血の繋がり


 
 
 
 
 
「なんか俺って捕まる事が多い気がする…」
 
 
目の前にある鉄格子を握りしめながらため息をつくと、ガイが苦笑いを浮かべていた。
 
 
「捕まることが多いって…」
 
 
いや、だってマジなんだぜ?まず最初に兵士に捕まってんし、その後にもあいつのお義父さんにも捕まってるし…。んでこっちの世界に来て今また捕まってんし…。なんか憑いてんじゃねェか…?
 
 
「でも、ルークとナタリア大丈夫かなぁ?」
 
 
「大丈夫ではないでしょう」
 
 
無事じゃねぇとは知ってるけど、ここにいる限り何も出来ねぇしよ…。武器もねぇし…。下手に術使って怪我すんのもやだし…。
 
 
「スパーダ、退きなさい」
 
 
凛とした声と共に、目の前についこないだ分かれたリリーがいた。しかも本物のリリーだ。ってことはラスティは離れられない場所にいるって事か…。
 
 
「おい、退けっつってんだろ!」
 
 
リリーにばっかり目が行ったが、リリーの後ろにはアッシュがいた。……はぁ?何だぁ、この組み合わせ…。意外すぎんだろ。
仕方ないから掴んでいた鉄格子を放して一歩後ろに下がった。するとアッシュが腰にあった剣で牢屋の鍵を叩き切った。おお、良く切れんな!
 
 
「アッシュ、どういうつもりです?」
 
 
「良いから早くあいつらの所に行け!死ぬぞ!」
 
 
アッシュはそれだけ言うと踵を返してどこかに走り出してしまった。残された俺たちはすぐに牢屋を出てリリーへと視線を向けた。
 
 
「アッシュはあなたたちをここから出す役目。私はあなたたちをルークとナタリアの所に案内する役よ。着いて来て」
 
 
リリーは全員に視線を向けると、すぐさま走り出した。俺たちはその後ろ姿を追いかけて走る。つうかリリーはこの城の事を熟知してんのか?迷った様子無く進んでるけど…。
 
 
「君がいるってことは彼もいるのかい?」
 
 
「もちろん。あなたたちがどんな事をやらかしてもカバーできるように彼がいるわ」
 
 
「どんな事?」
 
 
「多分、王女様がやらかすんじゃないかしら?」
 
 
リリーはそれ以上喋る気がないのか、一気にスピードを上げた。そしてある一室の前で止まると、俺たちを振り返った。
 
 
「ここに二人はいるわ。私はここまでそれじゃあね」
 
 
リリーがそう言うと、まるで霧のようにその姿が消えてしまった。ティアたちは一瞬その事に驚いたが、ラスティとリリーは何でも有りだと思っているようで、すぐに何事もなかったかのように扉に近づいた。そしてティアがそっと譜歌を歌い始めた。すると部屋の中からバタバタと何かが倒れる音が聞こえてきた。俺たちは目配せをしてから部屋へと入った。
 
 
「間に合ったわね」
 
 
「ティア!みんな!どうしてここに!」
 
 
中に入ってみると床に倒れている兵士と家臣。怪我もなく無事な二人。何も無くてよかったぜ。
 
 
「牢に入れられてたんだが、思いがけない助力があってね…。いや、片方は予想してたけど…」
 
 
「説明は後で!早く逃げようよ!」
 
 
まあ確かにラスティの事だから何か助けは寄越すだろうとは思ってたけど、まさかアッシュが来るとは思ってなかったぜ…。アニスが逃げようと足を動かそうとした時、リリーが言っていた『どんな事』が起きた。予想通り王女様が。
 
 
「お待ちになって!お父様に……陛下に会わせて下さい!陛下の真意を…聞きたいのです」
 
 
「俺からも頼む。戦争を止めるためにも伯父上には会うべきだ」
 
 
って予想外の所からも来ちゃったぜ…。ルーク、お前もかよ…。
 
 
「……危険だけは覚悟して下さい」
 
 
ジェイドは重たいため息を吐きながら眼鏡を押し上げた。俺も眼鏡ないけど押し上げたい気分になった。こう、疲れたぜ的な感じで。
ってことで俺たちはこの王族二人組の我が儘に付き合って危険を冒すことになりましたとさ…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
廊下にいる兵士は全部リリーとかが倒しておいてくれてたのか誰も起きてる奴はいねぇ。あ、死んじゃねぇからな!気絶してるだけだからな!まあそれはともかく、倒れている兵士たちを無視して階段を駆け上がり、随分前に来た謁見の間を派手に開ける。中にいた奴らは俺たちが入ってくると一斉に振り返った。
 
 
「ナタリア…」
 
 
玉座に座っている陛下は驚いた表情で俺たちの、いやナタリアの事を見ている。俺は視線を周りに向けた。いた。深紅の髪、藍色の目をしたあいつが。
 
 
「逆賊め!まだ生きておったか!」
 
 
モースの野郎がなんか言っていたが無視だ無視!こいつの話は聞く価値もねぇ!
 
