旅の理由


 
 
 
 
 
こちらには剣に慣れた男性と、回復術を使用する女性、それに魔術を使用する少年がいたこともあって、ボータはすぐに退いてしまった。その後、僕たちはとりあえず近くの町であるトリエットに向かう事になりました。そして宿を三室ほど取った後に、その内の一つの部屋に全員が集合する事となりました。
 
 
「あなたの名前、聞いてもよろしくて?」
 
 
先ほど回復術を使用していた銀髪の女性が椅子に腰掛けながら僕に声をかけた。僕はとりあえず少しだけ周りの状況を確認してから女性の方に視線を向けた。
 
 
「僕の名はフェルディです。名乗って頂けますか?」
 
 
にこりと笑みを浮かべると、銀髪の女性は少しばかり警戒したような気配を見せた。まあ、確かにいつの間にかロイドと共に行動していた不審人物でしょうけど、力を貸したんですから、そんな目で見られる筋合いは無いんですけどね…。
 
 
「リフィル・セイジよ。こっちは私の弟のジーニアス」
 
 
リフィル、と名乗った女性は近くにいた同じ銀髪の少年に視線を向ける。先程魔術を使っていた少年がジーニアス、と言う名前なのですね…。彼に視線を向けると、別に警戒した様子は無く、どちらかと言うとロイドたちのように警戒心が無いような目を向けていた。
 
 
「私はコレット・ブルーネルですー」
 
 
視界の端で金髪の少女…神子様がにこにこしながら手を上げてそう名前を名乗った。さらりと揺れるブロンドの髪はとても綺麗になびいていた。
 
 
「神子様…ですよね…?」
 
 
「あ、はい。良く分かりましたね〜」
 
 
「ボータがそう呼んでいましたから…。何とお呼びすれば?神子様とか?」
 
 
彼女の先程の性格を考えると、こういう態度を好ましいと思っていないのは承知の上。それでもこの場でいきなりそんな事を口にするのは警戒心を高めてしまうのと同じ事。故に少し慎重に、彼女が言い出すのを待つ。
 
 
「名前で呼んで欲しいな!それに敬語も無しがいいな!」
 
 
やはり予想通り彼女は僕に敬称無し、敬語無しを申し立ててきました。分かりきっている事なのですが、ここまで素直だと逆に心配になってしまいます。簡単に騙されたりしないかとか…。
 
 
「ではコレット…ですね…。敬語は癖なので、抜けませんね…。昔からなので、すみませんね」
 
 
にこりと笑いながら謝罪するとコレットは笑いながらしょうがないもんね、と言ってくれた。それから今まで黙っている壁に寄りかかっている男性へと視線を向ける。先程の剣術といい、相当の強さを持っていると思われます。例え先程手加減していたとしても…。
 
 
「残りはあなたですね。名前、聞かせて頂けますか?」
 
 
「クラトス・アウリオンだ…」
 
 
先程から全く反応を示さず、こちらを見ているだけのクラトス。面白みにかけます…。別に笑いを取って欲しいわけではありませんが…。
 
 
「なあ、フェルディ…」
 
 
不意に声が聞こえたと思ったら、先程から黙りっぱなしだったロイドがこちらを見て口を開いていた。その目はやけに真剣で、基地で見たような顔ではなかった。何となく話の内容を理解していた僕は静かに目を細める。
 
 
「個人の事情とかで誤魔化してたけどさ、お前あいつらに狙われてるんだよな?」
 
 
鈍い鈍いと思っていましたが、変な所でロイドは鋭いようです。
…、彼らが僕を捕まえた理由…。あのユアンは僕の存在を認識していなかった所を見ると、誰が僕を狙ったのでしょうか…?ユアンではない別の人物なのでしょうか。もしくは…。
 
 
「ええまぁ…、ユアンが僕を知らない所を見ると、彼では無いような気がしますが…」
 
 
しかし彼が僕を狙っていなくても、僕の事を知ってしまった人間は死に物狂いで僕を探し出そうとするでしょうね…。僕が僕で在り続ける限り…。
 
 
「先生、俺フェルディを一緒に連れて行きたいんだ!ダメか?」
 
 
ロイドは僕の言葉を聞くと、すぐさまリフィルへと視線を向けた。てっきり怪しまれているって事で聞いたのかと警戒していた僕の予想は、大きく外れる事となった。元々僕は彼らの旅に混ぜさせてもらおうと思っていたので、変な疑いをかけられなくて済みましたが…、それは果たして良い事なのでしょうか?
 
