騎士の反撃


 
 
 
 
 
シュレーの丘にあった仕掛けをミュウの力を借りて解除して中に入ったのは良いものの、やっぱりこの空間て不思議でならねぇ。俺たちの世界でもこんな不思議な空間は作れねぇよな?俺たちの世界は技術つーか超能力的な力があった世界だからな…。
 
 
「ただの音機関じゃないな。どうすりゃいいのかさっぱりだ」
 
 
「第七音素を使うってどうするんだ、これ…」
 
 
ガイ、ルークが例のパッセージリングとかいう奴の前でそう言っているのを聞いて、俺は迷わずラスティの方を見たが、あいつはただ腕を組んでパッセージリングを見ているだけだった。
 
 
「…おかしい。これはユリア式封咒が解呪されていません」
 
 
「どういうことでしょう。グランツ謡将はこれを操作したのでは…」
 
 
イオンの言葉にジェイドがわからずに首を傾げる。俺も言っている意味が全く分からずに首を傾げる。やはりちらりとラスティに視線を向けるが、腕を組んだまま厳しい目を向けていた。
 
 
「何か方法がある筈ですわ。調べてみましょう」
 
 
ナタリアのこの言葉に全員が頷いて、とりあえず辺りを散策してみる事となった。
俺はルークたちから離れ、後ろの方にいるラスティに近づいた。まさかとは思うが、ユリアシティでの事を引きずってんじゃねぇだろうな…?それだとしたらこいつはとことん馬鹿って事になんだが…。
 
 
「残念だが、俺は何も知らないよ?」
 
 
急に喋り出したラスティにビビって肩を震わせると、ラスティは意外そうな顔をして目を丸くした。
 
 
「ありゃ?それを聞きたかったんじゃないのか?」
 
 
「いや、てっきりユリアシティの事を引きずってんのかって」
 
 
「いやいや、そりゃあないだろ。俺はそこまでガキじゃねぇぞ?」
 
 
ラスティはなんとも言えない苦笑を浮かべながら俺の隣に並んだ。俺よりもデカいから見上げる格好になる。……何かムカつくぜ…。
 
 
「おい、スパーダ。ルークたちが目的を決めたみたいだぜ?」
 
 
「はっ!?悪ぃ、聞いてなかった!」
 
 
「大丈夫か?ルークたち、この床の譜陣をなんとかするらしいぜ?俺たちも行くぞ」
 
 
ラスティがなんか調子の出ない俺の事を心配そうに見ているが、俺はそれを無視してあいつより前に出る。この世界に来てから俺は正直あんまり調子が出ねぇ。やっぱりラスティと知っている知識の量が違うこともあるし、あいつが俺の事をあんま頼ってくれねぇのもある。俺は騎士だ。けど、あいつは俺に頼らねぇ。全部一人で片付けちまう。それが、許せねぇ。
 
 
「スパーダ」
 
 
悶々と考え事をしていると、やけに真剣なラスティの声が聞こえてきて、足を止めた。何か大切な事を言おうとしてる。わかっているけど、体は振り返りたくねぇらしい。言う事を聞かない。
 
 
「こっちを向きたくないのならそれで構わない。だが、聞け」
 
 
言葉には、主としての命令が含まれていた。そんなこともわかんねぇほど俺は馬鹿じゃない。が、こういう時ほど馬鹿になりたかった。
 
 
「俺は、そう長く一緒にはいられないだろう。おそらくここを出て、それからしばらくすると俺はまた離れるかもしれない。けどなスパーダ。忘れるなよ?お前はルークを見守ってるんだ。遣わされた神として、騎士として」
 
 
ラスティはそれだけ言うと立ち止まっている俺の横を通り過ぎてルークたちの後について行ってしまった。わかってんだよ。あいつがなんか重要な隠し事をしてて、俺にそれを話すと巻き込むからとか下らねぇことを考えてることなんざ。けど、俺はそれでも踏み込めない。あいつは、甘いから。あいつは、俺を信用してるから。だから、踏み込ませないようにしてるあいつに踏み込めない。
 
 
「わかってんだよ、テメェが裏で何かと繋がってることなんざ…」
 
 
それが良い奴なのか悪い奴なのか俺にはわからねぇけど、俺の取るべき行動は一つだけだ。
 
 
「騎士は従順に、主の命に従うだけだ…」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「さて…、めんどくさい仕掛けは解除したが…」
 
 
再びパッセージリングに戻ってきて俺たちはそりゃあもう疲れ切っていた。だってよォ、ユリア式なんたらを解除するための仕掛けを解くのがめちゃくちゃ面倒だったのに、それを三回も解いたんだぜ?ふざけンなって話だよな?
 
 
「これでも駄目なのかしら…」
 
 
ティアが困ったように息を吐き、パッセージリングの前を横切る。それを見たナタリアが突然ティアの事を呼び止め、譜石の前に近づくように言った。ナタリアに言われた通りに譜石に近づくティア。すると、今まで閉じていた本のような部分がゆっくりと開いた。ティアがその事に驚いていると今まで動かなかったパッセージリングが起動し始めた。
 
 
「ティアに反応した?これがユリア式封咒ですか?警告…と出ていますね」
 
 
「…わかりません。でも確かに今は解呪されています。とにかくこれで制御できますね」
 
 
「あ、この文字パッセージリングの説明っぽい」
 
 
アニスが開いている譜石に近づいてそれを見ていると、後ろからジェイドが近づき、その文字を解読し始める。つーか思ったんだけどよ、俺この世界の文字一つも読めねぇんだけど…。まあ世界がちげぇから仕方ないとか考えたけどよ、さすがにそれってどうなんだ…?
 
