその命を奪う。やがてディザイアンは苦しみの声を上げると、まるで魔物と同じように空気に溶けるように消えて行ってしまった。そこは初めから何もなかったかのようだった。痕跡など残らない。恐ろしい能力。
 
 
「……所詮は散り行く者…か…」
 
 
全ての命はいずれ散っていく。それは誰にも止められない自然の摂理。そんな摂理を悲しく思ってしまう僕は、まだまだ未熟者なのでしょう…。この世界に生きる者としても、大切な使命を背負う者としても…。
 
 
 
 
 

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