コンタクト拒否


 
 
 
 
 
俺たちは今、グランコクマに行くためにテオルの森へとやって来た。ここに来るまでにタルタロスの調子が悪くなってケテルブルクって場所でジェイドの妹にあったり実は故郷だったりなんて話を聞いた。まあどっちも俺のためにはならんけどよ。
 
 
「何者だ!」
 
 
んで、現状を簡単に説明すると、めんどくせぇって事だ。
 
 
「私はマルクト帝国軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐だ」
 
 
怪しむような視線を向けてくる兵士に近づきながら、ジェイドがそう言うと、兵士二人は驚いた声を上げた。
 
 
「カーティス大佐!?大佐はアクゼリュス消滅に巻き込まれたと…」
 
 
「私の身の証は、ケテルブルクのオズボーン子爵が保証する。皇帝陛下への謁見を希望したい」
 
 
「大佐お一人でしたらここをお通しできますが…」
 
 
兵士はジェイドの顔を見た後に、後ろにいる俺たちへと視線を向けた。その視線は暗に俺たちの事を通したくないって言っていた。そんな兵士たちの態度に怒ったのは、もちろんアニス。
 
 
「こちらはローレライ教団の導師イオンであらせられますよ!」
 
 
「通してくれたっていいだろ!」
 
 
そしてそんなアニスに便乗するようにぶーぶー言うルーク。つか、お前らはこの緊迫した状況を何だと思ってんだよ…。
 
 
「いえ、これが罠とも限りません。たとえダアトの方でもお断りします」
 
 
「皆さんはここで待っていて下さい。私が陛下にお会いできればすぐに通行許可を下さいます」
 
 
ジェイドはそう言うと兵士たちについて森の中へと進んで行った。ガイは肩を竦めながら諦めてその場に座り込んだ。ルークも不満そうな顔をしながら黙ってその場に座り込んだ。みんながそれに続くように座り込み、ただ一人苛立ちを隠しきれないアニスが木に向かってストレス発散をしているようだったが…。
 
 
――…スパーダ…――
 
 
おうっ!?急にどうした、リリー。
 
 
――……何でもないわよ…。何でもないわ…――
 
 
おいおい、何でもねぇって感じの声じゃねぇぞ?
 
 
――何でもないって言ってるでしょ!!――
 
 
なンでキレてんだよ!?つか俺何もしてねぇぞ!
 
 
――…八つ当たりして悪かったわ…。それより、あなたたち今どこ?――
 
 
あ、ああ…。俺たちは今テオルの森ってとこにいる。グランコクマの一歩手前ってとこだ。
 
 
――グランコクマ…ね…。実は、今ラスティが私を刀に戻したがらないの――
 
 
はぁ?戻したがらない?どういうことだァ?
 
 
――嫌な夢を見たそうよ?それで私が刀に戻ってその夢を知るのが嫌みたい。馬鹿みたいな話だと思わない?――
 
 
…みたいっつうか馬鹿だろ。ガキか、あいつは…。
 
 
「ぐああああ!!」
 
 
その瞬間、金属音と共に兵士の悲鳴が聞こえてきて、全員が一斉に声が聞こえた方へと視線を向けた。あれは完璧に何かあった。嫌な予感がする…。
 
 
「行ってみましょう!」
 
 
ナタリアの言葉に、頷いて全員が一気に走り出す。すると少し離れた場所に一人の兵士が倒れていた。ナタリアがその兵士の傍に膝を突き、様子を見た。
 
 
「しっかりなさい!」

 
「神託の盾の兵士が……くそ……」
 
 
神託の盾…?こんなところまで何しにきやがったんだ…?
 
 
――…ここにはセフィロト…、つまり大地を支える柱はないわ。彼らがここに来る意味が分からないけど…――
 
 
リリーでも知らねぇのか…。あの馬鹿は?
 
 
――知ってるかもしれないけれど、私たちは今繋がっていないから…。あの馬鹿は私が刀の状態じゃないと神の力が使えないっていうのに…。今の彼は普通の人間と同じ程度の術しか使えない。疾風も幻神も氷楼も使えない…。全く…!――
 
 
随分ご立腹だな…。ラスティの馬鹿はしょうがねぇな…。あれ、つかそしたらなんで俺とリリーは会話出来てんだ…?
 
 
――……そうね…、簡単に言うならラスティが私とのコンタクトを拒んでいてあなたが拒んでいないから、かしら?今の彼は私と繋がるのを拒んでるから…――
 
 
リリーがそこまで言った時、俺はなんでリリーが不機嫌なのか分かった。リリーはラスティが拒んだ事が気に入らないんだ。それでもリリーが動揺も混乱もしていないところを見ると、ラスティがうまい事宥めたんだな…。
 
 
――あら、ルークたち行っちゃうわよ?――
 
 
あ、あいつら!勝手に進むつもりなのか…!?
 