 
「ロイド、この旅はそう簡単な者ではありません。まして彼のような人を巻き込むわけには…」
 
 
「先生、私からもお願いします!」
 
 
コレットまでロイドと同じような事を言い始め、リフィルは少し困惑したような顔をする。それは案に僕をこの旅に加える事を戸惑っているように見えた。彼女は彼らの安全を第一に考えてそう発言しているのでしょうが、彼らはそれを理解するには幼すぎたようです。
 
 
「フェルディ、あなたの意見を聞かせて頂戴。この旅はとても危険だわ。命の保障が出来るような簡単な旅ではありません。それでもこの旅に来たいかしら?」
 
 
厳しい言葉ですね…。危険な旅、と言われれば人は誰でも恐怖するもの。特に命の危険なんて言葉を使われたら、もっと旅をしたいなんて思わないでしょう。おそらくあえてその言葉を使う事によって、僕の恐怖心を煽りたかったのではないのかと思います。けれど、僕にとってそんな言葉は常に付き纏っているもの。今更恐れを抱く事なんてありません。
 
 
「僕は、皆さんがよろしいのならご一緒したいです。さすがに一人で旅を続けるのも大変なので…」
 
 
柔らかい物腰でそのように言うと、ロイドとコレットは目を輝かせた。決まりだな!なんて声を上げるロイドを、リフィルは呆れたような溜息をついて見ていた。作戦が失敗した事を少し悔しく思っているようです。残念ですが、人の気持ちはいつだってどうなるか分からないものなんですよ、今も昔も。
こうして僕は神子様ご一行の旅に付いて行く事になりました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その夜は妙に目が冴えてしまった。どうしてかは分からない。もしかしたら僕はこの旅に参加する事を初めから望んでいたのかも知れない。果たしてこの神子様はどのようにしてこの世界を救うのか。それとも救えず仕舞いで終わりなのか。途中で殺されてしまうのか、はたまた…。様々な事を考えると、僕はどうも考え込んでしまう。今までの神子は最終的に殺されて二度と帰っては来なかった。彼女が世界再生を成功させるか失敗させるかは、彼女とその周りに託されている。
そんな事を考えながら、眠れないこの感覚を冷まさせるために外へと足を運ぶ事にした。今日は月が綺麗に出ている。月見には持って来いだろう。
なんて考えていたら、目の前の馬小屋の前にクラトスが立っていた。彼の視線の先にはとても可愛い生き物がいた。どういう種類の生き物かは分かるけれど、名前を忘れてしまった。確かかなり貴重な生き物だったと覚えている。そんな生き物の前に立っているクラトス。少しばかり興味が湧いてきて、バレるだろうと確信しながらも彼の背後に回る事にした。しかし、彼はすぐに腰に挿している剣に手をかけ、すぐさま振り返って剣を突きつけようとしてきた。僕はホルダーに納まっている拳銃一つを取ってその剣を受け止める。うーん、彼を油断させる事は出来ないものでしょうか?
 
 
「さすがですね」
 
 
受け止めた状態からその剣を話して、後ろに後退してから銃をホルダーにしまいこんだ。クラトスもこちらを確認するとすぐにその剣を鞘に収めた。それから無表情…と言うよりもあまり変わらない表情でこちらを見下ろす。
 
 
「後ろに立つな。危険だぞ」
 
 
「もちろんそれくらい存じています。剣士の後ろは危険だって。驚かせたかったんですけどね」
 
 
少し残念そうな顔をすると、クラトスは呆れたような溜息をついてからまたあの可愛い生き物に視線を向ける。僕はその視線の先にいる生き物を見る。本当に何故クラトスがこんな生き物の所にいるのか不思議でなりません。ギャップが凄すぎです。
 
 
「この可愛らしい生き物は?」
 
 
クラトスが答えてくれるか分からないけれど、問いかけずにはいられなかった。何せこんな貴重な生き物をそうそう見れるものではない。
 
 
「ノイシュだ」
 
 
ノイシュ、と言うのはこの生き物の名前らしい。何とも可愛らしい名前をしていますね。
口元が緩むような感覚がして、ゆっくりと怖がらせないようにノイシュへと手を伸ばす。するとノイシュは嬉しそうに僕の手に擦り寄る。
 
 
「可愛いですね」
 
 
同意を求めようと顔を上げると、そこには多少驚いたように目を見開くクラトスの姿がありました。おや、まさか僕は何かしてはいけない事をしてしまいましたか?特に何もしていないような気がしますが…。
 
