内緒話と秘密


 
 
 
 
 
旧トリエット遺跡を出た後、コレットは天使化の代償によって体調を崩してしまったので、彼女を休ませるためにここで焚き火をする事になりました。木はロイドたちに集めてもらい、僕はその木に魔術で火を灯し、ジーニアスは料理をしました。
出来上がった料理を食べると、とても美味しかった。ジーニアスは料理が上手いのか、手際が良かったと思い出される。そんな僕のすぐ近くで、コレットが咳き込んでいました。その時は大して変だと思わなかったが、コレットはどこか変だった。顔色は悪いままだし、食べ物は咳き込んであまり食べていないようだし…。もしかしたら彼女は…。
 
 
「フェルディ?どうしたんだよ、難しい顔して」
 
 
焚き火を見つめながら考え事をしていると、同じように焚き火の近くに座っていたロイドが僕に声をかけた。どうやら考え事をしていたら難しい顔をしていたようです…。僕は急いで難しい顔を止めて笑顔を作った。
 
 
「すみません、少しばかり考え事をしていたもので…」
 
 
色々と、ね…。
 
 
「何を考えていたんだ?」


「きっとあなたにはわかりませんよ」
 
 
クスクスと茶化すように笑うと、ロイドは何だよっ!と声を上げてから拗ねたように焚き火へと視線を移した。そんなロイドに苦笑しながら、先程どこかへふらりといなくなってしまったコレットの事を思う。彼女はきっと食べなかったのではないと思う。僕の予想が間違っていなければ…。
 
 
「僕はコレットの様子を見てきますよ」
 
 
今頃何をしているのか心配になってきたので、そう言って立ち上がると、ロイドが視線だけをこちらに向けていました。その目は何しに行くんだ?と尋ねるような目だった。僕はそれに苦笑しながらも、何も答えずに焚き火から離れ、コレットがいる場所へと歩き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
コレットが向かった場所へ歩いていくと、彼女は草の上に座りながら膝を抱えていた。その姿はどこか儚げで、悲しそうな雰囲気が出ていました。僕はあえてそれに気づかない振りをして彼女へと声をかけた。
 
 
「休めてますか?」
 
 
僕が声をかけながらその横に腰を下ろすと、彼女は驚いたように僕の顔を見た。ちょっとその反応に悲しみを覚えながらもにこりと笑う。そんなに僕がここに来たのは予想外だったのでしょうか…?
 
 
「フェルディ、どうしたの?」
 
 
コレットは驚いた顔をすぐに引っ込めると、貼り付けたような笑顔で僕に笑いかけた。何かを悟られたくないのか普通を装う彼女。しかし先程見た背中は本当の気持ちを表していた。今の彼女は何かを悲しんでいた。けれどそれを僕に悟られまいと必死に笑顔を作っていた。僕は、とりあえず彼女の感情に気付いていない振りをする事にしました。
 
 
「コレットが一人でここへ来たので、どうかしたのかと心配したんですよ?大丈夫ですか?食事も咳き込んでいたようですし…」
 
 
先程咳き込んでいた様子を思い出しながらそう問いかけると、コレットの瞳に一瞬動揺が浮かんだ。しかし彼女はそれをすぐに笑って誤魔化した。しかし先程の笑顔よりもぎこちない。余程鈍感でなければすぐに気づかれるような笑顔。
 
 
「本当ですか?」
 
 
念を押すように深くそう問いかける。
 
 
「大丈夫だよ!」
 
 
にこりと微笑んだ顔。動揺が少し取れたのか、作り笑いが上手くなっていた。少し前のぎこちないものとは違う笑み。しかし僕も笑顔を作っている人間。相手の作り笑いくらい分かるんですよ?
 
 
「嘘でしょう」
 
 
ぴたりと、コレットの笑みが止まる。僕は顔を歪めて彼女の顔を見た。笑顔が剥がれていき、完全に動揺した表情になった。それは嘘笑いがバレていないと思っていたからなのか、僕の目が彼女の隠したい事を理解しているからなのか…。
 
 
「な、何が嘘なの?食べ物はちゃんと食べたよ…?」
 
 
無理している事は明らか。その声も上擦っていて、動揺が隠しきれていない。彼女の性格上、みんなに心配かけたくないのは分かります。けれど、頼ってもらえない方がどれだけ辛いか…。
 
 
「…誰にも心配かけたくないのですか…?けれどそれでは、あなたが苦しいだけでは?一度、吐き出してみてはどうですか?」
 
 
そう言って微笑みかけた後に、一度立ち上がってコレットの背後に回り、背中を預けるように座りなおした。これならコレットの表情は見えないし、どんな顔をしていても問題ない。泣きそうな顔も辛そうな顔も見られずに済む。コレットは僕の行動の意味を察したのか、ゆっくりと喋りだした。
 