 
「こら、待ちやがれ!」
 
 
かくれんぼとか確実に遊んでるだろっ!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「もうすぐ出口だぞ。神託の盾の奴、もう街に入っちまったのか?」
 
 
かくれんぼとかふざけた感じにテオルの森の奥まで進んじまった俺たち。俺はというととんでもない疲労感に襲われてた。なんつーか、ルークはともかくイオンとか見つかりそうではらはらさせられた…。俺、寿命縮みそう…。
 
 
――お疲れ様…――
 
 
リリーの慰めがあんまり効かないくらい疲れ切っていた…。
 
 
「マルクトの兵が倒れていますわ!」
 
 
そんな中、ナタリアが倒れていたマルクト兵に駆け寄ろうとする。瞬間、マルクト兵の近くから僅かだが殺気を感じた。急いでナタリアの方を見ると、上から奇襲してきたラルゴを素早く躱し、矢を放っていた。奇襲者ラルゴは矢を防ぐと、唇に笑みを浮かべた。
 
 
「お姫様にしては良い反応だな」
 
 
「お前は砂漠で会った……、ラルゴ!」
 
 
ナタリアは弓を構え、ルークたちもすぐさまそれぞれの武器を持ちラルゴに近づいた。ルークは厳しい目でラルゴを見つめた。
 
 
「侵入者はお前だったのか!グランコクマに何の用だ!」
 
 
しかしラルゴはそんなルークの言葉に全く答える様子を見せず、それどころかにやりと笑っている。そして、同時に有り得ない場所から殺気…!
 
 
「前ばかり気にしていてはいかんな。坊主」
 
 
「ルーク!」
 
 
「え?」
 
 
俺がルークの名前を叫ぶと同時に、ガイが手に持っていた剣をルークへと振り下そうとしていた。近くにいたティアが素早くルークの体を押すことにより、ルークの体は斬られずに済んだが…。ガイ…?
 
 
――……カースロットか…――
 
 
リリーが何かを呟いていたけど、俺はそれを黙って聞いていられるほど余裕がなかった。ガイは虚ろ目の状態でルークに次々と斬りかかっていく。ルークはガイに反撃できないため、受け止めるだけしか出来なかった。けど、ガイの剣がルークの剣を弾き飛ばし、ガイがルークに斬りかかろうとした。俺は手にしてる双剣を構えて二人の間に入ろうと一気に踏み込もうとした。が、その前に地面が思いっきり揺れたため、俺の足は出ず仕舞いだった。
 
 
「きゃっ、また地震!」
 
 
地面の激しい揺れに、立っていられないほどで、俺は思わず地面に膝を突いてバランスを保つ。
 
 
――スパーダ!上にシンクがいるわ!――
 
 
「ナタリア、上!」
 
 
リリーとティアが同時に言うと、ナタリアが素早く弓を木の上へと放つ。すると、木の上からシンクが飛び降りてきて、ガイの視線がそちらへと向くと同時にルークが飛んだ剣を転がって回収する。するとガイは急に体を硬直させ、そのまま床へと倒れてしまった。
 
 
「…地震で気配を隠しきれなかったか」
 
 
「やっぱりイオンを狙っているのか!それとも別の目的か!」
 
 
「大詠師モースの命令?それともやっぱ主席総長?」
 
 
「どちらでも同じことよ。俺たちは導師イオンを必要としている」
 
 
「アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが…、大した生命力だな」
 
 
シンクが皮肉を込めてそういうと、ナタリアが眉を歪めた。
 
 
「ぬけぬけと…!街一つ消滅させておいてよくもそんな…!」
 
 
ナタリアの憎々しげな視線に、シンクはまたしても口角を吊り上げてルークへと視線を投げかけた。
 
 
「はき違えるな。消滅させたのはそこのレプリカだ」
 
 
シンクの言葉にカッと血が上り、反論してやろうと思った時、マルクト兵士の声が飛んで来て黙らざるを得なかった。シンクとラルゴはその声に反応して素早く撤退してしまった。あいつら…!ルークが街を消滅させたのがルークだって…!
 
 
――落ち着いて…。とりあえず、冷静にマルクト軍について行きましょう…――
 
 
リリーが俺を落ち着けるようにそう言う。もちろんわかってる。わかってるさ、それくらい。ここにいるのは俺が怒るべき人間じゃない。だから俺はガイの腕を肩に回してるルークの反対側に立ち、ガイのもう片方の腕を肩に回した。
 
 
「スパーダ…」
 
 
「行くぞ」
 
 
俺はそれ以上何も言わずにマルクト兵について歩き出した。歩いて行く先に、水の首都が見えた。
 
 
 
 
 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -