強さと弱さ


 
 
 
 
 
……めんどくせぇことになった。わざわざカイツールに降ろしてもらったっていうのによ、この戦争を止めるための権限を持つ奴がここじゃなくてケセドニアにいるらしい…。つーことで徒歩で移動することになった。アルビオールがあればすぐなのによぉ…。チッ!
 
 
「スパーダぁ!気が散ってるんだけどぉ!?流影打!!」
 
 
「どうせ離れた彼の事でも考えてるんだろう!魔神月詠華!」
 
 
「まあ!心配でもしてるんですの?シュトルムエッジ!」
 
 
敵を薙ぎ倒しながらも普通に会話してるガイたち。つーかなんで俺の話になってんだよ!?
 
 
「俺が、考えてんのはっ、移動が、めんどいって話だっつうの!!烈風空牙衝!」
 
 
素早く突いた後にすぐに体を回転させて敵を斬りつける。まあ一応相手がマルクト兵だから手加減はしてる。他の奴らも殺すまではいってねぇみてぇだし。
 
 
「ですが、ようやく野営地まで来ましたわね…」
 
 
武器をしまい、疲れたように息を吐いたナタリア。もう辺りはだいぶ暗くなっているから、他の兵隊も戦うのを止めている。夜目が聞かない以上、無闇な戦いは危ねぇからな。
 
 
「ケセドニアまではまだまだだな」
 
 
ガイも同じように疲れたため息を吐いた瞬間、何者かの気配。素早く双剣に手を添えていつでも抜けるように準備していると、そいつは剣を抜くでもなく俺たちの所へ平然とやって来た。初めてグランコクマに来た時に迎えに来たフリングスって奴だ。
 
 
「驚いたな。フリングス将軍か。どうしてこんな所にいるんだい?」
 
 
「そうですわ。この辺りにはキムラスカ軍が陣を布いていますのよ!」
 
 
「部下が皆さんの姿を発見して私に報告してくれたのです」
 
 
おいおい、報告ってォ、俺たちがマルクト兵をブッ飛ばしてるとかそういう不吉な奴じゃねぇよなぁ?
 
 
「将軍自ら偵察とは思えないが…。まさかナタリアを戦いに利用するつもりじゃないだろうな」
 
 
ガイが怪しむように目を細めてフリングスを見ると、フリングスはすぐに首を振った。
 
 
「どうか誤解しないで下さい。私はあなたたちに危害を加えるために来たわけではありません。偵察でもない。ただこの戦場を立ち去っていただきたいのです」
 
 
ほォ?俺たちがこの戦場で色々ブッ飛ばしてるのはあんまり具合が良い事じゃねぇらしいな…。まあそりゃあそうか。俺たちはこの戦場にはイレギュラーって奴だからな。けど、すぐに理解できなかったナタリアが首を傾げている。
 
 
「このままですと、我々はあなた方を殺さなければなりません。あなた方はキムラスカ陣営の方ですから」
 
 
殺すってかァ?上等だ!やれるもんならやってみやがれ!なぁんて事を言ってられるような状況じゃねぇんだけどよ…。
 
 
「私たちはこの戦いを終わらせるためにケセドニアに向かっています。たとえ危険でも引き返すことは出来ませんわ」
 
 
「それは無茶です。これから戦いはますます激しくなる。私は部下にあなた方だけを攻撃しないようにとは言えません」
 
 
戦いが激しくなる…なぁ?
 
 
「そりゃ、将軍の言うこともわかりますよ。だけど私たちも退けません。あ、だからって戦いたい訳じゃないですよぅ」
 
 
真面目に言った後にいつものようにふにゃりとした笑みを浮かべたアニスに、フリングスはしばらく黙った後、重くため息をついた。
 
 
「わかりました…。事情を知るものには、皆さんを攻撃しないように通達してみます。ですが…戦いになってしまっても兵たちを恨まないでやって下さい」
 
 
フリングスはそれだけ言うと、踵を返して去ってしまった。そんな後姿を見て、ナタリアは眉根を下げて申し訳なさそうな顔をした。
 
 
「私たちのために危険を冒してきて下さったのに…。申し訳ありませんわ」
 
 
まあ、あいつっていい奴だよな。俺たちをこの戦場で殺したくないからあんなことを言いに来たんだろうしな。嫌いじゃねぇぜ?ああいう真っ直ぐな奴は。
 
 
「だがこのまま戦争が続けば外殻大地の崩落に巻き込まれる。違うかい?」
 
 
ガイの諭すような言葉に、ナタリアは俯いて小さく呟いた。
 
 
「明日からもマルクトの方とは争いたくありませんわね」
 
 
そんなナタリアの姿を見ながら、腰に提げている双剣に触れた。もしも、もしもだ。ナタリアたちがマルクト連中を倒すことに戸惑ったら俺が斬ってやるよ。俺たちにはこの世界に因縁なんざねぇ。だからどれだけ斬ろうと関係ねぇ。ま、そんなことをするような連中じゃねぇことぐらいわかってるけどよ。
ガイは素早く野営の準備をすると、ナタリアたちにさっさと寝るように促してた。イオンも同じように言われて最初は渋ってたが、アニスに強く言われて折れるしかなかったみたいだ。
 