 
「あのね…。食べ物を食べると気持ち悪くて吐き出しちゃうの…」
 
 
ゆっくりと話し出したコレットの声は震えていた。泣くのを耐えているのか、この状態が自分でも恐ろしいと感じているのか…。僕にはその声だけでは理解出来なかった。
 
 
「こんなの変だよね…」
 
 
「そんな事ありませんよ…」
 
 
彼女の言った言葉が、どこか重たく感じられた。変?そんな馬鹿な。彼女を変だというのならば、僕は一体何だというのだろうか。僕は彼女のように世界を救う事なんて出来ないし、ロイドのように彼女を支える事なんて出来ない。
 
 
「フェルディ…?」
 
 
…考え事をしていると、他の事が目に入らなくなる。これは僕の悪い癖。何度も直そうと試みるけれど、やっぱり一度ついてしまった癖はなかなか取れなくて…。あの人の癖が、抜けなくて…。
 
 
「大丈夫です。変でも気持ち悪くもありません。ロイドならきっと言ってくれますよ?例えどんなに変わろうともコレットはコレットだ、って」
 
 
あの純粋で曲がった事が大嫌いなロイドなら絶対に言うに違いない。いっそのことロイドに打ち明けてしまえば、彼女の心だって少しは安らぐかも知れないのに、彼女は彼に心配をかけたくないからそれを拒んでいるんでしょうね…。僕ではどうにも出来ない事だ。
 
 
「さて、戻りましょうか?」
 
 
預けていた背中を離して立ち上がるが、コレットはその場に座ったまま立ち上がる気配を見せない。僕はその行動に不審を覚え、彼女の腕を取って無理矢理立たせた。
 
 
「えっ?」
 
 
コレットが困惑したよう声を上げるけれど、それを無視して彼女の手を引く。
もしも彼女が食べれないだけではなく、他のものを失ってしまったとしたら、もう引き返す事など出来ないだろう。彼女はそのまま天使になって…。そこまで考えると首を振る。嫌な想像はしないようにしましょう。そうなるとも限らない。
 
 
「ちょっと、フェルディ〜?」
 
 
コレットは掴まれている手を離して欲しそうにしていましたが、僕はそれに応える事無くその手を引っ張って焚き火を囲んでいる皆さんの所へ連れてきた。そう見ても無理矢理連れて来たようにしか見えない僕を見ると、ロイドが吃驚したような声を上げた。
 
 
「えっと…引っ張って来たのか…?」
 
 
動揺を滲ませたロイドの声に、微笑だけで応えるとロイドは微かに肩を跳ねさせていた。僕はそんなロイドを脇目で見ながら皆さんの方を見る。
 
 
「お休みくださって構いませんよ?僕が番をするので」
 
 
促すように背中を押してやると、クラトス以外の人が僕の言う通りに眠る体勢を取ってくれました。コレットは何か渋っていましたが、寝るように促すと素直に寝てくれました。残りはクラトスだけ…。なかなか強敵が残ってしまいました。
 
 
「クラトスは寝ないのですか?」
 
 
他の人が寝たのを確認した後に焚き火の前に座っているクラトスへと声をかける。クラトスは僕の事をちらりと見ると、焚き火へと視線を落とした。
 
 
「…信用のないお前に隙を見せるワケにはいかない」
 
 
傭兵である彼らしい答えだと思うと、思わず苦笑を漏らしてしまった。彼はそんな僕を見て、訝るような視線を向けた。僕はただその視線に微笑んでから焚き火の前に座った。
 
 
「傭兵だからそう言っているみたいですけど、実際あんまり僕の事警戒していないですよね?」
 
 
確信だった。初めて会った時からクラトスは僕に警戒心を強く抱いていなかった。微かな警戒はあったものの、あまりにも薄い警戒心に少し驚いたものです。クラトスのような人物ならば、僕の事をもっと警戒してもおかしくないくらいなのに…。
 
 
「何故そう思う?」
 
 
クラトスは僕にその事がバレていないとでも思っていたのか、微かに目を見開いて驚いていた。僕はそんなクラトスの表情に笑いながら、最初の時の事を思い出した。
 
 
「だって初めて僕に会った時、あまり警戒せず戦闘に参加していましてよね?僕の武器は飛び道具だったにも関わらず」
 
 
クラトスに微笑みながらそう言うと、少し失態を犯したような苦い顔をしていた。それから一度僕の顔を見てから口を開いた。
 
 
「……昔、私と会った事無いか?」
 
 
クラトスは何か言いづらそうな声を出しながら僕にそう尋ねてきた。僕と昔どこかで…?有り得ないと思う。僕はつい最近まであまり外には出ていなかったのだから。
 
 
「無いと、思いますが…」
 
 
「そうか…。すまない、人違いだ」
 
 
クラトスは目に見えてホッとした表情をした。僕はそのクラトスの表情を見て目を緩く細めた。
 
 
「………僕と似てる人ですか?」
 
 
「いや、顔立ちや性格はあまり似てると言えないが、雰囲気や髪の色が似ている」
 
 
心当たりが、ある。クラトスの言葉を聞いて確信を持つ事が出来た。彼が見た僕に雰囲気が似ている人物。僕はその人物を知っている。けれど、僕はその事をクラトスに言わないでおこうと思いました。だってもしもその人の事を話してしまったら、僕はここに居続ける事が出来なくなってしまうから…。
 
 
 
 
 

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