主の加護


 
 
 
 
 
さて、ここで皆さんに問題でっす!今俺はどこにいるでしょーか?正解出来たら素敵な事を教えてあげちゃうぞ!
 
 
――首都グランコクマ――
 
 
おお!さっすがリリーさん!俺の事なんて何でも分かっちまうんだな!惚れ惚れするぜ!ヒューヒュー!
 
 
――さっきから一体なんなの?急に元気になったと思ったら途端にウザくなって…。気持ち悪い…――
 
 
おいおいリリーさん。それはねぇぜ?せっかく俺がテンションを無理にあげて頑張ってるっつうのにさ!!リリーももっと上げようぜ、テンション。
 
 
――ごめんなさい。私が変なことを聞いてしまったから頭がおかしくなってしまったのね…。あの時の私、きっとどうかしてたんだわ。ごめんなさい。償っても償いきれないことをしてしまったわ…――
 
 
おいいぃぃ!!俺を精神おかしくした人みたいに言うんじゃねぇぞごらぁ!!てかリリーも色々絶好調じゃねぇかよ!?
 
 
――あら?そうかしら?気のせいよ、きっと――
 
 
気のせいにすんなぁ!!
 
 
「止まれ!何者だ!?」
 
 
おや、話しながら歩いていたらどうやら宮殿の中に入っちまったみたいだな…。さて、ここでまた質問だ。俺は今どんな格好をしてる?
 
 
――アニス・タトリン――
 
 
正解ッ!
 
 
「ローレライ教団導師イオンの導師守護役、アニス・タトリンです!導師イオンからの言伝を頂きましたのでご報告に来ました!」
 
 
こんなもんでいいのか?俺、アニスの事ほとんど知らねぇんだけど…。
 
 
――構わないでしょう。どうせこの兵士にはわからないんですもの――
 
 
そりゃあそうだ。
 
 
「導師イオンからの言伝…?分かった、中へ入れ」
 
 
兵士さんったら間抜けだなぁ!変装とかそういうのは考えないのかね!まあともかくせっかく開けてもらったんだから入らんきゃな!
兵士が扉を開けた奥には、真面目くさった話をしているルークたちとピオニー陛下と部下たち。ふむふむ、セントビナーの話ってか?
 
 
「アニス…?イオンはどうしたんだよ…」
 
 
いきなり開いた扉の向こうにいた俺(アニス)を見たルークが目を見開いて呆然とした顔をしていた。俺はそれを見ながら小走りをしながらジェイドに近づく。
 
 
「大佐!イオン様からの伝言を伝えに来ましたぁ!」
 
 
アニスの真似をして後ろの音を伸ばした見たんだが、うーん。なかなか難しいな…。これだから女らしい女の真似って苦手なんだよなぁ〜。
 
 
「おやアニス。イオン様からの伝言なんて嘘はいけませんねぇ」
 
 
あっそ…。入った瞬間から気づいていらっしゃるって事かいな…。思わずこの状態でため息をつきたくなっちまった。しかもスパーダは一発で気づいてるし…。いやあさすが俺のスパーダ君だよ、うんうん。
 
 
「な、何の事ですかぁ大佐〜。私嘘なんて…」
 
 
「では、あなたは誰ですか?」
 
 
ジェイドがそう言って槍を虚空から取り出したと同時に、スパーダが目を鋭くして双剣を抜いて俺を振り抜こうとしていた。ああ、全くせっかく面白いと思ってやってみたのに、冗談が通じないんだから全く!
 
 
「いやだなぁ、大佐ぁ。私じゃないですかぁ〜」
 
 
ジェイドの槍とスパーダの双剣を跳躍することで避けてルークたちの一番後ろに着地してにっこりと笑う。アニスではやらないような爽やかな笑みで。二人は鋭い視線をしたまま俺の事を見ていたが、俺は視線を逸らしてピオニーたちを見ると、目を白黒させていた。まあ、状況が呑めないんだろうな。はは、間抜け面!
 
 
「残念ながら、私はアニスしか知りませんので」
 
 
「つーかてめぇのその口調キメェ。頭湧いたか?」
 
 
ちょっと!ジェイドはともかくスパーダのセリフやけに辛辣じゃない!?俺泣くどころじゃないよ!?号泣しちゃうよ!?
 
 
「楽しくねぇな、お前ら…」
 
 
素早く幻神を解いて呆れたようにため息をついて肩を落とすと、陛下たちが緊張した気配を発した。俺の事を警戒してんのか?無駄無駄!俺って警戒するような人間じゃねぇから!
 
