前へ進み続けろ


 
 
 
 
 
物凄く今更な気がするんだけどよぉ。仮にも敵国に近い領地に戦艦で来るのはどうなんだ?いやな、今俺たちキムラスカ兵に見つかってよ…。それから逃げてる途中なんだよ。何とかイエモンのじいさんがいる場所まで逃げ込んだのは良いけど、外の兵士がな…。
 
 
「おい、スパーダ!呆けてないで押さえてくれ!」
 
 
キムラスカ兵がこの扉をぶち破ろうとめちゃくちゃ攻撃してくるらしく、ガイは扉を必死に押さえてる途中だ。俺はまあさぼっちまってたわけなんだが、今はちゃんと押さえてる。俺の相棒であるラスティはと言うと、ルークたちと一緒に話を聞いてるみてぇだ。頼むからこっちを手伝えっつうの!
 
 
「おおーいっ!早くしてくれ!扉が壊される!」
 
 
俺とガイが押さえているから開かない扉は、外からの攻撃もあってだいぶ軋みを上げている。こりゃあ長くはもたねぇかもしれねぇ。向こうも加減なしに攻撃してくるもんだから振動つーかそういうのが酷い。俺もガイも必死こいて扉を押さえていると、不意に隣から気配を感じた。視線を上げて顔を確認すると、ラスティが腕組みをして扉を見つめていた。
 
 
「どうしたんだよ、ラスティ」
 
 
「いや、時期を決めかねているんだが…」
 
 
「はあ?時期?決めかねてるって何を?」
 
 
ラスティがわけわからねぇことを言ってる間も扉が攻撃されていてヤバい。もうこりゃあ本格的にピンチかも知れねぇ。なんて焦っていると、ラスティが腕組みを解いて激しく叩かれている扉にそっと触れた。
 
 
「まあ、俺がいりゃあ簡単に済むがね」
 
 
すぐさま意図を理解した。やる気だ。氷楼を。俺がラスティを見つめると、俺の視線に気が付いたのか、にやりとした笑みを浮かべた。俺もそれににやりと視線を返して扉からそっと手を放した。隣にいたガイがぎょっとした顔をしていたが、それを無視して扉を突っぱねているガイの腕も扉から外した。
 
 
「氷楼!」
 
 
一瞬にして全てを凍らす冷気。それが扉をすぐに凍らせた。これで扉は開かなくなった。いくら兵士たちが外側から押そうとも攻撃しようともバズーカとか持ってきても壊せねぇ。氷楼は鉄壁を誇る氷の技だからな。
 
 
「い、いきなりやるかい?」
 
 
突然の事でついてこれなかったガイが呆然とした声を上げている横で、俺とラスティはハイタッチをしていた。ラスティはすぐさまイエモンのじいさんたちを見てにやりと笑った。
 
 
「こうすりゃあじいさんたちはここで兵士を相手にしなくても済むだろ?頃合いを見計らって解くから安心しといて良いぜ」
 
 
「そりゃあ助かるけど、すごいねぇ。さあ、あんたたち!兵士が入って来れないからってちんたらしてないで行きなさい!」
 
 
タマラのばあさんがぴしゃりと言うと、ルークが背筋をぴんと伸ばして後を頼みますと言って昇降機に乗り込んだ。俺たちもそれに続いて昇降機へと乗り込んだ。
 
 
「それにしても、すごい術だな」
 
 
隣にいたガイが感嘆の息を吐きながらそう言った。まあ確かに氷楼はすげぇよな。だって一瞬にして何でも凍らせちまうし、人とか凍らせても中の奴は死なねぇし。ある意味最強じゃね?
 
 
「まあ、な。これは勝利の女神が無駄な殺生を嫌ったがために生み出されたんだぜ?」
 
 
…マジか?リリーがそんな事を考えて氷楼を生み出したのかよ。つかラスティはなんで知ってんだ?リリーから聞いたのか?
 
 
――私は言ってないわよ、そんなこと――
 
 
おう、今度はビビらねぇぞ!
 
 
――前はうっかり口を滑らせてしまったものね――
 
 
まあそれは置いとくとして、ラスティの話は本当なんだろ?
 
