預言された事柄


 
 
 
 
 
とりあえず後でラスティを締める。これは決定事項だ。俺の中で勝手に決まってるもんだけど、決定事項だ。んで、リリーを悲しませたことも含めて殴る。これも決定事項だ。よし、とりあえずはシリアスな時は黙ってるぜ。
 
 
「ガイ!ごめん…」
 
 
ルークは宿屋の一室に入ってすぐにそう言った。まあ、イオンに「カースロットは強い恨みがないと使えない」とか言われたらそりゃあ楽観的には出来ねぇな…。けど、俺から見たらガイはルークを恨んだり憎んだりしてるよーには見えねぇけど…?
 
 
「…ルーク?」
 
 
「俺…きっとお前に嫌な思いさせてたんだろ。だから…」
 
 
ルークはベットに胡坐をかいて座っているガイに近づきながら声のトーンを落としてそう言った。ティアとかに慰められてたからそこまで落ちちゃいないが、やっぱりあんま元気じゃねぇな。
 
 
「ははははっ、なんだそれ。……お前のせいじゃないよ」
 
 
ガイは足の上に肘をついて低い声で言った。
 
 
「俺がお前の事を殺したいほど憎んでたのはお前のせいじゃない。俺は……、マルクトの人間なんだ」
 
 
その瞬間、ルークは驚いた眼でガイを見下ろした。そして窓際に立っていたアニスが驚いた声を上げて、ガイはアニスの方を見た。
 
 
「俺はホド生まれなんだよ。で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。んで、預言士が俺の預言を詠もうとした時、戦争が始まった」
 
 
ホドって場所が俺にはさっぱりわからねぇが、ラスティが壁際で厳しい表情をしてるってことは、あいつはもちろん知ってんだな…。そのホドって奴を。そしてその戦争でホドを責めたのがファブレ公爵。つまりルークの父親って事か…。
 
 
「そう。俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねぇ。使用人も親戚も。あいつは、俺の大事なもんを笑いながら踏みにじったんだ。…だから俺は、公爵に俺と同じ思いを味あわせてやるつもりだった」
 
 
戦争…。俺たちの世界とは規模が違う大きな戦争…。島一つを滅ぼす事になった戦争…。そして俺たちと戦争は因縁がある。ラスティは昔、殺戮人形と呼ばれ戦場で生きて来た。何も知らない子供のまま、ただ人を殺す事だけを学び、感情もなく生きて来た。そして、救われた。けど、ラスティの中にあった恨みは、浄化されることはなく…。
 
 
「あなたが公爵家に入り込んだのは復讐のため、ですか?」
 
 
ラスティは、自分を売った両親を心の底から恨んだ。そしてその恨みは最悪の結果をもたらした。ラスティの憎しみが、刃へと変わった。
 
 
「ガルディオス伯爵家、ガイラルディア・ガラン」
 
 
憎しみが何も生み出さないことは俺たちが良く知ってる。俺たちはそれを見てきた。憎しみに囚われた人の末路を。そして悲しみを。俺たちの場合、前世の恨みをそのまま引き継いだ奴もいた。それでも、俺たちは全ての因縁を含めて、変わらない絆を誓った。だから、知っている。憎しみが生み出すものの結果を。
 
 
「…うぉっと、ご存じだったってわけか」
 
 
「ちょっと気になったので調べさせてもらいました。あなたの剣術はホド独特の盾を持たない剣術、アルバート流でしたからね」
 
 
けど、ガイは大丈夫みたいだ。ガイの表情からわかる。あの顔は恨んじゃいない。ルークの事を憎いなんて思ってねぇ。
 
 
「…なら、やっぱガイは俺の傍なんて嫌なんじゃねぇか?俺はレプリカといえファブレ家の…」
 
 
「そんなことねーよ。そりゃ、全くわだかまりがないと言えば嘘になるがな」
 
 
ルークは本当になんつーか……、アホだな。レプリカだろうが関係ない。しかも、ルークは戦争に参加してたわけじゃねぇ。もう、過去の話なんだよ。
 
 
「だ、だけどよ…」
 
 
「お前が俺についてこられるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。そうでないなら、もう少し一緒に旅させてもらえないか?まだ、確認したいことがあるんだ」
 
