揺らめく緑


 
 
 
 
 
俺がなんで苛ついているのかおそらくラスティは気づいてる。もちろん俺を頼ってくれないっつうのもあるが、俺が知らない間にガイと仲良くなっているのも許せねぇ…。しかもガイが気障だからさらに許せねぇ…。あれだ、ルークみたいな純粋な奴とはちげぇから気に食わねぇんだな。まあ陰険大佐で無かっただけマシかもしれねぇけどよぉ…。独占欲が強いとか言われるかもしれねぇが、構わねぇよ。いくらラスティが助けてくれたとしても、ラスティは俺の主で、大切な奴なんだから。
 
 
「そう言えば、ここって俺がアッ君をブッ飛ばしたところだなぁ!」
 
 
魔物を倒しながら遺跡を進んで行くと、不意にラスティが思い出したように声を上げた。ああ?アッシュをブッ飛ばしたぁ?こいつ何言ってんだ?
 
 
「いやあ、アッ君がさあ、俺に向かって命令とか抜かしやがってさ!あんまりにも腹立ったから思いっきり蹴り飛ばしちまったんだよ!」
 
 
あはははは!と楽しそうに笑っているラスティ。しかし周りの目を見てみろ。呆れてものが言えないって顔をしてるぞ。主に陰険大佐とかアニスとか。ルークとかティアはただ単に驚いているようだけど。ナタリアはアッシュの心配しててこれは論外。ガイは……、まあどうでもいいだろ。
とりあえず魔物をバッサバッサ切り捨てて、地下都市の橋のとこまで来た瞬間、突然地面が揺れ始めた。ジェイドがわずかに譜術を感じると言ってる。何か…あんのか…?そっとラスティに視線を向けると、難しそうな顔をしていた。とりあえずルークの慎重に行こうという言葉に頷いて奥へと進んで行った。
 
 
「どうしたんだい?」
 
 
不意に聞こえてきた声に視線をそちらにやると、ガイが難しい顔をしていたラスティに声をかけていた。また苛立ちが湧き上がってきたが、あんまりにもみっともねぇことはしたくないから黙って見ていた。
 
 
「ジェイドが譜術を微弱だが感じたっつったよな?俺も何かの気配を少しだけど感じてんだよ」
 
 
「もしかしたら何かいるのかって?」
 
 
「ああ」
 
 
どうやらラスティもジェイドが感じた譜術に似た何かを感じたみてぇだな…。警戒しといた方がいいかもしれねぇ…。そんなことを思いながら前に来た遺跡の前までやって来ると、ラスティは背負っているリリーへと手を伸ばした。次の瞬間、大きな地震が襲ってきた。
 
 
「構えろ!来るぞ!」
 
 
ルークたちが何かを言う前にリリーを抜いて構えたラスティに何かがいると分かったのか全員警戒を強めた。
 
 
「危ない!」
 
 
ティアの声が聞こえたと同時にナタリアが何かからの攻撃を後ろに飛び退くことで回避した。素早く双剣を抜いてそちらを見ると、尻尾に骨を付けた気味の悪ぃ魔物がいた。魔物は攻撃態勢に入っているのか、尻尾を振り回しながらこちらに進んで来た。
 
 
「気を抜くなよ!!」
 
 
ラスティはそう言ってリリーをくるりと一回転させる。
 
 
「フィールドバリアー!!」
 
 
俺たちを守る優しい壁が生まれたと同時に俺は駆け出した。あいつが後ろに下がるなら俺が前に出るのが役目だ。骨の付いた尾を振り回す魔物にルークたちは苦戦してる。そりゃああんなに振り回されれば近づきづれぇ。俺はそんな魔物の尾を見極めながら懐に飛び込む。
 
 
「風迅剣!」
 
 
相手を吹き飛ばす強力な風の突きをお見舞いしてやるが、魔物にはあまり効いてないらしい。いったん体制を立て直そうと身を退こうとすると、尾が俺の目の前まで迫ってきていた。避けきれねぇ!!攻撃を食らう覚悟で剣を十字にすると、聞き慣れた声が高らかに叫んだ。
 
 
「魂をも凍らす魔狼の咆哮!ブラッディハウリング!」
 
 
その瞬間、魔物の下からおぞましい悲鳴の塊が現れ、魔物を飲み込んだ。俺はその隙に素早くラスティの隣まで下がった。
 
 
「良かったのかよ、天術使ってよぉ」
 
 
「構わん。お前の危機だったしな…。しかしあいつあの尾が邪魔だな…」
 
 
リリーで肩を叩きながら呑気に状況を眺めているラスティにため息が出る。ルークたちが必死こいて戦ってんのにこいつは…。
 
 
「スパーダ。援助しろ。俺があの骨野郎の尾を翠神で斬る」
 
 
ラスティはそう言うと、他に何も言わず前衛へと突っ込んでしまった。援助っていきなりかよ!けど、あいつは俺の事を信じて援助を頼ってるんだよな…。ちっ!すげぇムカつくけどやってやるよ!
 
