パルマコスタへ


 
 
 
 
 
イズールドと言う村で何とか海を渡る手段を手に入れた僕たちは、パルマコスタへとやってきました。しかし、リフィルは海が苦手なのか、青い顔をして船を降りていました。
それで現在、コレットと知り合いだった司祭様の助言を元に、再生の書という物を求めるために、総督府を訪れていました。パルマコスタの総督はドアという人で、何やらディザイアンに抵抗するための軍隊を持っているとか…。
 
 
「ようこそ旅の方!我々はマーテル様の教えの元、旅人を歓迎します。旅する者に、マーテル様の慈悲がありますよう」
 
 
総督府に着いてそうそう、ドア総督がそう口にしました。その言葉は信仰の深さが表れていますが、僕からしたら少し気持ち悪いと言うか…。はっきり言うのなら暑苦しいですね!
 
 
「あ、どうも。それより教会で聞いたんだけど、再生の本とかいうのここにあるんですよね?」


「ばっかじゃないの。再生の書でしょ!」
 
 
僕的にはロイドが敬語を使った事に驚いているのですが、まあロイドもそれなりの常識は分かっているのでしょうから、それくらいは同然かと黙っていた。それにしても、相変わらずロイドはお馬鹿さんですね。
 
 
「再生の書?確かに我が一族の宝だがそれが何か?」
 
 
その時のドア総督の目は確かに厳しいものだった。僕はその視線に何か不信感を抱いた。ロイドはその視線に気付いていないのか、貸してほしいと不躾な事を口走る。僕の隣にいるリフィルが額に手を当てて、思いっきり深い溜息を吐いていた。僕はそれに苦笑しながらもロイドの腕を引いて下がらせた。ロイドは何か文句を言おうとしていましたが、僕が下の方で銃を突きつけると、すぐに口を閉じてくれました。いやぁ、賢くて助かりますね。
 
 
「確かに、今のは失礼でしたわ。私たちはこちらにおられる神子の世界再生を手伝っています。世界の未来のために導師スピリチュアの足跡が知りたいのです」
 
 
リフィルがそう言った瞬間、ドア総督の目が何か確信を持ったような目に変わり、僕たちを鋭く睨み付けていた。敵視する視線。どうやら僕たちは厄介な事に巻き込まれたのかもしれませんね…。
 
 
「神子様はつい先ほど我らの元にお越し下さったわ!この恥知らずめ!神子様の名を語るふとどき者!即刻捕らえ、教会に引き渡せ!」
 
 
総督がそう叫んだ瞬間、どこかに控えていた兵士たちがわらわらと現れて僕たちの事を囲んだ。どうしましょうか、この状況。そう考えながらホルダーに収まっている銃に手をかけた瞬間、コレットの微かな悲鳴が聞こえてきた。
 
 
「きゃあ!」
 
 
兵士たちに驚いて慌てたコレットがその場で見事に転んだようだった。しかしその瞬間、まるでタイミングを計ったかのように天使の羽がその背から現れた。ドア総督はその羽を見るなり顔色を変えて、兵士たちに叫んだ。
 
 
「ま、待て!みんな、武器を納めよ!この方は間違いなくマナの神子様だ!あなた様の背中に見えたものは紛れもなく天使の翼!我らが無礼をお許し下さい。神子様」
 
 
ドア総督と、その隣に立っていた男性が深々と腰を追って謝ると、コレットは慌てたように頭を上げさせた。
しかし、彼らはとんでもない失態を犯してしまったようです。話を聞くと、彼らはその再生の書を先程訪れたらしい偽者たちに渡してしまったそうです。その事についてジーニアスが辛辣な言葉を並べましたが、リフィルがすぐに止めさせていました。けれど、この状況をどうすれば良いのやら…。そう思って色々考えていたら、ふととある事を思い出しました。
 
 
「そういえば、先程コレットがぶつかった人たち、彼らがそうではありませんか?」
 
 
そう、この総督府に来る前に、コレットはとある人たちにぶつかってしまったのです。コレットはぶつかった拍子にその人たちが持っていたパルマコスタワインを落としてしまい、弁償する事になったのです。そして彼らにパルマコスタワインを弁償した後に、彼らは何かを話し合っていました。
 
 
「ハコネシア峠にいらっしゃるご老人に売りつける…、と言う会話をしていませんでしたか?」
 
 
僕がそう言って首を傾げると、ロイドは思い出したそうに頷いた。
 
 
「そういえばしてたな!」


「すっごい!フェルディ!」


「ふむ、では行こうか」
 
 
クラトスが総督府を出て行ったのを皮切りに僕たちは次々と総督府から離れ、そのハコネシア峠に向かう事にしました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「通行証なら、一人100,000,000ガルドで発行するぞ」
 
 
目的地のハコネシア峠に着いた僕たちは、とりあえず近くにあった小屋に入る事になりました。そこにはコットンと言う老人がいて、その人が一番最初に言った言葉がこれでした。かなりむちゃくちゃな事を言ってませんか?
 