 
「…グランツ謡将、やってくれましたね」
 
 
ジェイドが苦々しくそう言うと、ティアが不安そうな声を上げた。ジェイドは譜石を見ながら眉間にしわを寄せた。
 
 
「セフィロトがツリーを再生しないように弁を閉じています。つまり暗号によって操作できないようにされていると言うことですね」
 
 
誰もがその暗号が解けないのか、という視線を向ける中ジェイドは肩を竦めた。
 
 
「私が第七音素を使えるなら解いて見せます。しかし…」
 
 
そう言って首を振るジェイドにティアたちが少し肩を落としていると、視界の端でルークがパッセージリングを見上げて、覚悟を決めたように言った。
 
 
「…俺が超振動で、暗号とか弁とかを消したらどうだ?超振動も第七音素だろ」
 
 
ちらりとラスティを見るが、何も動揺を示していない。想定内ってわけかよ…。
 
 
「…暗号だけを消せるならなんとかなるかも知れません」
 
 
「ルーク!あなたまだ制御が…!」
 
 
「訓練はずっとしてる!それに、ここで失敗しても何もしないのと結果は同じだ」
 
 
ルークの力強い言葉に、ティアは目を見開いて優しく頷いた。ルークはパッセージリングに一歩近づいて両手をパッセージリングにかざした。そしてジェイドの指示通りに暗号とやらを解除していく。浮かび上がっている図の赤い部分だけをルークが超振動で消すと、きらきらとした光が一気に溢れ出した。これは、アクゼリュスで見たのと同じ奴だ…。
 
 
「…起動したようです。セフィロトから陸を浮かせるための記憶粒子が発生しました」
 
 
ジェイドの言っている言葉は今一つ理解出来ねぇが、どうやらセントビナーは沈まなくて済むらしい。けど、これが終わっちまえばラスティと一緒にいられる時間も短くなってく。…………。
 
 
「…やった!やったぜ!!ティア、ありがとう!」
 
 
……ルークの奴、さり気なくティアに抱きついてやがる…。お前、こんな公共の場でなにやってンだよ…。そしてラスティ!さり気なく羨ましそうな顔をしてンじゃねぇよ!!
 
 
「わ、私、何もしてないわ。パッセージリングを操作したのはあなたよ」
 
 
「そんなことねーよ。ティアがいなけりゃ起動しなかったじゃねえか。それにみんなも…!みんなが手伝ってくれたから。みんな…本当にありがとな!」
 
 
ああ、こういう時にラスティを見ると、ルークの真っ直ぐさに当てられたのか具合が悪そうな顔をしてやがる…。よくわかんねーけどよ、あいつ性格ひん曲がってるから真っ直ぐなもの見ると体調優れねぇらしいぞ?
 
 
「なんだかルークじゃないみたいですわね」
 
 
「いいんじゃないの。こーゆー方が少しは可愛げがあるしね」
 
 
脇の方でガイが楽しそうにそう言っている。しかしナタリアは少し寂しそうな顔をしているように見える。
 
 
「あなたはルーク派ですものね」
 
 
「別に違うけどね。ナタリアだってアッシュ派ってわけでもないんだろ」
 
 
「…私にはどちらも選べませんもの」
 
 
ナタリアはそれっきり何も言わずに口を閉ざした。なんか、あそこも複雑みてぇだな…。
 
 
「あーっ!待って下さい。まだ喜んでちゃだめですよぅ!あの文章を見て下さい!」
 
 
突然大きな声を上げたアニスがそう言ってパッセージリングの文字が書いてある部分を指差すが、さっきも言ったが俺はこっちの世界の文字を読めねぇ。つまり全く意味が分からねぇって事だ。
 
 
「…おい。ここのセフィロトはルグニカ平野のほぼ全域を支えてるって書いてあるぞ。ってことはエンゲーブも崩落するんじゃないか!?」
 
 
おお、ンなことが書いてあんのか…。てかルグニカ平野ってどこら辺だよ…。ん?エンゲーブ?どっかで聞いたことがあるような気がするぜ…?
 
 
「エンゲーブは農村の村で、チーグルの森の近くにある村だ」
 
 
俺がわかんねぇと思ってすぐさま説明を入れてくれるこいつにはマジで感謝だ。チーグルの森ってことは、俺がルークたちと合流する前に寄った村の事だな。なるほど、あそこら辺かよ…。
 
 
「戦争か…」
 
 
すぐに外殻に戻ってエンゲーブの奴らを避難させようと外に急いで出ていく中、ラスティは起動したパッセージリングの前でぼそりとそう呟いていた。多分、聞こえないと思って呟いたんだろうけど、俺には聞こえちまった。
 
 
「なんか言ったか?」
 
 
わざと聞こえないふりをしてそう聞いてみたが、ラスティはすぐに暗い顔を消し去っていつもの笑みを浮かべて首を振った。
何でもない。
俺に心配かけねぇようにするラスティの口癖。腹立つことに、俺はこいつの笑みを完全には見切れねぇ。だから、少しの動作でも気を使ってないといけない。こいつは無茶する奴だから。自分が倒れようとも構わない馬鹿だから。
 
 
「俺が何も知らないと思うなよ?ご主人様」
 
 
ラスティは藍色の目を思いっきり見開いて、俺の顔を見つめていた。俺はそんな間抜け面したラスティの隣を通り抜け、その目を睨みつけてやった。何もかも知っているようなその目。けど、今その目はただ純粋に俺の言葉に驚いている。それが腹立った。俺が何も知らないと思い込んでいた馬鹿なあいつ。
いつまでも、俺が黙っていると思うなよ?いつまでも従順でいると思うなよ?俺はお前の騎士であるが、それと同時にお前の恋人でもあるんだからな!!
 
 
 
 
 

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