 
「スパーダ」
 
 
ひっそりと燃えている焚火の火を見つめていると、見張り番を買ってでたガイが俺の事を見つめていた。視線だけガイの方に寄越すと、ガイは火の方へと視線を移していた。
 
 
「スパーダは、俺たちが斬れなくても斬るんだよな」
 
 
ぱちぱちと燃える火の音に、ガイの声は負けそうだった。それほど小さな声で問いかけてきた。どんなことがあろうとも俺は斬れるんだろう、と。
 
 
「前にも言ったけど、スパーダは強いな…。彼と離れても君の意志は揺るがない。君は、強い」
 
 
「………」
 
 
ガイは羨むような視線を向けてくるが、俺はその言葉に身動ぎした。膝を立てて、そこに頬を乗せる。
 
 
「強かねぇよ。俺は弱ぇ」
 
 
「何を…」
 
 
「本当に強ぇなら、主の愚行を止めるくれぇ出来るさ。けどよォ、俺には出来ねぇんだ…。踏み込めない。あいつが敷いた境界線を越えようとする強さがねぇんだ…」
 
 
誰にも言えなかった弱音。リリーにも言えなかった俺の心の中。それを今俺は吐き出している。ガイなら、俺と同じように悩みを抱えているガイなら、もしかしたらいい解決法を教えてくれるかもしれない。ハッ!散々人に自分で見つけろとかほざいときながら俺自身は自分じゃ見つけられねぇんだよ。あいつを助ける方法を。
 
 
「これは人からの受け売りでね」
 
 
「ああ?」
 
 
「君は他人に答えを求めるのかい?人に頼っていては真実は見つけられない。疑問を解決させるのは君自身しかいない」
 
 
「……ハッ!あの馬鹿の受け売りかよ!わかってんぜ、ンなことぐらい。境界線に踏み込む方法を見つけられるのは俺しかいねぇ。そう言いたいんだろ?」
 
 
そんなことわかってる。わかってるが、うまくいかねぇ。俺がどれだけわかっていると主張しても、あいつは隠したがる。俺を危険に晒したくないから。
 
 
「じゃあ、ヒントをあげよう」
 
 
ハッと顔を上げてガイを見ると、あいつとは違う青い海みたいな目が火に当てられて赤く揺らめいていた。
 
 
「スパーダが境界線に踏み込めないのは、線が引かれているからなのかい?その線は本当に踏み込めないものなのかい?君ほどの強い意志を持っても、彼の引いた些細な境界線を越えられないのかい?本当に?」
 
 
あいつとは違う青い瞳は真摯にこちらを見つめていた。あいつの目が深海のように深く、見透かすような目なら、こいつはまるで優しく見守ってくれてるみてぇだ…。ああ、何か考え事が馬鹿らしくなって来たぜ。
 
 
「越えられねぇなんて、関係ねぇな」
 
 
「ああ」
 
 
「越えられねぇなら無理矢理越えるまでだ。それでも駄目なら壊してでも通るだけだ」
 
 
「その意気だ」
 
 
「サンキューな、ガイ。マジで感謝すんぜ。主の愚行を止めるのは騎士である俺だが、ラスティの愚行を止めるのは、スパーダ・ベルフォルマただ一人なんだよな」
 
 
何度も言ってたじゃねぇか。俺はあいつの騎士である前に恋人だって。騎士として越えられないのなら恋人として越えるまで。それでも拒絶するというのなら無理矢理越えるまで。壊してでも、通る。それが仲間で、恋人である俺の役割だ。馬鹿の暴走を抑える重要な役目。
 
 
「彼は本当に君が好きらしい。彼の些細な行動を見ているだけでもわかる。でも、彼にとって君は弱点にもなりうる。だから彼は君を遠ざけたいんだろうね」
 
 
「あいつは馬鹿だからな…」
 
 
「でもそれがラスティという人間なんだろう。スパーダは弱みであると同時に強みでもあると俺は思うぞ?スパーダがいるからこそ彼はあれほどまで頑張るんだろうし」
 
 
確かにそれは有り得るかもしれない。俺は弱点であると同時に最大の強み。何も知らない世界で互いを支えあえる存在。だからラスティはその支えあう存在を失いたくない。だから、自己犠牲を厭わない。
 
 
「俺の気持ちも…考えろっつーの…、あの馬鹿野郎…」
 
 
テメェがもしも自分を犠牲にして傷ついたら誰も悲しまねぇとでも思ってんのか?馬鹿じゃねぇの?俺は、テメェの恋人だっつうの…。
 
 
「ははは…。彼に気づいてもらえるといいね」
 
 
「気づかせてやるよ、無理やりにでもな」
 
 
俺はもうそれ以上喋る気がおきなかったから体を丸めて寝る体勢に入った。見張り番はガイがしてくれるし、何かあったら真っ先に起こしてくれるだろう。だから、今はちっと休むぜ。次に会った時に、思いっきり文句を言ってやれるように……。
 
 
 
 
 

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