 
「すみません、最近耳が遠くて…。もう一度おっしゃってください」
 
 
きっと僕の耳はどうかしてしまったに違いありません。ですからきっとこの良心溢れるご老人の仰った額がとてつもなく聞えるに違いありません。むしろそうであった欲しいのですが…。
 
 
「通行証なら一人100,000,000ガルドで発行するぞ」
 
 
何度聞かれても変わらない、みたいな雰囲気を出しながらそう言ったコットンさん。僕はもう一度だけ、チャンスを与えたいと思います。
 
 
「はい?」
 
 
「だから100,000,000で…」
 
 
この人は学がないのでしょうか?僕はとても心広き人間ですよ?それなのに三度目も同じ言葉を繰り返すとは…。三度目は安くしないといけないでしょう?額がデカすぎるんですよ。
 
 
「こっちが下手に出てるからって調子乗ってんじゃありませんよ?仏の顔も三度までって知りませんか?」
 
 
ホルダーから素早く一丁の銃を取り出して額に突きつけると、コットンは竦み上がった声を出して後退りした。僕はあくまで笑顔を崩す事無くコットンへじりじりと近づいて追い詰めていった。そんな僕を見て、コレット以外の人たちが冷や汗を流していたのを、僕は知らない。
 
 
「あれ?随分大きな教典…」


「おお、清純派の嬢ちゃん。お前は見る目がある!」
 
 
コットンは僕の事が余程怖かったのか、まるで逃げるようにコレットが見ていた経典の方へと近づいていった。僕はそんな情けない姿を見て大きく溜息を吐いた。反対にコレット以外の皆さんは安心したような息を吐いていましたが…。
 
 
「これはのう、マナの神子様から買わせていただいたものじゃ。大変珍しい教典で、導師スピリチュアの伝説が記されているんじゃ!ずっと手に入れたかったんじゃが、ドア様は手放すはずもないと諦めておったところじゃ。まさか神子様が譲って下さるとは。ありがたや〜」
 
 
「それ、譲ってくれよ!いや、見せてくれるだけでもいい」
 
 
コットンの言葉を聞いたロイドはすぐさまそれが求めていた物だと理解し、そう詰め寄った。しかしコットンはそのしわだらけの顔を歪めて嫌そうな顔をした。どうやらそれを見せるのを嫌らしい。
 
 
「見せて頂くだけですが?」
 
 
再びしまっていた銃を引き抜いて額に突きつけてやりましたが、どうやらこの頑固なご老人はどうしても見せてくれないようです。顔を真っ青にしながら必死に首を振っていたのですから、余程なのでしょう…。チッ!
 
 
「どうしてもと言うのなら、ここに来る途中にある救いの小屋にあるスピリチュア像をもらって来るんじゃ。そうしたら考えてやらんこともない」
 
 
スピリチュア像、ですか…。僕はもっと簡単に事が運ばないかとコットンに無言の視線を送り続けましたが、コットンは頑固にもひたすら首を横に振っていました。これ以上は、脅しても無理そうですね…。
 
 
「仕方ありません。一度退きましょう」
 
 
重たい溜息を吐きながらコットンの小屋を出ると、またしても安心したような溜息がコレット以外から聞えてきました。僕は平和的解決を望んだだけだったのですが、いけなかったんでしょうねぇ…。
そんな事を考えていると、峠にいた人たちが何やらざわめいていました。その言葉を上手く聞き取れなかったので、僕は一人の男性に話しかけました。
 
 
「何かあったのですか?」
 
 
男性は僕たちの事を見ると、旅人だとすぐに分かったのか話し始めた。
パルマコスタに行かない方がいい。ディザイアンたちがあそこに向かったらしい。人間牧場の主、マグニスも一緒だったそうだ。ほとぼりが冷めるまでいた方がいい。
男性はそれだけ言うとすぐにその場を離れていきました。パルマコスタに、ディザイアンが…。それを聞いてロイドが黙っているはずがありません。もちろん神子である彼女も。
 
 
「パルマコスタに行こう」
 
 
あまりにも重たく、強い意志のこもった声に、誰も反対する事は出来なかった。
 
 
 
 
 

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