馬鹿と馬鹿


 
 
 
 
 
ユリアシティについてすぐに視界に入ったのはこの街の市長テオドーロだった。ティアが傍に駆け寄るとテオドーロは俺たちが来ることがわかっていたのか顔が固い。ティアがセントビナーを助けたいと伝えると、またしても預言の話題。ホントこいつらは預言の話ばっかりしやがって…!
 
 
「ラスティ。怖い顔してねぇで行くぞ」
 
 
おっと!どうやら預言の事を考えていると顔がきついらしいな。すぐさま頬に手をやって表情を緩めた。スパーダはそんな俺を見て呆れたようなため息をついて先に行ってしまった。どうやらスパーダは預言について俺ほど嫌悪はしてないみたいだが…。
 
 
――いいからさっさと行きましょう――
 
 
あいよ。
少し早歩きで会議室に入ると、もうすでに俺以外のメンバーが揃っている状態だった。椅子が足りないからなのかスパーダは壁際に立っていたが。俺もスパーダの隣に近づいて、そのまま壁に背中を預けた。ルークはその様子を見て、話を始めていいと判断し、テオドーロに視線を向ける。
 
 
「単刀直入に伺います。セントビナーを救う方法はありませんか」
 
 
ルークの真っ直ぐとした目と質問に、テオドーロは眉間にしわを寄せ、ゆっくりと目を閉じた。
 
 
「難しいですな。ユリアが使ったと言われるローレライの鍵があれば或いは…とも思いますが」
 
 
「ローレライの鍵?それは何ですか?聞いたことがあるようなないような…」
 
 
ローレライの鍵…ねぇ?
 
 
「ローレライの剣と宝珠のことを指してそう言うんですよ。確か、プラネットストームを発生させる時に使ったものでしたね。ユリアがローレライと契約を交した証とも聞きますが」
 
 
「そうです。ローレライの鍵はユリアがローレライの力を借りて作った譜術武器と言われています」
 
 
「ローレライの剣は第七音素を結集させ、ローレライの宝珠は第七音素を拡散する。鍵そのものも第七音素で構成されていると言われているわ。ユリアは鍵にローレライそのものを宿し、ローレライの力を自在に操ったとか…」
 
 
――ラスティ…――
 
 
わかってるさ、鍵の在り処は。だがよ、俺たちは見ただろ?あの鍵がいつ渡されるのか。流れを大きく曲げることは許されない。曲げてしまったら…。
 
 
――悪化を招く。もちろんわかっているわ――
 
 
「その真偽はともかく、セフィロトを自在に操る力は確かにあったそうです」
 
 
「でもローレライの鍵はプラネットストームを発生させた後、地核に沈めてしまったと伝わっているわ」
 
 
「その通り。この場にないもの――いや、現存するかもわからぬものを頼るわけにもいかないでしょう。何より、一度崩落した以上、セントビナーを外殻大地再浮上させるのは無理だと思います」
 
 
テオドーロの言葉に全員が肩を落とし、どうしようかと迷っていると、まさかのテオドーロから声が上がった。
 
 
「…液状化した大地に飲み込まれない程度なら、或いは…」
 
 
「方法があるんですか!?」
 
 
その言葉に希望が見えたルークが身を乗り出さん勢いでテオドーロを見つめる。テオドーロは少しの間黙ったが、すぐに口を開いた。
 
 
「セフィロトはパッセージリングという装置で制御されています。パッセージリングを操作してセフィロトツリーを復活させれば、泥の海に浮かせるぐらいなら…」
 
 
どうやら、何らかの方法は見つかったらしいな。ルークは見つかった可能性に目を輝かせている。
 
 
「なあ…」
 
 
不意に、隣に立っているスパーダがこっそり俺に声をかけてきた。どうしたのかと思って首を傾げると口元に手を当てて小さな声でこう言ってきた。
 
 
「俺、全く意味わかんねぇんだけど…」
 
 
……。ホントマイスイートハニーは可愛いことを言ってやがるぜ…。
 
 
「安心しろ、俺もわからねぇから」
 
 
スパーダを安心させるためにそう言って微笑みを向けると、スパーダは不機嫌そうに眉を寄せて俺の事を睨んでいた。…ってあれ?
 
 
「お前、俺の事馬鹿にしてンのか?俺がンなこともわかんねぇよな馬鹿に見えんのか?ああ?」
 
 
どうやらスパーダにはお見通しだったようだ。いやいや、困ったハニーだこと。
 
 
「降参だよ、悪かった。けどよ、俺とお前はこの世界の人間じゃねぇんだ。あんまり詳しく知ったとしても意味がない。とりあえず、セントビナーは助かるかもしれないってわかれば十分じゃないか?スパーダはそれだけじゃ不満か?」
 
 
「…チッ!確かにてめぇの言う通りだ。俺は馬鹿だからよォ、詳しく教えられても理解出来ねぇ。けど、嘘はつくんじゃねぇ。俺は、てめぇの騎士だ」
 
 
「それはすまなかったよ、騎士様。嘘はつかない。俺には理解出来てるよ。賢いからね」
 
 
にっこりと笑顔で言ってやると、スパーダは急に不機嫌になり、思いっきり向う脛を蹴り飛ばされてしまった。あんまり痛かったから悲鳴も出さずにその場にしゃがみ込んでしまった。おおう…、マジで痛いよ、スパーダ君……。
 
 
「何をしているんだ…?」
 
 
上から聞こえてきた何とも言えない声に、痛みを堪えながら見上げるとルークが微妙な顔をしながら俺の事を見ていた。どうやら会議室でしゃがみこんでいる俺の行動がかなり怪しかったらしい。ちらりと視線をスパーダに向けると、しれっとした顔でルークたちの輪に混ざってやがった。畜生…!スパーダめ…!
 
 
「な、なんでもねぇよ!それで!?シュレーの丘に行けばいいのかよ!?」
 
 
キレ気味にそう叫んだ俺に対してルークは翡翠の瞳を丸くして驚いたようだが、すぐに頷いた。畜生…!ルークが真っ直ぐすぎて俺が悪者みたいじゃねぇかよ…!なんなんだ!?厄日か!?今日は厄日なのか!?
 
 
――厄日よ……、きっとね…――
 
 
何故かよくわからないがリリーに馬鹿にされたぞ!何故だ!?何故俺はこんなに馬鹿にされなきゃならんのだ!?俺が何をした!?マイスイートハニーを安心させるために嘘をついただけだぞ!?
 
 
――わからないのなら自分の胸に聞いてみなさいよ。まあ意味ないんでしょうけどね…――
 
 
だから何故馬鹿にされる!?もうよくわからん!!さっさとシュレーの丘に行くぞ!!
よくわからない厄日に見舞われていた俺は、この後リリーがこっそり呟いた言葉を聞き逃してしまっていた。
 
 
――スパーダは、自分が馬鹿であなたの手伝いが出来なくて悔しいなんて、意地でも言わないんでしょうね。ふふふ…、お馬鹿な二人なんだから――
 
 
 
 
 

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テーマ「人外ファンタジー」
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