預言を狂わせる者


 
 
 
 
 
――そういえば、イオンに譜石を詠ませて大丈夫なのかしら?――
 
 
自分の部屋に足を向けていた俺は、リリーの言葉で足を止めた。そういえばそんなことがあったな…。あいつらイオンに用があったんなら確実に預言関係だろうし…。てかイオンをのこのこ死なせちゃ意味ねぇんだよな…。でもよ、リリー?俺たちはこの世界の人間じゃねぇんだぜ?譜石なんか詠めんのか?
 
 
――確かにそうかもしれないわね。でもねラスティ、何回も言うかも知れないけれど、私たちは神様なのよ?――
 
 
って言うけどよ、お前さんは戦い専門の神様じゃねぇかよ。
 
 
――何を言ってるの。私は確かに勝利の女神ではあるけれど、刀に宿った意志でもあるのよ?忘れたの、この刀の力を――
 
 
いや、忘れてないけど…。マジか?譜石にだって意志があるとか言うのか?
 
 
――ものは試し、よ――
 
 
って結局ぶっつけ本番かよ!!…もうお前のそういう無茶振りには尊敬するわ…。しゃーない!ちょっとお前の姿借りるぞ!!
 
 
――どうぞ――
 
 
じゃあ幻神使ってあいつらの前にでも行きますか!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「この譜石は、第一から第六までの譜石を結合して加工したものです。導師は譜石の欠片からその預言を全て詠むことが出来ます。ただ量が桁違いなのでここ数年の、崩落に関する預言だけを抜粋しますね」
 
 
急いで礼拝堂に足を運ぶと、イオンが譜石に手をかざして預言を詠む一歩手前だった。思わず俺はリリーの格好のまま叫んでしまった。
 
 
「その預言ストップ!!」
 
 
明らかにリリーのキャラじゃねぇことやっちまったよ…。俺の…つってもリリーの格好した俺に気づいたルークたちは目を丸くしていた。一人を除いて、だけど。
 
 
「えっと…リリーだっけ…?どうしたんだ…?」
 
 
ガイがめちゃくちゃ困ったような表情をしながら問いかけてくるから、ため息を吐きながら礼拝堂の奥にある譜石に近づいた。
 
 
「今の私は姿を借りたラスティよ…。さっきのは…動揺したせいよ…。忘れて…」
 
 
ごほん、と咳払いしながらそうと、ガイは苦笑い、陰険嫌味大佐は心底面白そうな顔をしていた。他は…以下略だ。
 
 
「それで、一体どうしたの?」
 
 
「ああ、突然止めてしまってごめんなさいね。イオン様に譜石を詠んでいただかなくてもいいかもしれない可能性が出てきたの」
 
 
「ほ、ほんと!?」
 
 
俺が可能性を口にすると、アニスが食いついてきた。導師守護役だから…なのか?
 
 
「一体どういうことです?まさかあなたが預言を詠むとでも?」
 
 
「え、ちょ、ちょっと待てよ!だってラスティとスパーダって…」
 
 
ルークの言う通りだ。俺とスパーダはこの世界の人間じゃない。その人間がイオンの代わりに預言を詠むっていうのも相当おかしな話だ。だが、リリーの力を使えばどうやら出来るかもしれないんだ。試す価値はある。
 
 
「そうね。しかしリリーの話によれば可能かもしれないの。試してみる価値はあるでしょう?」
 
 
「それが本当なら…、あなたは本当に何でも出来る神様みたいですわ…」
 
 
スパーダ以外は感心したような視線を向けてくるけど、問題のスパーダの視線は厳しい。予想はついている。イオンに負担がかからない代わりに俺に負担がかかるんじゃないかって心配してるんだ。だから、俺は笑ってやる。
 
 
「スパーダ。安心なさい。これはリリーの、この刀の力だから」
 
 
背中に背負っているリリーを掴んで両手で持つと、スパーダの目は僅かだが揺れた。
 
 
「負担はかからない。だから、安心して見てなさい」
 
 
杖の状態のリリーを構えて譜石に近づく。俺自身はリリーの能力を百パーセント使える訳じゃない。リリーの能力を一番使えるのはやっぱり本人だ。ってことで頼むぜ?
 
