愛されている者


 
 
 
 
 
はいはい、本物の王女様はすでに死んでいましたとも。ナタリアには血の繋がりはありませんとも。使用人の娘で、本名はメリルと言うんだってよ。だからナタリアには自分が王女だと騙った罪があり、どれと同時にアクゼリュスを消滅させた罪があるんだと。
 
 
「ふざけんな」
 
 
世の中ふざけたことだらけだよなぁ?血の繋がりがなんだっていうんだよ。偽物だから娘じゃねぇだと?何ふざけたことを抜かしてやがんだよ、ここにいる大人たちはよ?ああ?
 
 
「おい、随分とふざけたことを言ってくれるじゃねぇかよ陛下よ?」
 
 
壁に寄りかかっていた体を放して玉座まで近づいてそう言い放ってやった。陛下の近くにいたモースが俺に近寄ってその汚い声で叫んだ。
 
 
「貴様!わしの部下でありながら陛下になんて口を利くのだ!」
 
 
部下?このアホ豚は何をぬかしてやがる。俺を従えることが出来る奴なんてこの世界に一人しか存在しないんだよ。だから俺は背負っているリリーを抜いてモースの顔に突きつけてやった。
 
 
「誰に命令してやがる、この豚野郎が。俺が誰の部下だって?勘違い起こしてんじゃねぇよ。俺を従えたいのなら俺を倒してからにしろ」
 
 
あんまりにも腹が立ったからモースを軽く殴り飛ばしてやった。するとモースは醜い悲鳴を上げて脇に倒れこみやがった。ハン!こんな弱い奴が俺に命令するなんて苛々する。ディストたちは俺の行動に目が行っているのかさっきから何も喋らない。まあ、好都合だ。ぎゃーぎゃー騒いでるところで言うような話じゃねぇし。
 
 
「陛下よぉ、あんたにとって子供って何よ?」
 
 
ぎろりと睨み付けるように言ってやると、陛下は顔色を真っ青にしているだけで何も喋ろうとしない。何だ、だんまりかぁ?
 
 
「単なる後継者か?それとも道具か?おいおい、何か言えよ」
 
 
何も喋らねぇこいつに苛立って一歩踏み出すと、視界からいなくなっていたはずのモースがまた視界に入って来た。
 
 
「下賤の者に何がわかると言うのだ!下がれ!馬鹿者!」
 
 
「だからよぉ、テメェは俺に指図出来ないんだよ!視界から消えな!それともこの世から消えたいのかよォ!?」
 
 
リリーを頬すれすれに突きつけて吼えてやると、モースは顔を真っ青にして腰を抜かした。俺はそのモースを見下しながら陛下へと視線を戻した。
 
 
「良いよなぁ大人って奴はよぉ?子供の事を自分の思い通りに出来るって思い込んでてよ?都合が悪くなれば自分の子供じゃねぇって言い張るんだ。とんだ親だな、おい」
 
 
血の繋がりがないから自分の子供じゃないんだってよ。はは!ふざけたことをぬかしてやがる!俺とお義父さんは確かに血の繋がりはないが、親子であることは変わらない!なのに!地位だの名誉だのわけのわからない事で自分の娘を殺すことはあってはならないだろ!!
 
 
「そんなに血の繋がりってのが大事なのかよ!!てめぇはよぉ!!ずっと育てて来たんじゃねぇのかよ!!本物の娘じゃないからって簡単に殺せるほどお前はナタリアを嫌っていたのかよ!?違うだろうがよ!!お前は娘が好きだろうが!!!!俺はなぁ!!そうやって自分勝手に子供を扱う大人が大っ嫌いなんだよ!!子供はお前らの道具じゃねぇ!!死んだから取り換えられるようなもんじゃねぇ!!本人の意思がないところで行われたことを子供のせいにすんな!!それはテメェの罪だ!!本当に裁かれるべきはナタリアじゃねぇ!!お前なんだよ、インゴベルト!!」
 
 
玉座に座っているインゴベルトに向かってリリーを突きつけると、陛下は青い顔を歪めるだけで何も言いやしない。もう、こいつには何を言っても意味がないのかもな…。
踵を返して謁見の間を出ようと足を進める。
 
 
「ど、どこに行くのですか…」
 
 
ディストが恐る恐ると言った感じで俺に声をかけてくる。どこに行くだって?決まってるじゃねぇかよ。
 
 
「俺は腐った大人が嫌いだ。俺はな、子供の味方なんだよ」
 
 
だから俺はルークを助けるし、ナタリアだって助ける。これは俺の意志だ。誰にも邪魔されない俺だけの意志。身勝手な大人たちに振り回される子供を助ける。大人に振り回され続けてきた俺だからこそ、あいつらの気持ちを理解できる。
 
 
「メリルは、お前のせいで両親から離された。大人たちの身勝手な行動で。でも、お前のお陰でナタリアとして生き、そして今も生きようとしている。それを誰にも邪魔させやしない」
 
 
それだけ言い残して俺は謁見の間から出て行った。これだけ言って何も心に響かないのなら、ナタリアには悪いけど、斬り捨てる覚悟も必要かもしれねぇな。預言に縛られただけの奴が国を纏める事なんて出来ないんだよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
街の下に行くと、多くの兵士がいた。しかしその兵士の前には兵士に負けないほど大勢の市民が立ち塞がっていた。ナタリアを助けるためにそれぞれ武器になりそうなものを持って兵士に抵抗している。ナタリアたちは市民に助けられながらも街の入り口付近まで逃げていた。
 
 
「待て!その者は王女の名を騙った大罪人だ!即刻捉えて引き渡せ!」
 
 
しかしナタリアたちを捉えようと大物が出て来たか…。確かゴールドバーグとか言ったか…。随分とごつい格好してんじゃねぇか。腹立つな。ナタリアが騙ったんじゃなくて騙らせたんだろうが。だが、そんなゴールドバーグの周りにも市民が駆け寄って道を塞いだ。
 
 
「そうです!みんな、私は王家の血を引かぬ偽物です。私のために危険を冒してはなりません。どうか逃げて!」
 
 
市民に好かれているナタリアは同じように市民を愛しているのか…。悲痛なナタリアの叫びに市民は叫んだ。
 
 
「ナタリア様が王家の血を引こうが引くまいが俺たちはどうでもいいんですよ」
 
 
「わしらのために療養所を開いてくださったのはあなた様じゃ」
 
 
「職を追われた俺たち平民を港の開拓事業に雇って下さったのもナタリア様だ」
 
 
ナタリアは市民に愛されていた。しかもそれは王女だからではない。市民を助けるために様々なことをしたからこその敬意。市民にとって血など関係ない。自分たちを救ってくれた者こそがナタリア。どんなに罪人と言われようとも、彼らには関係ないんだ…。
 
 
「ええぃ、うるさい、どけ!」
 
 
ゴールドバーグが手に持っていた剣を市民に向けて振ろうとした。ふざけたことをしたんじゃねぇぞ…?
 
 
「軍人が、なめた真似をしてんじゃねぇぞ!!」
 
 
上から一気に飛び降りてゴールドバーグの剣をリリーで受け止める。踏み出そうとしていたルークは突然来た俺に驚いたようだが、気にせずにリリーを振り切ってゴールドバーグの体勢を崩してやった。
 
 
「無力なもんに手を上げるとは最低だな」
 
 
「ええいっ!うるさいっ!」
 
 
体勢を整えたゴールドバーグが再び剣を振り上げて俺に降ろそうとする。その時、視界の端から走ってくる紅の姿が見えたから俺は一歩後ろに身を退いた。その隙をついたかのようにアッシュがゴールドバーグを吹き飛ばした。
 
 
「アッシュ…!?」
 
 
「……屑が。キムラスカの市民を守るのがお前ら軍人の仕事だろうが!」
 
 
「遅いぞ、アッシュ。お陰で俺が出ちまったじゃねぇーか」
 
 
「テメェが勝手に出てったからだろうが。それよりもここは俺たちに任せて早く行け!」
 
 
アッシュがナタリアにそう言っている脇で俺はゴールドバーグのせいで倒れてしまった市民を助け起こしてこの場を離れるように促した。俺とアッシュがいれば大丈夫だから、って。俺と市民が話をしている間にアッシュとナタリアがくそ甘い雰囲気になってたけど、特別に無視してやることにした。
 
 
「それにしても、ほんと、いただけねぇよ」
 
 
もうとっくに起き上がっているゴールドバーグは剣を俺たちに向けていた。ルークたちも逃げたようだし、市民もここを離れるように言ってある。ここにいるのは倒すべき馬鹿とアッシュと俺だけ。手加減なんざいらない。
 
 
「…テメェの過去に何があったかは知らねぇが、大人が嫌いだっつう事ぐらいはわかった」
 
 
「ちげぇよ。腐った大人が嫌いなんだよ。例えば、目の前の腐った軍人とかな」
 
 
手に持ったリリーに力を込めると同時に足に力を込めてゴールドバーグの脇にいた兵士を一人吹き飛ばしてやった。ゴールドバーグは俺の動きが見えなかったのか目を見開いて俺を見ていた。
 
 
「フン!今回ばかりは同じ考えだ!」
 
 
アッシュも俺と同じようにゴールドバーグの隣にいたもう一人の兵士を峰家で吹き飛ばしていた。ここで斬り捨てないのは街の中っていうのと市民がまだいるからだ。一般人にグロいもんは見せられないだろ?
 
 
「さあ、覚悟しな?腐った軍人さん!」
 
 
アッシュと一緒に剣を突きつけると、ゴールドバーグは顔を歪めたが、すぐにその手にある剣を振り下してきた。
 
 
「ほんと、馬鹿だなぁ」
 
 
神様に勝てると思うなよ?
 
 
 
 
 

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