 
「エアスラスト!!」
 
 
素早く詠唱してあいつが突っ込もうとしてる魔物の動きを一瞬だけ止める。それだけで問題ない。あいつに斬れないものはない。リリーがいる限り、あいつはどんなものでも斬れる。
 
 
「ナイスだぜ、スパーダ…。行くぜ、斬り裂け!第一神!翠神!!」
 
 
リリーが淡い緑の光を纏うと、その尾に向かって勢いよく振り下した。魔物の尾はまるで柔らかい食べ物かのようにあっさりと切り落とされた。ルークがその隙をついてガイと共に剣を突き出す。
 
 
「閃光墜刃牙!」
 
 
鋭い突き。抉るような攻撃に、魔物は悲鳴を上げてその場に倒れた。俺はいつの間にか力強く握っていた手から力を抜いて、双剣を鞘に納めた。視線の先のラスティもゆっくりと息を吐きながらリリーを背負っていた。
 
 
「こいつは一体…」
 
 
ガイが倒れた魔物の死骸を見つめながら疲れたような声を出すと、ティアが何かを思い出したのか創世記の魔物じゃないかと言ってきた。てか創世記ってなんだよ…。
 
 
「とにかく、今はそれを気にするより中に入ることが優先じゃないか?」
 
 
話し込んでいるルークたちに向かってそう言ったのは意外なことにラスティだった。今までのこいつだったら黙ってたのに…。
 
 
「それもそうだな」
 
 
ルークたちもそれを疑問に思っていないのか、そのまま遺跡の中へと進んで行った。俺は、良くわからない不安に駆られた。あいつは何もおかしなことを言ったわけじゃない。正論だ。ここにいつまでいても解決出来ねぇならさっさと進んじまった方がいい。ただ、それだけだ。けど…。
 
 
「ンで、こんなに不安なんだ…」
 
 
ラスティが俺に何かを隠しているから?いや、ちげぇ。俺が、思っちまったからだ。あいつが、俺の前から消えるなんて、変なことを…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうか、したのか?」
 
 
不意にかけられた声に、俺はハッとして俯いていた視線を上げた。俺の目の前にはルークが立っていた。歩くのが遅かったはずの俺の前にどうしてルークがいるのか理解できなかったが、ルークはただ心配そうな顔をして俺の事を見ていた。
 
 
「スパーダ、泣きそうな顔してるぞ…?」
 
 
ルークにそう言われ、俺は目を見開いてからキッとルークを睨んだ。
 
 
「ふざけたこと言うんじゃねぇよ、ルーク。俺はお前のために遣わされた神だぞ?その俺が泣きそうだなんてありえねぇよ」
 
 
ルークの言葉が冗談だとでも言いたげな俺に、ルークはただ何とも言えない表情で顔をしかめる。ルークにはどうしてかわからないけど俺の言葉が強がりだってわかっているみたいだ。いや、もしかしたら誰にでもわかるかも知れない。今の俺は、きっと不安で仕方ねぇ。置いてかれそうな子供みてねぇな表情してるかもしれねぇ。わかるんだ。実際、あいつは俺を置いて行くんじゃないかって不安で仕方ない。まるで、あの時と同じように、リリーに全てを委ねて消えようとした時のように…。
 
 
「スパーダ…。スパーダは自分は神様だって言うけどさ、その前に一人の人間だろ?ラスティだって人間だ。なあ、俺スパーダに頼られたい」
 
 
ルークも、不安そうな顔をして俺の事を見ている。ラスティに頼られたい俺と俺に頼られたいルーク。俺たちは似てるかもしれない。心の拠り所を救いたくてなんとかしたくて、頑張ってる。ただ違うのは、ラスティは俺のために何も教えねぇだけ。俺は、ルークのためなんて、そんなことはない。
 
 
「…俺も、あいつに頼られてぇな…」
 
 
ぽつりとそう呟くと、ルークはその意図を理解したのか黙り込んだ。いくらルークのためにラスティと俺が遣わされたといっても、ルークにあいつをどうこう出来る力はねぇ。ルークは、俺たち二人に対してある意味無力なんだ。世界に縛られないが故に、誰も俺たちに命令できない。
 
 
「消え…ねぇよな…」
 
 
リリーに全てを任せて、あの時みたいに俺たちの目の前から消えねぇよな…。もう、あんなのはごめんだ。二度と戻らないかも知れないと言われ、それでも助けたいと俺たちはリリーの故郷でラスティとリリーの境界線に踏み込んだ。そしてようやく取り返したんだ。あんな苦労を、苦しみを、もう一度味わうなんて、俺はごめんだ…。
 
 
――スパーダ…。あなたは何も心配しなくていいの…――
 
 
慰めるようなリリーの声が、逆に俺の不安を煽った。消えねぇと、確かな証拠が欲しかった。何よりも強固な証拠が。じゃないと不安で仕方ねぇ。
そして、俺の不安は、のちに現実となる。
 
 
 
 
 

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