 
――…………――
 
 
リリーは何も言わなかった。つうことは本当だってことだ。リリーの奴、意外と照れやすいよな。まあラスティも同じようなもんだけどよ。
俺がリリーについて考えている間に一番下についたのか、目の前にはアルビオールっていう乗り物があった。ルークたちに続いてそれに乗り込むと中には一人の女が立っていた。どうやらこのアルビオールの操縦者で名前はノエルだってよ。
 
 
「では、行きましょう」
 
 
ノエルの一言で、俺たちはセントビナーへと向かうのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「マクガヴァンさん!みんな!大丈夫ですか?」
 
 
アルビオールのお陰で大した時間をかけずにセントビナーに着くことのできた俺たちはすぐ外に飛び出し、残された人たちに近づいた。
 
 
「おお、あんたたち。この乗り物は……!」
 
 
「元帥。話は後にしましょう。とにかく乗って下さい。みなさんも」
 
 
ルークたちはそう言って乗り物の方へと人々を誘導した。残された人数が少ないのも幸いして、避難はすぐに終わった。ラスティは未だに揺れの酷いセントビナーを見下ろした後、その藍色の目を見開いた。
 
 
「まずいかも知れない!ノエル!今すぐここから離れろ!」
 
 
ラスティの鋭い声に、ノエルも何かを感じ取ったのかすぐさまアルビオールの操縦かんを握り、発進させた。急に空に舞い上がったせいでバランスを崩しそうになったが、すぐにラスティが支えてくれた。
 
 
「どうしたんだ、急に?」
 
 
「見ろ」
 
 
ラスティが窓の外を指差すと、そこには衝撃の光景が広がっていた。セントビナーの街が、徐々に下に下がっていた。それはつまり崩落を意味していた。地面に巨大な亀裂が走り、そこから一気に崩れるように沈んでいく。信じられない光景だった。
 
 
「セントビナーが…」
 
 
「もう少し遅かったら巻き込まれてたってことぉ!?うわ、激ヤバ…」
 
 
ルークたちも顔色を悪くしながら下に見える光景を見ていた。もちろん、このアルビオールに乗っているマクガヴァンたちセントビナーの住人も。
 
 
「助けていただいて感謝しますぞ。しかしセントビナーはどうなってしまうのか……」
 
 
不安そうな声で俺たちにそう言ったのは街で一番偉いと言えるマクガヴァン。縋るような視線を向けているが、ティアは悲しそうな顔をして答えた。
 
 
「今はまだ浮いているけれどこのまましばらくするとマントルに沈むでしょうね……」
 
 
「そんな!何とかならんのか!?」
 
 
マクガヴァンの気持ちもわからなくない。誰だって故郷がなくなるのは嫌だろうし…。俺だって実家は嫌いだがよ、無くなるってわかったらちょっとは嫌だし…。
 
 
「ここはホドが崩落した時の状況に似ているわ。その時は結局一か月後に大陸全体が沈んだそうよ」
 
 
ホド。ティアがその地名を口にした瞬間、マクガヴァンは息を呑んで何かに耐えるように下を向いた。
 
 
「ホド……。そうか……、これはホドの復讐なんじゃな」
 
 
マクガヴァンのその言葉にティアたちはよくわからないといった表情をしているが、俺たちからじゃ顔の見えないジェイドや、俺の隣で腕を組んでいるラスティは何か知っていそうな雰囲気を出していた。そんな中、ルークが絞り出すような声で呻いた。
 
 
「…本当になんともならないのかよ」
 
 
ルークは、思い出しちまってるんだろうな…。自分のせいで故郷を失っちまったアクゼリュスの人々を。いくらヴァンが裏で糸を引いていたとしても、超振動で街を崩落させちまったのはルークだ。その重みが、ここに来ちまってる。
 
