不審な歪み


 
 
 
 
 
じりじりと陽が照りつける砂漠の昼。夜はあんなに寒かったというのに、昼間はこんなにも暑くなっている。ロイドたちはこの暑さに体力や気力を奪われ、日陰の所に座り込んで休憩を取っている。時間帯によっては日陰が無いのですが、もう少ししたらこの場所にも暑い太陽が照りつけるでしょう。
 
 
「暑いですね…」
 
 
「心にも無い事言うなよ…」
 
 
風によってなびくマフラーを手で直しながら照り付けてくる太陽を見上げる。眩しくて上手く見えないので、目を細める。視界の端ではロイドたちがぐったりとした様子で岩に座り込んでいた。もうその足元まで日の光が伸びてきていた。太陽はもう少しで真上に昇る頃。一番暑い時刻でしょう。
 
 
「僕はとても暑いんですけどねぇ…」
 
 
にこりと爽やかな笑みを向けながらそう言うと、ロイドの隣でぐったりと座り込んでいたジーニアスが胡散臭そうな視線を向けてきた。その目は明らかに呆れを含んでいた。全く持って酷いです。
 
 
「そんないかにも暑そうなマフラーしながら言われても説得力ないよ。しかも汗一つかいてないし…」
 
 
呆れている視線が一変して羨むようなものになったので、とりあえず困ったように笑っておくことにした。それから僕たち以外の人…リフィルやクラトスに視線を向ける。
 
 
「ですが、リフィルもクラトスもあまり疲れてないようじゃありませんか」
 
 
楽しそうな視線を二人に送ると、二人はこちらをちらりと見るだけだった。リフィルは呆れたように僕たちを見、クラトスは何も言わずに腕を組んだまま黙っているだけだった。どちらの反応も面白くないので、つまらなかった。もう少し反応を示して欲しい所ですが…、この二人にそれを要求するのはダメですね…。
 
 
「なあ先生!旧トリエット遺跡ってどこにあるんだよ?」
 
 
ぐったりとしたロイドの様子を見ながら、リフィルは手元にある地図を広げて位置を確認する。僕もその地図を見たくてそっと近づいて覗き込む。遺跡からここまでそれ程距離があるようには見えませんでした。
 
 
「もう少しです。行きますよ」
 
 
地図を折り畳んで懐にしまったリフィルは、ロイドを一瞥すると遺跡の方に向かって歩き出した。クラトスもロイドたちを一瞥するとリフィルについて歩き出した。ロイドはそんな二人を見ながら、だるそうに体を持ち上げ、二人の背中を見た。
 
 
「先生たちは何であんなに普通なんだよ…」
 
 
「ロイド!行こうよ〜」
 
 
座っていた岩場から立ち上がったコレットは未だに座り込んでいるロイドの服の裾を引っ張って立たせると、リフィルたちの後に続いて歩き出した。ジーニアスもその様子を見て漸く立ち上がり、ロイドの横に並んでゆっくりとだけど歩き出した。僕はそんな二人を見ながらその後ろをついていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「これが旧トリエット遺跡ですか…?」
 
 
遺跡と言うには荒れ果て、建物も崩れ去ったような痕跡が残っている。遺跡というよりも廃墟といった方が正しいのかも知れない。寂しい場所だと、思う…。
 
 
「ふふふ…」
 
 
そんな寂しい場所に、相応しくない笑い声が微かに聞こえてきた。いきなり聞こえてきた笑い声に訝るような視線を向けると、その声の発信源はまさかのリフィルだった。その血色の良い唇から発せられる笑いは、とてもじゃないけど綺麗ではない。不気味といった方がいいでしょう。
 
 
「ふふふふふ…。あっはははははは!!」
 
 
リフィルのいきなりの笑い声に、思わず肩を跳ねさせ、後退する。普段のリフィルからは考えられない笑いに、思わず顔が引きつる。あまりにも恐ろしいこの光景に、僕はどうしていいか分からず、ただ後退する事しか出来なかった。
 
 
「素晴らしい!!見ろ、この扉を!周りの岩とは明らかに性質が違う。くくくく…思った通りだ。これは古代対戦時の魔術障壁として開発されたカーボネイトだ!ああ、このすべらかな肌触り。見事だ!」
 
 
リフィルはカーボネイトと呼んだ素材で出来た床に膝と両手を突くと、頬擦りをし始めた。その表情は恍惚としていて、とてもじゃありませんが普段の彼女とは思えませんでした。
 
