理想論者


 
 
 
 
 
「なぁんでアニスちゃんはこいつと一緒なのよぉ〜」
 
 
二手にわかれてからすぐにそう言ったのはアニスだった。いやあ、アニスに嫌われているとは最初から知っていたものの、ジェイドやルークがいなくなった途端に本性を見せるとは!なかなかやるな。
 
 
「ルークがそう決めたんだから文句言うなって」
 
 
ガイが納得させるようにそう言ってみるものの、アニスは不満たっぷりなのか頬を膨らませて俺の事を睨んでくる。
 
 
「だってこいつってさ、ルークやスパーダだけには甘いじゃん。それって差別でしょ!」
 
 
ルークやスパーダに甘いことは否定しないが、なんで俺があの二人に甘いかは理解してないようだな…。スパーダに甘いのはもちろん俺がスパーダの事を好きだからだ。これは不本意ながらもガイにバレてしまったので知っているガイは困った顔をしている。そしてルークに甘いのは、奴の人生があまりにも哀れだから、と言うのもある。しかしそれ以前にあの真っ直ぐとした性格が嫌いじゃないってのもある。ま、とにかくアニスは俺に甘やかして貰えるような性格じゃないって事だ。
 
 
「そうなんですの?」
 
 
警戒心丸出しのアニスとは反対に、あんまり俺の事を知らないナタリアは首を傾げている。前にナタリアと一緒に行動したときはルークもスパーダも魔界にいたし、ナタリア自身アッシュに目が行っていたから印象に残ってないんだろうな…。
 
 
「そうだよぉ!ナタリア、騙されちゃダメだからね!」
 
 
「騙すっておい…」
 
 
ナタリアに詰め寄るアニスとそれを困ったように見ているガイ。なんだか俺、このメンバーで大丈夫なのか心配になって来たなぁ…。
 
 
「とにかくだ。旦那たちとは反対側につかなきゃいけない。急ごうぜ」
 
 
ふむ。このメンバーでのまとめ役はガイか。確かに冷静だし気配りも出来るから問題ないだろう。このメンバーで最も問題なのは、アニスが俺の事を一方的に嫌っていることだ。俺は別にどうでもいいんだぜ?特にアニスを嫌う理由もないし、弱いってわけでもないし。けど、戦いになった時、信頼のない仲間に連携は生まれない。それはつまり隙が生まれるって事だ。
 
 
「何もなきゃ、良いんだがね…」
 
 
ま、そう都合よくいかないのが人生というものだったりするんだけどね…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
二手にわかれてからしばらくして、俺たちは何回目かの戦闘を行っていた。なんせこのメジオラ高原は魔物が多い。そりゃあもう戦う戦う!まあ俺の場合翠神で滅多切りしてんだけどな。俺じゃない三人がだいぶ疲れてきてるみたいだ。
 
 
「でっかいトンカチ、当たって砕けろ!ミラクルハンマー!」
 
 
回していた杖を止めて高く掲げると、魔物の頭上から巨大なハンマーが落ちてきて鵜算にその体を押しつぶす。その脇でガイが魔物を切り捨て、ナタリアが一撃で急所を仕留める。俺はリリーを背負いながらその様子を見つめる。ガイは全体をフォローするような動きを見せてるし、ナタリアも唯一の回復役としての自覚を持ってるのか全体を見ようとしている。しかし…。
 
 
――アニスはあなたをあまり見たくないのか視界が狭いわね…――
 
 
そう。アニスの視界が狭い。いくらアニスが俺の実力を認めていようとも、俺自身の事を認めていなければこの狭い視野は治らない。アニスはガイやナタリアしか見ようとしていない。これは…本格的にまずいかもな…。
 
 
――あら、でもかえっていいんじゃないかしら?これで危険が迫って来たのなら、自分のしたことがわかるじゃない――
 
 
いやぁ、リリーさんは毒舌ですなぁ。まあ確かに一回思い知るっていうのも一つの手だけどよ…。今はそんな物騒な事を言っている場合…。
 
 
「危ない!!」
 
 
その時、ナタリアの鋭い声が聞こえてすぐさまその視線の先を追った。ナタリアが見ているのはアニス。その彼女の後ろからは魔物が襲い掛かろうとしていた。アニスはもういないと完全に油断しきっていたのか人形が元のサイズに戻ってしまっていた。これは本当に言った通りになっちまったな、リリー。
 