 
「お父様!私は本当にお父様の娘ではないと仰いますの!?」
 
 
ナタリアが陛下に詰め寄らん勢いで声を上げるが、陛下は混乱したような表情でおろおろとしている。
 
 
「そ…それは…。わしとて信じとうは…」
 
 
「殿下の乳母が証言した。お前は亡き王妃様に仕えていた使用人シルヴィアの娘メリル。そうだな?」
 
 
モースの視線の先にはいかにも一般人の女。こいつが乳母?つか一体全体どういうことだよ?ナタリアが陛下の本物の娘じゃねぇことはわかったけど…。
 
 
「……はい。本物のナタリア様は死産でございました。しかし王妃様はお心が弱っておいででした。そこで私は数日早く誕生しておりました我が娘シルヴィアの子を王妃様に……」
 
 
「…そ、それは本当ですの、ばあや」
 
 
つまりナタリアは本当は使用人の子供で、本物のナタリアは生まれることはなかったって事か…。でもよォ、それっておかしいんじゃね?だって自分の娘の子供を陛下に断りもなく王女にしようとしたなんて…。
 
 
「今更見苦しいぞ、メリル。お前はアクゼリュスへ向かう途中、自分が本当の王女でないとこを知り、実の両親と引き裂かれた恨みからアクゼリュス消滅に荷担した」
 
 
おいおい、捏造もいいとこじゃねぇかよ!実の両親から引き裂かれたからって街一つ消滅させるの手伝うっておかしいだろうが!
 
 
「ち、違います!そのようなこと…!」
 
 
「叔父上!本気ですか!そんな話を本気で信じているんですか!」
 
 
「わしとて信じとうはない!だが…これの言う場所から嬰児の遺骨が発掘されたのだ!」
 
 
「…も、もしそれが本当でもナタリアはあなたの実の娘として育てられたんだ!第一ありもしない罪で罰せられるなんておかしい!」
 
 
ルークの言う通りだ。今の今まで本当の娘として育てて来たにも関わらず、血が繋がっていないと知った瞬間に手のひらを返したように処刑するなんて、都合が良すぎる!
 
 
「他人事のような口振りですな。貴公もここで死ぬのですよ。アクゼリュス消滅の首謀者として」
 
 
「……そちらの死を以て我々はマルクトに再度宣戦布告する」
 
 
ああ、本当にどうしようもねぇよな、大人って奴はよ。この世界の大人は特に腐ってやがる。モースも、陛下も、乳母も何もかもおかしい。大体二人を殺して宣戦布告?マルクトに殺されましたってか?馬鹿め、ピオニー陛下は俺たちと会ってんだよ。ありもしない罪を押し付けて、何が宣戦布告だよ!なあ、ラスティ!てめぇもそう思うよなぁ!?
 
 
「あの二人を殺せ!」
 
 
ディスト、ラルゴ、そしてラスティに視線をやってそう叫んだモース。乳母はすぐに後ろに下がって巻き込まれないようにしていた。ディストはすぐさま前に出ると、何か渋っているラルゴに声をかけた。
 
 
「何をしているのです!ラルゴ!他の者の手にかかってもよいのですか?」
 
 
一体何の事だ?
 
 
「…くっ、強引に連れてこられたかと思えばこういうこととはなっ!」
 
 
ラルゴは何か苦々しい顔をしていたけど、すぐさま武器を構えた。満足そうにそれを見たディストが視線をラスティに向けるが、ラスティは無表情のまま壁に寄りかかっていた。あれは、相当キレてんな。
 
 
「ラスティ!何をしているのです!殺しなさい!」
 
 
ディストがそう叫んだ瞬間、扉が開く音がしてアッシュが乗り込んできた。ディストがアッシュを見ると俺たちを捕まえるように叫ぶが、アッシュは俺たちの横を通り過ぎてディストたちの前に立ち塞がった。
 
 
「せっかく牢から出してやったのにこんなところで何をしてやがる!さっさと逃げろ!」
 
 
「お前が助けてくれたのか!だったらお前も一緒に…」
 
 
「うるせぇっ!誰かがここを食い止めなければならないだろう!さっさと行け!」
 
 
そんなアッシュの言葉に、ナタリアは一瞬顔を歪めたが、すぐに城の外へと駆け出した。後ろからディストのキンキン声と共に、低いあいつの声が聞こえてきた。
 
 
「うるせぇよ」
 
 
あいつに親子の話題は禁句に近いからな…。誰か死ななきゃいいけど…。
 
 
 
 
 

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