ドジな暗殺者


 
 
 
 
 
暑苦しかった砂漠を越えるためにオサ山道を進んで行く僕たち神子一行。コレットの調子も良くなって次の封印の場所へと向かうためにパルマコスタに向かう事になりました。そして現在の状況。誰か良く分からない人物に絡まれています。
 
 
「待て!」
 
 
その人は見た事のない服を着て、見た事のない武器を構えてこちらを見ていました。僕は、彼女の服装を遠い昔に見た事があるような気がした。
 
 
「この中にマナの神子はいるか?」


「あ、それ私です〜」
 
 
コレットがにこにこしながら答えてしまう。それを見た瞬間本当に彼女が神子で大丈夫なのか心配になってきた。どうしようもなく警戒心が足りないと思います。相手は武器を構えているのにも関わらず、すぐに答えてしまうなんて…。
 
 
「覚悟!」
 
 
変な人物は武器であろう札のような物を構えてコレットの方へと走り出した。僕はどうしても乗り気になれないので、とりあえず威嚇射撃でもしようとホルダーから一丁だけ銃を取り出した。が、その瞬間…。
 
 
「「「「…あ」」」」
 
 
不幸?いいえ、全く全てが不幸と言うわけではないんです。コレットがさっきの変な人に驚いて転んだ拍子に近くにあったレバーを倒してしまった事は、ある意味幸運なんです…。ただ文句があるとするならば…。
 
 
「何故僕も巻き込まれているんですかー!!」
 
 
そう、偶然なのか運命の悪戯なのか、僕と変な人の足元にあった仕掛けが開いてしまって、足場が一気に消えてしまった。もちろん僕たちは重力にしたがって下に落ちるわけですよ…。
結構な深さがあるのか、下まで見えず薄暗い。その昔山道と呼ばれていたのですからそれなりの深さはあって当然でしょうが…。上手く着地できるか心配ですが…。まぁ、大丈夫でしょう…多分…。
 
 
「なんて奴だいっ!!」
 
 
僕の隣で現在一緒に落下中の変な人も上手く着地しようと空中でバランスを取っている。というか、彼女はこの高さから上手く地面に着地しようと思っているみたいですね…。凄く痛そうです。
 
 
「僕は運が良いのか悪いのか…」
 
 
何というか、自分の運のなさに涙が出てきてしまいます。
僕は上手く着地をするために、残っていたもう一丁の銃をホルダーから抜いて、下の方へと照準を向ける。まだ深さがあるのか地面は映らない。空中で上手い事バランスを取りながらきっちりと銃のグリップを握る。
 
 
「行きます!フリーズランサー!!」
 
 
知っていると思いますが、高い所から落ちた場合、木などがあれば高確率で生き残れるそうです。方法はいたって簡単。木の枝をクッションにして地面へ墜落する衝撃を柔らかくする、という方法です。これをやると怪我はしてしまうものの、生き残れる可能性が高いと…。
僕がフリーズランサーをしたのはそれと同じ事なのです。氷は木の枝の代わりを果たし、僕の体が猛スピードで地面と接触する事を止めてくれました。僕はそれを利用して一気に地面へ着地した。隣にいた変な人も上手く着地したようです。しかし、この高さから着地して平気とは…。足とか痛くないんでしょうか…?
 
 
「ええっと…大丈夫ですか?」
 
 
ここは一応人として声をかけなければいけないと思った僕は、変な人に声をかけてみた。すると変な人は漸く僕の存在に気がついたのか、慌てたように武器を…札を構えました。しかし僕はそれを見て困惑するしか出来ませんでした。何故なら僕には全く敵意がないからです。
 
 
「あの、とりあえずしまってもらえません?僕は戦う気なんて無いので…」


「な、何言ってるんだい!?あたしはあんたの仲間を狙ってるんだよ!?」
 
 
興奮したようにそう叫んだその人は、札を力強く握っていた。僕はその様子を見ながら出来るだけ安心させるような柔らかい笑みを浮かべた。武器はもちろんホルダーに入ったままで。
 
 
「落ち着いてください。僕には敵意はありませんし、ここから脱出する事を優先させたいのです。だから、一緒に出ませんか?」
 
 
「あ、あんた変な奴だね…。言っとくけど、今だけだからな!」
 
 
「分かってますよ。では自己紹介しますね?僕はフェルディと申します。あなたは?」
 
 
「あ、あたしはしいな…」
 
 
ゆっくりと警戒させないように握手を求めると、彼女は一瞬警戒したような雰囲気を見せたが、すぐに僕の手を取って握手をしてくれました。僕はその行動に少しばかり目を見開いた。暗殺者という割に彼女の警戒心はそんなに強くなかったのです。
 