 
「大体大地が落っこちるってだけでも常識外れなのにぃ、なんにも思いつかないよ〜。超無理!」
 
 
「そうだ。セフィロトは?ここが落ちたのは、ヴァン師匠がパッセージリングってのを操作してセフィロトをどうにかしたからだろ。それなら復活させればいいんじゃねーか?」
 
 
ルークが何か方法を思いついたと言わんばかりに案を出してみるが、ティアは困惑したように眉を下げた。
 
 
「でも私たち、パッセージリングの使い方を知らないわ」
 
 
「じゃあ師匠を問いつめて……!」
 
 
ルークはもう周りが見えていないのか、自分がどれほど難しいことを言っているのかわかっていない。大地を崩落させるような奴がそれを元に戻す方法を簡単に教えてくれるはずがねぇ。
 
 
「おいおいルーク。そりゃ無理だろうよ。お前の気持ちもわかる……」
 
 
「わかんねーよ!ガイにも、みんなにも!」
 
 
ガイの言葉を遮ってルークは叫んだ。多分、ずっと我慢してた想いを。
 
 
「わかんねぇって!アクゼリュスを滅ぼしたのは俺なんだからさ!でもだかあなんとかしてーんだよ!こんなことじゃ罪滅ぼしにならないってことぐらいわかってっけど、せめてここの街ぐらい……!」
 
 
「ルーク!いい加減にしなさい。焦るだけでは何もできませんよ」
 
 
ルークが自分の感情に流されてそれ以上何かを口走る前に、ジェイドの鋭い叱責が飛んできた。ルークはそのジェイドの言葉に体を震わせると、視線を下へと下げた。
 
 
「とりあえずユリアシティに行きましょう。彼らはセフィロトについて我々より詳しい。セントビナーが崩落しないという預言が狂った今なら…」
 
 
「そうだわ。今ならお祖父様も力を貸してくれるかもしれない」
 
 
ティアのその言葉にルークは視線を上げてティアを見る。
 
 
「それとルーク。先ほどのあれはまるで駄々っ子ですよ。ここにいるみんなだってセントビナーを救いたいんです」
 
 
ジェイドの真剣な言葉に、ルークはハッとしたのか唇を強く噛みしめていた。
 
 
「……ごめん……。そうだよな…」
 
 
ガイはルークが焦るのも仕方ないと思っているのか大して気にしてないみてぇだ。ティアも、ただ心配そうな顔をしているだけだ。
それにしても、街一つを消滅させた…かぁ。
 
 
「慰めにはならないが、俺たちの中には世界を一つ滅ぼしちまった奴がいた」
 
 
今の今まで黙っていたラスティが口を開いたと思ったら俺が考えていた事だった。やっぱりこいつも同じことを考えていたんだ。俺たちの世界にあった天上の事を。
 
 
「…!!そいつは、どうしたんだ…?」
 
 
「正確にはそいつの前世が世界を滅ぼしちまったんだが、そいつは世界を不幸にしたのは自分だと叫んで、消えようとしたよ。結局消えなかったがな」
 
 
「………」
 
 
「仲間に言われたんだ。前世で世界一つを滅ぼしたとしても、それはあんたじゃない。あんたはあんたでしょ、ってな。いつまでも過去を引きずっていても仕方ない。過去を引きずり続けて、身を滅ぼした奴もいた…」
 
 
そう言って目を伏せたラスティは、確実にあの世界のラスボスを思い出したはずだ。ルカの半身であるマティウスの事を。
 
 
「ま、俺が言いたいのはさ。いつまでもアクゼリュスの事を引きずりすぎると死ぬかもなって話だ」
 
 
「……ありがと…」
 
 
「…………はあ!?今の流れはツッコミを入れるべきだろ!?死ぬとか大げさだろ!?とかいうツッコミを俺は待ってたんだぞ!?俺の期待を返せ!!」
 
 
ったく、この馬鹿はせっかくのシリアスシーンだというのにぶち壊しやがっ、て!
 
 
「ぐはっ!な、何故スパーダが飛び蹴りを…!」
 
 
「ルークの代わりに俺が突っ込んでやった」
 
 
床に這い蹲ったラスティを見下ろしながら腕を組むと、ラスティはいじけたのか隅の方で「の」の字を書いてやがった。もちろん無視してやったが。ルークたちもラスティを無視する方向で決まったのか視線を外へと向けていた。ノエルなんかも苦笑しながらユリアシティへと向かっていた。これからまだまだ忙しいそうだな…。
 
 
 
 
 

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