 
「ああ…隠してたのに…」
 
 
そんなリフィルを見ながら弟であるジーニアスは重たい溜息を吐いていた。どうやらリフィルのこれに度々悩まされているようですね…。ご愁傷様です…。
 
 
「ん?このくぼみは…。神託の石版と書いてあるな。コレット、ここに手を当てろ。それで扉が開くはずだ」
 
 
頬擦りを止めてすくっと立ち上がったリフィルはすぐ近くにあった石版へと視線を向け、コレットに指示した。コレットは元気良くそれに答えると、石版に手を置いた。すると先程まで床だと思っていた所が開き、階段が現れた。
 
 
「開きました!…すごい!何だか私、本当に神子みたいです」


「神子なんでしょ、もー」
 
 
コレットが目をきらきらさせて興奮気味にそう言うと、ジーニアスが呆れた声を出した。コレットは神子としての自覚が薄いのか天然なのか…。誰もコレットに勝てそうにはありませんね〜。
とりあえず遺跡の中に入るために階段を下りていく。下からは噎せるような熱気が来ているのか、ロイドたちの顔は歪んでいました。しかし僕は暑さなどに疎いので、全く分かりませんでしたが…。
 
 
「暑い…」
 
 
「気にしている場合じゃないですよ。早く進まないと」
 
 
文句を言っているロイドに指を指して前の方にいる人物たちに視線を向けさせる。そこには意気揚々と足を進めているリフィルと、その後ろを淡々とついていくクラトス。そしてそれに大人しくついて行っているコレットとジーニアスがいた。
 
 
「え、ちょ、置いてくなよ!?」
 
 
ロイドがそれに気がついて急いで駆け出したので、僕もそれに続くように駆け出した。ロイドが文句を言ってもリフィルの耳には届いていないようで、ただきらきらと目を輝かせながら辺りを見回していた。
 
 
「シカトってやつですね」
 
 
クスクス笑ってリフィルを見つめていると、隣のロイドが大きく肩を落として小さな声で、今の先生怖いぜ…、と呟いていた。そんなロイドに苦笑していると、一行の足がある場所でぴたりを止まった。後ろにいたのでどうしたのかと前の方を見ると、なにやら不思議な台座があった。
 
 
「転移装置ですか…?」
 
 
この世界ではめったに見ることの出来ない高等技術が目の前に存在していたので、自信なさげにそう聞くと、クラトスが淡々とした声でそのようだな、と答えた。捕まった時もかなりの技術を見ましたが、こんな遺跡にまでこのような技術が存在しているとは…。
クラトスはその転移装置に乗ると、一瞬にしてその姿が掻き消えた。それを見たリフィルはまだ興奮が冷め遣らぬ様子で転移装置に乗った。他のみんなもそれに続くように転移装置へと乗っていった。
 
 
「ここも魔科学で作られているな。素晴らしい!」
 
 
転送された先で、リフィルがまたしても大きな声でそう叫ぶ。そろそろ静かにしてもらえると嬉しいのですが…。そしてそのままリフィルは裁断の方へと近づいていく。するといきなり地震のような振動が起こり、体がぐらつく。
 
 
「うわっ!何!?」
 
 
祭壇からいきなり強い光が放たれて、目が眩む。それと同時に強いマナの気配がして、僕が素早くホルダーから銃を引く抜いて構える。
 
 
「魔物っ!?」


「いえ、封印を守る守護獣よ!」
 
 
光が収まって現れたのは、溶岩のような真っ赤な体をした巨大な魔物。その体のあちこちには鋭い棘がつけられていて、そのまま突っ込んでしまえば串刺しになってしまうのではないかと思うほどだった。
 
 
「油断するなよ」
 
 
クラトスはそう言うと剣を一気に引き抜いて魔物へと斬りかかっていった。クラトスは相当の腕なのであの棘に関して心配はいらないでしょう。しかし、最も心配しなければならないのはロイドだ。彼の性格からして真っ直ぐ突っ込んで行きそうなんです。
 
 
「呑まれろ、スプレッド!」
 
 
極限まで詠唱を短くして水系の魔術を放つと、魔物は悲鳴を上げながら体をくねらせる。火の封印の守護獣なのだから、水に弱いのは当然だと思ったからだ。そして魔物が水系の魔術に怯んでいる隙に、クラトスがその危険な棘を削ぎ落とす。その瞬間にタイミングを見計らったかのようにロイドが魔物の懐へ飛び込む。
 
 
「散沙雨!」
 
 
何回も鋭い突きを棘がなくなって無防備な所へ浴びせると、魔物は悲痛な叫びを上げてその場に倒れこんだ。その魔物がマナとなって消え去った瞬間、祭壇が光り、上の方から一つの光が降りてきた。その光は一気に天使の姿になると、コレットへと声をかけた。
みんなはただ黙ってその光景を見つめていたけれど、僕はその光景を素直に喜ぶ事が出来なかった。その天使の顔が、やけに歪んで見えたからだ。
 
 
 
 
 

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