 
「とにかく一旦ここを出ましょうか。埃っぽいですし…」


「ああ、そうだね」
 
 
しいなはそう言って頷くと、いとも簡単に背中を見せました。その行動にも僕は驚きました。仮にも先程まで敵という位置に存在していた僕に対し、そんな簡単に後姿を見せるなんて…。先程の握手もそうです。僕がもしも油断する瞬間を狙っていたらどうするつもりだったのでしょうか…?あるいは僕の事を倒せるという自信を持っているのか、それとも僕がそんな事をする人間ではないと確信しているのか…。ふむ、これはどう解釈したら良いのでしょうか…。彼女の人柄と、捉えるべきなのだろうか…。
 
 
「そういえばあんた…」
 
 
考え事をしていた僕の耳に飛び込んできたしいなの声で、僕は漸く思考の海から帰ってきた。気がつけばしいなは足を止めて僕の方を振り返っていました。その視線は僕の腰にあるホルダーへと向けられていた。純粋な疑問がその瞳に浮かんでいる。
 
 
「その武器不思議な造りをしてるけど、どこから手に入れたんだい?こんな世界でそんなに良い物があるとは思えないけど…」
 
 
しいなが僕の腰に収まっている二丁の拳銃を見ながら興味深そうに声を上げていた。僕はその瞬間、肩を微かに震わせてしまった。幸い、彼女は気がついていなかったみたいですが…。そっと腰のホルダーに収まっているものへ手を伸ばして、その形を確かめるように触る。
 
 
「これは…とても大切な物です…」
 
 
何よりも大切な物。これを無くしてしまったら、とんでもない事になってしまうほど大切な…、それこそ世界と同等、あるいはそれ以上に大切な物…。
 
 
「何か暗い空気になっちまったね!悪かったよ、嫌な事思い出させて」


「いえ、嫌な事ではありませんよ。ただ昔を思い出しただけですから」
 
 
上手く、笑えているでしょうか?
 
 
「そうかい、じゃあ進もうか」
 
 
努めて明るく振舞おうとするしいな。僕はそんな彼女の背中を見ながら申し訳ない思いで一杯でした。本来ならば僕がもう少し普通に受け答えしていれば、こんなに重苦しい雰囲気にならずに済んだものを…。僕はどうしても思い出してしまうのです。この銃を手にした時の事を…。
 
 
「もうすぐ出口ですね」
 
 
風の音がする。それに吹いてくる風が僕のマフラーを微かに揺らしている。それと一緒にロイドたちの声も聞えてきて、僕はゆっくりと瞬きをした。ここまで来れば後は彼らと合流するだけ。残りの問題は、彼女との戦闘を回避する事。
 
 
「声が聞こえるね!あいつらだ」
 
 
しいながそう言った瞬間、忘れかけていた事を思い出したのか、僕の方を見た。そう、僕はロイドたちの仲間。例えここまで一緒に来た仲とは言え、戦闘しなければいけないと覚悟しているのでしょう。しかし僕は無駄な戦闘はしたくないと考えている。その気持ちを表すように僕はしいなに向かって苦笑した。
 
 
「戦闘しなきゃいけません?」
 
 
苦笑したまま小首を傾げてそう言うと、しいなは気の抜けたような、けれど安心したような顔をした。彼女はどうやら暗殺者に向いていない性格をしているようです。すぐに人を信用してしまうような感じですし、警戒心も薄い。僕との戦闘もしたくなかったようですし。
 
 
「あんたといると気が抜けるよ…。いいさ、時間はまだあるさ」
 
 
しいなは一旦目を閉じて気持ちを落ち着けるように深い息を吐いてから、光が差し込んでいる木の板を蹴り飛ばして外へと飛び出した。
 
 
「待てっ!」
 
 
しいなを見た時の皆さんの反応はそれぞれ違いましたが、とりあえず何故かコレットは安心したような声を出してしいなに近づこうとしていました。しいなは先程の事を思い出したのか、後退りしていましたが…。
 
 
「今日はお前たちの仲間のために退いてやる。けれど覚えてろ!」
 
 
いつの間にか手に握られていた煙玉を足元で爆発させると、彼女はすぐにいなくなってしまいました。まるで瞬間移動をしたかのような動きに、皆さん目を見開いていた。僕はそんな彼らといなくなった彼女に対して苦笑を漏らしていた。
 
 
 
 
 

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