心配無用


 
 
 
 
 
俺たちは今、メジオラ高原へとやって来た。簡単に説明しちまうと、シェリダンに行って浮遊機関を貸してもらおうって話をしてたんだが、浮遊機関の試作機がメジオラ高原に落ちたらしい。俺たちはその試作機に乗っているギンジって奴と試作機を持って帰る事を約束し、浮遊機関を借りることにしたんだ。んで、今は救出の途中ってわけだ。
 
 
「あれがそうね」
 
 
俺たちが見つめる先には、今にも落ちそうになっている試作機。アニスも堕ちそうだと思っているのか不安そうな顔をしている。ジェイドが不吉なことを言っている脇で俺はラスティへと視線を向ける。海よりも深い藍色は一心に試作機を見つめていた。
 
 
「ラスティ、どうした?」
 
 
「いや…。それよりも、預かって来たランチャーは二つあるだろう。どうわけるつもりだ?」
 
 
ラスティは何か言いたそうな表情をしてたが、何も言わずにルークに視線を向ける。ルークは二手にわかれると聞いて顎に手を添えて考え込んでいる。
 
 
「二手にわかれるなら俺は……。ティア、ジェイド、それに…スパーダ。いいか?」
 
 
俺の名前を挙げた時のルークの視線は、ありげなくあいつに向かっていた。ルークの奴、俺がラスティと一緒にいなきゃ不満とでも思ってんのかぁ?俺とあいつは公私混合はしねぇ…と思う。
 
 
「当たり前だ。何の問題もねぇよ」
 
 
腰に手を当ててため息をつくと、ルークはホッとした表情をしてから全員を見回した。
 
 
「行こう」
 
 
ルークのその言葉に頷き、俺たちは二手にわかれることとなった。ラスティの様子が少し気になるけど、今は救助が最優先だから、頭の端に留める程度にしとく。
 
 
「彼と一緒に行かなくてよかったのですかぁ?」
 
 
不意に聞こえてきた嫌味満載の根暗マンサーの言葉。一瞬青筋がピクリと動いたが、深呼吸をしてからジェイドに向き直る。
 
 
「俺の我が儘で救助が遅れたんじゃ世話ねぇからな。つーかお前はなんで俺に突っかかるんだよ」
 
 
前々から気になってたんだよ。ジェイドはやけにちょっかいをかけてくる。俺が特に何もしてねぇって言うのにいちいち鬱陶しいんだよ。ルークとティアもその事に気づいていたのかジェイドの事を見つめている。
 
 
「おや?そうですか?私は特に意識してなかったんですがねぇ?」
 
 
「ですが大佐。私たちから見てもスパーダへの警戒心が強いと思うのですが…」
 
 
ほら見ろ!ティアだってこう言ってんじゃねぇかこの根暗マンサーめが!!
 
 
「……。最初から怪しいとは思ってたんですよ?魔導師ラスティとただならぬ関係にあるのではないか、とね。しかし、まさか異世界から来てたとは思いませんでしたがねぇ」
 
 
……。めちゃくちゃ警戒されてたのはそれのせいかよ!つうかそれってこの大佐には結構最初の方から俺とラスティが繋がってるってバレてたって事かよ!だから最初のセントビナーで突っかかったり、ケセドニアで鋭い視線をもらったりしたのか…。てか!
 
 
「今はもうバレてんだから関係ねぇじゃねぇかよ!」
 
 
「おや、バレてしまいましたか。まあそんな些細なことどうでもいいじゃないですか」
 
 
ジェイドは楽しそうにそう言うとさっさと歩き出してしまった。ルークとティアは呆れたようなため息をつきながらも早くしないといけないとわかっているのでジェイドの後に続いて行く。俺はというと不満しかなかった。だってよぉ、ラスティと仲間だってバレたにも関わらずあいつ俺に絡んでくるし…。めんどくせぇ…。
 