 
「何か…?」
 
 
「いや…」
 
 
クラトスは自分が柄にも無く動揺している事に漸く気付いたのか、すぐにいつものような表情を作って視線を逸らしていた。僕にはその理由が理解できなくて首を傾げていると、クラトスがいきなり剣を抜いてある方向にそれを構える。
 
 
「うわぁ!?」
 
 
先程から気付いていましたが、ロイドがうっかりクラトスの背後に立ってしまったようです。ロイドはその切っ先を体勢を逸らす事によって避けたようです。剣士なのですから剣で避ければいいものを、咄嗟の事すぎて判断できなかったみたいですね。まだまだ未熟者ですね、ロイドは。
 
 
「ロイド、クラトスは剣士なんですから背後に立ってはいけませんよ」
 
 
クスクス笑いながら言うと、クラトスが何とも言えない様な表情をしてこちらに視線を寄越していたけれど、無視してロイドの方に話しかける。
 
 
「ところでロイドは何しにここへ?僕たちを呼びに来たわけではありませんよね?」
 
 
「あ、ああ…クラトスに話があって…」
 
 
「分かりました。では僕は宿の方に戻りますね」
 
 
後ろからロイドの慌てたような声が聞こえたけれど、知らん振りをして宿の中へと引っ込んでいった。そして自分の部屋に戻ろうかと階段を上り始めた時、いきなり自分のいる場所に影が差す。
 
 
「おや、リフィル」
 
 
そこには階段の壁にもたれかかるように立っているリフィルがいた。その目は決して優しいものではなく、けれど嫌悪感を秘めたような目ではなかった。つまり、疑惑の目。まだ僕の事を測りそこなっているようです。
 
 
「あなた、エクスフィアをつけているわね?」
 
 
リフィルのその言葉は確信。まあエルフと言っていた彼女たちにとって僕の魔力を知る事なんて造作も無い事なのでしょう。エクスフィアはその人が持っている元々の能力を向上させるもの。僕の魔力は元々高いほうである。さらにエクスフィアで強化しているから…。
 
 
「ええ、そうですよ。僕はエクスフィアを装備している。けれど皆さんだって同じ事では?」
 
 
「あなたが狙われる理由はそれのせい?」
 
 
「さあ?それは個人的事情により内緒です」
 
 
クスリと笑みを浮かべると、リフィルは顔をしかめる。疑い深い人だ。けれどその疑い深さが自分自身を救う盾となるのを良く知っているようですね。ロイドたちは人を疑う事を知らなすぎる。もう少しそれを身に着けるべきだと思います。でないと、大変な事になってしまうかもしれません。
 
 
「あなたがこの旅に参加するのは何故?エクスフィアを狙っているの?」
 
 
「何故僕がそんな事を?」
 
 
「もしかしたら基地に閉じ込められていたのが演技だとしたらどうかしら?私はあの子たちのように甘くはないわ」
 
 
「これは手厳しい。けれど、それは疑りすぎですよ。僕は本当に彼らを知らない。彼らとグルだなんてもっととんでもない。僕は頭の悪い人と付き合うのは嫌いなんです」
 
 
特にあの基地の人たちはあまりにもお馬鹿すぎました。だから僕たちに逃げられるんですよ。次に行く機会があればもっと強化していてもらいたいですね。
 
 
「では何故この旅に?」
 
 
「…彼をもう少し見守ってみたいと思ったから…ですかね…?僕は彼の性格を気に入りました。それだけで十分ではありませんか?」
 
 
嘘は言っていない。僕は確かに彼の、ロイドの性格を気に入っている。純粋で無垢で、この世界には絶望もあるけど希望もあると信じている彼が。そして神子様である彼女にも興味を抱いている。彼女のあの素直さが、これから先どのような効果を及ぼしていくのか…。
僕の発言に呆然としたままのリフィルの横を通り過ぎて、部屋の扉へと手をかける。
 
 
「おやすみなさい、リフィル。良い夢を」
 
 
穏やかな声でそう言ってから扉の中へと入った。中にはぐっすりと寝ているロイド。寝相は、あまりよろしくないようです。僕はそんな彼の姿を見ながらくすりと笑う。彼は僕が見てきた人間の中でかなり特殊な方だ。といっても僕は大して人に触れてきたわけじゃないから、そんなに沢山もいないけれど。
 
 
「純粋な気持ちを忘れずに、ロイド君」
 
 
月明かりだけが照らしている部屋で、僕は静かにベッドに入り眠りにつくことにした。
 
 
 
 
 
 
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