 
「…わかった。ガイを信じる。いや…、ガイ、信じてくれ…かな」
 
 
「はは、いいじゃねぇか、どっちだって」
 
 
ほら、ガイは大丈夫だ。大丈夫なんだぜ、復讐なんてやらなければ。
 
 
「良かった。お二人が喧嘩するんじゃないかってひやひやしてました」
 
 
イオンはそう言いながら二人に微笑みかけ、安堵の息を吐いていた。ラスティはそんな全員を見渡しながら壁に背中を預けたまま腕を組んでいた。その表情は厳しくて、何か考えているようにも見えた。多分、戦争の事だ。
 
 
「さて、そこで壁の花になっている魔導師ラスティ。詳しい話を聞きましょうか?」
 
 
ジェイドの言葉に、全員の視線が壁の花になってるラスティへと注がれる。ラスティはその視線に答えるのが面倒なのか、大きなため息をついてから壁から背中を離した。ああ、めんどくせぇっつうかさっきの恨みうんぬんの話しでテンションが異様に下がっているような感じだ。やっぱ、あの時の事は忘れられねぇんだな…。
 
 
「詳しい話って何だよ」
 
 
「おや?先ほどまでの元気ぶりはどちらへ行ったんですか?」
 
 
「無駄話は好かん」
 
 
「失礼。では、あなたはこれからどうするおつもりで?私たちを、正確にはルークを手伝うとの事ですが、私たちは救援を求めたことはありません。それなのに、何故?」
 
 
…確かに…。リリーからの事前連絡もなかったし、さすがに俺も驚いた。こいつが何も連絡なしにこっちに接触してくるなんて…。しかもいつの間にかリリーと仲直りしてるし…。
 
 
「……こっちにもちょっとした事情ってもんがあってな…。それに、夢見が悪くて…な…」
 
 
「夢見…?それってリリーが言ってた奴か?」
 
 
「リリーの奴…スパーダにチクりやがったな…!ちょっと刀に戻さなかったからって拗ねやがって!大体あの姿の時だけリリーが一人の少女としていられんだからそんなに怒らなくたっていいじゃねぇかよ!」
 
 
ちょっと逆ギレに近いラスティに思わずため息が漏れる。なんなんだこいつ…。テンションが戦争で下がったと思ったらキレやがって…。一番面倒なのはこいつじゃなぇかよ…。
 
 
「んで?結局のところ何しに来たんだよ」
 
 
「ま、警告と手伝いってとこか」
 
 
ラスティはおちゃらけた口調でそう言ったが、雰囲気は全く笑っていなかった。むしろ張りつめていて気持ち悪ぃくらいだ。
 
 
「警告…?」
 
 
「セントビナーは堕ちる。そして、必ず邪魔が入る」
 
 
「……邪魔?」
 
 
「そいつぁ詳しく知らんが確実だろう。だが、セントビナーは堕ちるんだ。秘預言に書かれていない事だとしても、堕ちるんだ。あの市長が言ったような事にはならない。だから、警告。油断するな。あの街に残された時間は短い。それまでに俺たちは全ての住人を避難させなきゃならん」
 
 
ラスティは、時々預言みたいなことを言う。まるで未来が見えてるみたいに先の事を言って、俺たちの事を導いてきた。いや、もしかしたらこいつは知ってるのかもしれない。じゃないとルークの傍を離れるな、とかそういう忠告も出来ない。こいつは知ってる。俺の知らないこの世界の何かを。
 
 
「俺に問いかけるなよ?疑問を解決するのは俺の仕事じゃねぇ。お前らの仕事だ。まあ、警告うんぬんは置いといて手伝うのは本当だから安心しな。ただし、このままの姿じゃねぇけどな」
 
 
そっか、邪魔が入るんだったな…。だったらラスティのままじゃ危ねぇな。ってことはまたリリーか?
 
 
「リリーに化けるかも後に置いとくぜ、スパーダ君。んじゃセントビナーに向かっても構わないか?」
 
 
ラスティが腰に手を当てて視線をルークへと向ける。ルークはラスティの視線を真正面から受け止めると、力強く頷いて見せた。
 
 
「じゃ行きますか!セントビナーに!」
 
 
 
 
 

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