 
「それにしても、向こうは大丈夫なのか?」
 
 
不意に聞こえたルークの声に、俺は下げていた視線をルークへと向けた。ティアやジェイドはその意味が良くわからなかったのか若干首を傾げている。
 
 
「だって、アニスってあいつの事嫌いそうだよな…?」
 
 
「ああ、確かにそうですね。今まで散々邪魔されたって記憶があるので仕方ないでしょうけど」
 
 
「それに向こうにはガイもいるわ。大丈夫でしょう」
 
 
アニス…ねぇ。確かにあいつはラスティの事を嫌ってたよなぁ。
 
 
――でも、彼の実力は認めているわ――
 
 
「うおっ!?」
 
 
突然聞こえてきたリリーの声に思わず声を上げちまった!!ルークたち三人は突然声を上げた俺を不思議に思ったのか足を止めて振り返った。
 
 
「どうかしましたか?」
 
 
「あ、いや…。リリーが急に話しかけて来たからビビってよぉ…」
 
 
正直、俺とリリーが繋がっていることを知っているのはこの世界にはいない。だから多分俺の言っていることの意味を理解できる奴なんていない…。
 
 
「なるほど。魔導師が言っていた連絡法とはこのことですか」
 
 
ってこの大佐には関係ないみたいだな…。なんだかんだいってこいつ色々鋭いよな…。俺とリリーが会話できることを疑問に思わずそれをあっさり受け入れるとか。
 
 
「それで?彼女はなんと?」
 
 
「アニスはラスティの実力は認めてるってよ」
 
 
「確かに彼の強さは本物でした。ワイヨン鏡窟での戦いには驚かされましたから。戦力としては申し分ない人物ですよ。まあ性格には難がありますが」
 
 
多分ジェイドが性格に難があるって言った瞬間、俺たち全員がお前もな、と思ったはずだ。だってルークとティアの視線が胡散臭いものを見る目になってるし。
 
 
「もういいから行こうぜ」
 
 
半目状態のルークがそう言って歩き出そうとした瞬間、何かの唸り声が高原内に響いた。ルークが焦った声を上げると、ティアが素早く構えて辺りを見回した。ジェイドもふざけていた雰囲気を一気に潜めて魔物の気配を探った。
 
 
「後ろだ!」
 
 
魔物の気配を感じてそう叫ぶと、背後には巨大な魔物がいた。背中に不気味な剣を刺してる魔物。そいつは大きな口を開いて咆哮すると俺たちに襲い掛かって来た。
 
 
「気を付けて!」
 
 
ティアが素早く魔物から距離をとり、術を詠唱する。ルークはそれを確認すると魔物に突っ込んでく。俺もそれに続いて前に出る。この場合俺たち二人が前に出て、後ろの術者二人が上級術でこの魔物を蹴散らしてくれた方が手っ取り早い。多分俺たちの攻撃よりもそっちの方がいいだろう。
 
 
「崩襲脚!食らえ!牙連崩襲顎!」
 
 
空中から蹴りを入れ、その後に剣で上に薙ぎ払いもう一度蹴りを入れる。隙がなくていいが、与えられるダメージがあまり多くないな…。俺は魔物がルークに気を取られている間に背後に回り込んで双剣を強く握りしめる。
 
 
「真空千裂破!」
 
 
鋭い突きを連続でした後に、思いっきり勢いをつけて体を回転させながら切り込む。背後に注意がいっていなかった魔物はその攻撃をもろに食らった。魔物はその攻撃を煩わしいと思ったのかその長い尾を振り回してきた。俺は素早く横に転がることで避けたが、ルークは思いっきり吹き飛ばされてしまっていた。
 
 
「唸れ烈風、大気の刃よ、斬り刻め!タービュランス!」
 
 
ルークが吹き飛ばされた瞬間、タイミングよくジェイドの譜術が発動し、魔物の動きが一瞬だけ止まる。ティアはその隙にルークに駆け寄り治癒術をかける。俺はルークがこっちに来るまで時間を稼ぐために地面を強く踏み込む。この魔物、尾がなげぇから邪魔くせぇんだよ!
 
 
「おらぁ!食らいやがれ!襲爪――雷斬!!」
 
 
双剣で何度も斬りつけたのち、電気を纏った一撃を落とす。その隙に立ち上がったルークが魔物へと駆け出す。
 
 
「よくもやってくれたな!魔王絶炎煌!!」
 
 
炎を帯びた一撃を食らわせると、魔物が大きな口を開けて咆哮する。その音に一瞬体が竦みそうになったが、すぐに後ろへと下がって術の準備をする。手っ取り早く魔物を蹴散らす一撃!ジェイドのタービュランスよりも強力な風の術。
 
 
「仇なすものに聖なる刻印を刻め!エクレールラルム!」
 
 
ティアの術が発動し、魔物の下から聖なる刻印が浮かび上がり魔物を斬り裂く。ジェイドも俺が詠唱していると気が付いたのか素早く前線に出て時間を稼いでくれてる。イメージする。全てを飲み込み、無に帰す風を。
 
 
「行くぜっ!!吹っ飛べ!!サイクロン!!」
 
 
詠唱が完成し、高らかにそう叫ぶと、魔物の下から全てを飲み込む竜巻が現れ、魔物を包み込む。魔物は咆哮のような悲鳴を上げながら倒れた。
 
 
「ったく!手間取らせやがって」
 
 
双剣をしまいながら倒れている魔物に向かってそう言うと、同じように剣をしまったルークが俺の所に駆け寄ってきた。
 
 
「スパーダって術も使えたんだな!」
 
 
「ん?ああ、まあな。使わねぇ方がいいんだけどよぉ、今回は時間もねぇしな」
 
 
「へぇ。向こうは大丈夫かな…」
 
 
「問題ねぇよ。向こうには神様がついてんだからよ」
 
 
勝利の女神っていう大それた名前の付いた神様がな。さあて、俺たちもあと少しで目的地だ。あいつの事だから翠神でばっさばっさ切り捨ててる可能性もあるし。とにかく心配なんかいらねぇよ。あいつは、強いからな。
 
 
 
 
 

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