 
「疾風!」
 
 
すぐさま脚に風を纏わせ、一気に踏み込む。疾風は主に移動と逃走に使うような技だが、こういった時にも使えるから便利だ。俺は呆然としたままのアニスを小脇に抱え、すぐにその場から飛び退いた。さっきまでアニスがいた所には魔物の攻撃により小さな穴が出来ていた。
 
 
「全く、油断しやがって」
 
 
小脇に抱えたままのアニスに向かってそう言うと、ようやくハッとしたアニスが俺の事を呆然とした表情で見上げていた。俺はその視線に気づかないふりをして魔物を倒したガイに視線を向ける。どうやらここにいた全員が油断をしていたらしいな。ガイもナタリアも、アニスも。
 
 
「アニス!大丈夫ですの!?」
 
 
ナタリアはすぐさま俺の所に駆け寄ってきてアニスの様子を窺った。俺はそんなナタリアを見ながらアニスから手を放した。
 
 
「いったぁい!」
 
 
見事に落下したアニスが打ち付けた場所を摩りながら俺の事を恨めしそうに見上げてくる。俺はそれに対してにやりとした笑みを浮かべてからその顔に向かって人差し指を突きつけた。
 
 
「全体を見ようとしなかったからこうなったんだぜ?お前は俺の事を視界に入れようとしなかった。そのせいで後ろからの反応に遅れた。そうだろ?」
 
 
悪戯が成功したような笑みを浮かべながらそう言ってやると、アニスはバツが悪そうに眉間にしわを寄せた。しかし俺の言っていることが正論だとわかってるのか、視線をプイと逸らしてしまった。
 
 
「そんなこと言われなくてもわかってる!あたしが悪いんでしょ…!だから…その…。ごめん…」
 
 
最後の方は尻すぼみになって聞こえるかギリギリだったけど、俺にはちゃんと聞こえた。アニスの逸らした顔が恥ずかしさから赤くなってるのも口がへの字に曲がってることも。なんだかその様子が面白くて思わず頭に手を置いて撫でまわしてやった。
 
 
「ちょっと!何すんのよ〜!」
 
 
「生意気なアニスちゃんへの罰だ」
 
 
笑ったままそう言ってやると、アニスは乱された髪を直しながら少し笑っていた。後ろの方で俺たち二人を見守っていたガイは安心したように息を吐いていた。俺たちがさらに喧嘩するんじゃないかって心配してたんだろうな…。俺は喧嘩に乗るほど暇じゃねぇっての。
 
 
「もう少しで目的地のはずだ。急ぐぞ」
 
 
ガイのその言葉で俺たちは高原を進んで行く。最初の時よりうんと和やかな雰囲気で。なんだか、スパーダたちと旅をしてきた時の事を思い出すな…。
 
 
――そうね…。あの時も和やかで賑やかだったものね…。少し装いが違うけれど、これはこれで楽しいかもしれないわね――
 
 
ああ、そうだな。さて!ギンジ救出まであと少しだな!張り切っていくか!
 
 
――張り切りすぎて失敗しないようにね――
 
 
リリーの優しい声を聴きながら俺は足取り軽く進んで行く。物語は残酷に進んで行くけれど、ほんの少しの間にこういう安らぎを与えてくれる。そして、物語の最後は必ずハッピーエンドが待っている。敵を倒して手に入れるハッピーエンド。誰かを犠牲にして世界が幸せになる終わりが。けど、俺たちはそうならないため、させないために暗躍する。だって。
 
 
「――誰かを殺して手に入れた平和なんて、嬉しくないんだから――」
 
 
敵を生み出さないために世界を滅ぼそうとした彼の人を俺たちは殺してしまった。確かに世界は平和になった。でも、やっぱりあんまり後味が良いものとは言えなかった。この世界では、そうならないために。誰も殺さず、幸せにしてみる。
 
 
「――手のひらの光は、守ってみせる――」
 
 
 
 
 

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