 
「ラスティ…!」
 
 
ルークが驚いたような声を上げてこっちを凝視するもんだから、俺は笑顔でルークに手を振ってしまった。するとハッとしたノルドハイム?だっけ?が大きな声で叫んで兵士を呼んできちまった。
 
 
「あ、しくったわぁ」
 
 
ジェイドもすぐに止めてくれればいいのに俺の事を話に混ぜたくないのか無視してるし…。スパーダに至っては視界に入れてくれさえしない…。何それ…。泣くわ…。
 
 
「侵入者め!」
 
 
いつの間にか来てた兵士に両腕を取られ、動きを封じるように羽交い絞めされた。って、誰か止めたれや!
 
 
「はあ、お話ししましょうと思ってきたのに…。ジェイド、お前止めるとかなんとか…」
 
 
「おや?何の事でしょう?私とあなたは顔見知り程度でしょう?魔導師ラスティ」
 
 
「こんの陰険鬼畜眼鏡ぇ!だからお前友達いねぇんだよ!めんどくせぇな、おい!言っとくけど、これお前の責任だから!俺のせいじゃないから!先に言っとくからね!ごめんね、兵士たちよ!!」
 
 
腕を押さえつける兵士たちそっちのけで話をしてバタバタ暴れながら喋ると、ジェイドは呆れたようなため息をついていた。くそう!やるぞ、リリー!!
 
 
――怒られても知らないから――
 
 
良いから!
 
 
――はいはい…。紫神!――
 
 
リリーがそう言った瞬間、俺の体を紫電が包み込む。バリバリと音を立てるそれは、俺を触っていた兵士たちを感電させ、その場に倒れこませた。掴まれていた腕の部分を手で払うと、陛下たちは驚いた顔で俺の顔を見ていた。つーか、いつまでも話が進まねぇんだけど…。
 
 
「さっさと要件言えっつうの。ただでさえお前の容姿は目立つンだよ」
 
 
「へーい……。さて、お騒がせして申し訳ありません?陛下」
 
 
スパーダ君に怒られたので、真面目に魔導師の顔で陛下に向き合い、にやりとした笑みを浮かべると、陛下は何とも言えない顔をして俺の事を見ていた。
 
 
「申し訳ないって顔をしてないな」
 
 
「ええ、もちろん。人生にはおふざけが必要でしょう?」
 
 
「…お前は何者だ?」
 
 
「おっと!これは失礼?私は六神将補佐官、魔導師ラスティでございます。以後、お見知りおきを…」
 
 
まるで道化師のように腰を折ってあいさつすると、陛下の両脇にいた部下が眉をしかめていた。どうやら、俺の事がお気に召さないようで?
 
 
「六神将が何の用だ?」
 
 
何かを探るような視線。ふふふ、別にこれといった要件はねぇよ。何故なら俺がここにいるのは…。
 
 
「焔が、頼りないんでな。剣と共に協力してやろうと思ったまでさ!」
 
 
にやりとした笑みを浮かべたままルークへと視線を向けると、ルークはまたまた目を見開いて驚いていた。視界の端に見える陛下も驚いた顔で俺の顔をしていた。
 
 
「驚いたな…。先ほど俺たちの部下を殺したと聞いたが」
 
 
「ん?ああ、シンクとラルゴか…。残念なことに俺は単独行動がお好きでね。それに、俺に命令できる奴はただ一人。唯一の騎士様だけだからな」
 
 
「騎士?騎士が命令するってことはお前はそいつの部下…か?」
 
 
「いいや?俺は主だ。俺は騎士の主でありながら騎士の命令しか受けない。ただ、それだけだ。さて、陛下?俺にルークを手伝わせてもらえるかな?」
 
 
「命令は聞かない、だろ?」
 
 
「察しが良くて助かる。さすが賢帝。ではでは、俺はとりあえず退場させてもらいまっす」
 
 
こっから先の話はどうせ小難しいんだろ?だったら俺は聞きたくないね。俺には要点だけ伝えてくれればいいわけだし。ってことでリリーを掴んで再び幻神を発動!
 
 
「先にセシル君と導師イオンの所にいっから!」
 
 
徐々に消えていく俺にスパーダ以外が驚いたようだが気にせずにそのまま幻神で姿を消して謁見の間から出て行った。
さって、ここまでやってこれたわけだ!これからが大変だな。
 
 
――それでも私たちには…――
 
 
「――ローレライの加護があるってか?――」
 
 
 
 
 

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