 
――任せなさい――
 
 
じわり、と目に熱を持ち始める。それと同時に譜石にリリーを当てた。譜石が光り、リリーの声が頭の中に響く。
 
 
――これ、かしら?ラスティ、ND2000で合ってるかしら?――
 
 
それだ。俺にその情報から先を渡してくれ。
 
 
――了解。第六までしかないから最後まではわからないわね――
 
 
構わないさ。
 
 
「ラスティ…大丈夫か…?」
 
 
「大丈夫よ…。さあ、詠み上げるわ…」
 
 
情報が一気に流れて来たから頭が痛くなったが、何ら問題はない。俺は天才だからな!
 
 
「ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。ND2002.栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名をホドと称す。この後、季節が一巡りするまでキムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう。ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ、鉱山の街に向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる」
 
 
いつの間にか閉じていた目を開いてゆっくりと息を吐く。ちょっと疲れたし、一気に情報を受け取ったから軽く頭が痛いぜ…。リリーを譜石から離して額を抑えるとスパーダが近寄って来て、肩を支えてくれた。
 
 
「これが、崩落に関する預言よ…」
 
 
痛む頭を左右に振ってから全員を振り返る。この預言の不自然さに気づく者はいるかな?そして、気づいてそれがどうしてなのかわかる奴がいるかな…?
 
 
「大丈夫だったんじゃねぇのかよ…」
 
 
「あら、大丈夫よ?預言の量が多くて頭が痛くなっただけだもの。それよりも…」
 
 
どうやらざわざわし始めた。この予言の不自然さに気づき始めたか…。
 
 
「ユリアの預言にはルークが――レプリカという存在が抜けているのよ」
 
 
そう、この預言にはレプリカと呼ばれる存在がない。そもそもレプリカとは自然に生まれる生命とは違う。無理矢理生み出されたものだ。自然ではないものは預言することが出来ない。ヴァンの一つの目的がここにある。ルークの誕生。そしてそれにより生かされるアッシュ。これが何をしてしているかまではまだわかってないが、何か裏がある事だけはわかる。
 
 
「それってつまり、俺が生まれたから預言が狂ったって言いたいのか?」
 
 
そのルークの声を聞いた瞬間、俺とスパーダは無意識に体を震わせた。その声は、不安定で、震えていて、同時に怒りにも満ちていて、ごちゃごちゃしていた。まるで、自分自身を責め立てたルカのようで…。
 
 
「見つけたぞ、鼠め!」
 
 
鎧の音と、その声に意識がそちらへと向けられる。どうやら神託の盾騎士団が俺たちの事に気づいたみたいだ。全く、人がせっかくルークの事を心配しているというのに邪魔ばかり…。俺は肩を支えていたスパーダの手を外してから一気に飛び上がった。そして兵士に向かって駆け出した。
 
 
「なっ!?」
 
 
兵士が驚いたような声を出そうとした瞬間、杖に収まったままのリリーで兵士三人を振り抜いた。振り抜く瞬間に強めの紫神を加えておいたから気絶くらいはしてるはず。
 
 
「はあ…。あなたたち!さっさととんずらしなさい!ここの場所がバレてるならもっと数が来るわよ!」
 
 
「わかりました。アルビオールに戻りましょう」
 
 
ジェイドがそう声をかけるとルークたちは一斉に駆け出した。ただ、スパーダだけは困惑したような表情で俺の事を見ていた。
 
 
「行きなさい。私を心配してくれるのもわかるし、また離れることが不安なのもわかるわ。でも、あなたにはルークを見ててもらわないと」
 
 
「それぐらい、わかってる…。けどよォ…」
 
 
「また、近いうち会おう」
 
 
幻神を解いてそっと微笑むと、スパーダはその灰色の目を見開いた。それからニッとした笑みを浮かべて拳を前に突き出した。
 
 
「当たり前だ!」
 
 
スパーダはそれだけ言うとルークたちの後を追うように勢いよく礼拝堂を飛び出していった。俺はそんな後姿を見ながら足を進めた。どうせ、ディストが何か企んでるだろ…。だから俺はそれを邪魔してやるよ。キムラスカにはちょっと苛立ってるしよ…。
さあ!ディストを脅してキムラスカに行きますか!!
 
 
 
 
 

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