魔導師不調


 
 
 
 
 
クラゲみたいな巨大な生物を倒し終わった俺は、とりあえず怪しまれないようにイオンたちよりも先にダアトに帰ることを告げて疾風でさっさとダアトへと帰還した。
つか、俺って死んだことになってんのか?
 
 
――聞いてみないとわからないんじゃないのかしら?――
 
 
とりあえず俺はいつも会議に使っている部屋を思いっきり開け放った。会議室の中にはアリエッタ、シンク、ラルゴがいた。三人はいきなり入ってきた俺の目を見開いたまま固まっていた。
 
 
「ラスティ…?」
 
 
呆然とした声を上げたのはアリエッタ。彼女は腕に抱いている人形を力強く抱いたまま目を見開いて俺を見ていた。
 
 
「おう、ただいま。アリエッタ」
 
 
「…ッ!ラスティ!!」
 
 
アリエッタはその目に涙を浮かべると、抱いていた人形を落として俺の胸に飛び込んで来た。俺はその小さな体を抱きとめて、頭をゆっくりと撫でてやった。
 
 
「心配かけたな…」
 
 
「り、リグレットか、ら…、ラスティは、アクゼリュスの、崩落に!ま、巻き込まれたって…!る、ルークた、ちが…殺したってぇ!」
 
 
「ちげぇよ。俺は強いんだぜ?そう簡単に死ぬかよ」
 
 
嗚咽を漏らしながらもアリエッタは俺がどういう風に説明されていたか教えてくれた。どうやら本当に死んだと思われたらしいな…。リグレットはそれを利用してアリエッタの憎しみを増大させるつもりだったみたいだな…。アリエッタが俺に懐いてるって知ってたから…。
 
 
「…本当にあんたってしぶといね…。軽く巻き込まれてきても良かったのに」
 
 
シンクが椅子に座ったまま腕を組んで、呆れたようなため息を吐いた。でも、その声色が少しばかり安堵を含んでいることを、見て見ぬふりをしてやろう。
 
 
「よかった…。同士を失うのは辛いからな…」
 
 
ラルゴはシンクと違って本当に嬉しそうな声を出して、俺に近づいてきた。そしてその大きな手で俺の髪を撫でた。なんだかくすぐったくて手を払うと、苦笑されてしまった。
 
 
「本当に……安心しました…。ラスティおかえりです…。でも、悪いニュースあります…」
 
 
泣き止んだアリエッタはそう言うと、服の裾を掴んで悔しそうに唇を噛んだ。意味が分からなくて首を傾げながらもアリエッタに唇を噛むのを止めるように促した。
 
 
「イオン様、モースに捕まっちゃったです…。助けようとしても、モースが邪魔…するです…」
 
 
「導師を引き渡してほしくても、向こうの方が地位が高いから迂闊に手を出せないってわけ。今のアリエッタは導師守護役じゃないし」
 
 
なるほど…?今は導師イオンがモースに捕まって軟禁されてるってわけか…。そして俺たち六神将がそれに手を出そうとしてもモースが一蹴するから手が出せない。ふーん…。
 
 
――ラスティ。スパーダから導師イオンを救出するために助力してほしいって――
 
 
ほほう?こっちもこっちで手を出しづらいと?まあこのまま神託の盾にいるより外にいた方が手を出しやすいかもな…。それにスパーダからの頼みか…。いいよ、分かった。
 
 
「とりあえず俺、寝ていいか?ここまで戻ってくるのに疲れちまったよ…」
 
 
疲れているのは本当だ。幻神を連発したし、禁術を使ったし、灰神、氷楼、疾風と連発して技を使ったせいでへとへとだ。ルークたちがここまでまでに時間はあるだろうし…。
 
 
「部屋に戻っても良いぞ。導師イオンに関しては俺たちがどうにかする」
 
 
「ああ、よろしく」
 
 
ラルゴの言葉に甘えて、自分の部屋に戻ることにする。とりあえず、少しの間はお休みだ…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――ラスティ、スパーダたちが来たわ――
 
 
リリーの呼びかけが聞こえてきて、俺は自分が思ってたより深い眠りについていたことに気づいた。未だにだるい体を起こして、体を解す。
 
 
「了解…」
 
 
漏れる欠伸を無視してベッドから立ち上がり、部屋を出て教会の方へと歩き出した。俺の予想が正しいならあいつらは詠師トリトハイムに掛け合って中に入ろうとするはずだ…。俺はそれを助けて…後はバレないようにイオンたちの所まで連れて行く。それで大丈夫だよな…?
 
 
――ええ…。それよりも大丈夫?あまり具合が良くなさそうだけど…?――
 
 
大丈夫だ。多分禁術の疲れが抜けきってないだけだから…。つか、来たみたいだな。
上の階から下を眺めると、ルークたちが教会の中へと入って行く途中だった。俺はそれにバレないように自分に幻神をかけて、二階から一気に下の方へと飛び降りた。ルークたちは俺に下りた気配も感じられなかったようで、そのまま教会の中へと入って行った。俺もそれに続いて中に入る。
 
 
「ちょい待ち」
 
 
幻神を解いて、声をかけると、ルークたち全員が一斉にこちらを向いた。もちろんスパーダも。
 
 
「魔導師…」
 
 
「今はラスティって呼べよ。詠師トリトハイム、ちょっとこいつらを借りても良いっすか?」
 
 
詠師トリトハイムは良く事情が分かっていない様子だけどとりあえず頷いたので、俺は素早くルークの腕を引っ張って教会の端の方へと連れてった。
 
 
「ちょ、いきなりなんだ!?」
 
 
いきなり引っ張られたルークは訳が分からずに目を瞬かせているが、俺はにやりと笑って耳元で囁いた。
 
 
「詠師トリトハイムに頼んで中に入る許可をもらおうとしてたんだろ?大丈夫、スパーダから連絡貰ってるから俺が手伝ってやるよ」
 
 
ちょっとばかしからかうように言ってやると、ルークは丸くなっている目をさらに丸くして俺の顔を凝視した。そんな俺たちを見ていたスパーダが、よほど不満だったのか俺の服の首根っこを掴んでルークから引き剥がした。
 
 
「おわっ!?」
 
 
「………どうした…?」
 
 
俺の襟首を掴んだまま眉間にしわを寄せているスパーダに困惑して声をかけると、いきなりスパーダに頭突きされた。
 
 
「ッ!!??」
 
 
ごつん、と良い音がしたと同時に額に強烈な痛みが走って俺はその場に蹲った。え、え?俺何かやらかした?何した?スパーダ怒らせるようなことしちゃったわけ?額を押さえながらスパーダを見上げると、眉間のしわがさらに寄っていた。
 
 
「スパーダ…?」
 
 
「……具合悪い奴が来てんじゃねェよ!とっとと失せな!」
 
 
「ええええ…、ここまで来てこの扱いぃ……?つか良くわかったな…、俺が体調優れないって…」
 
 
「お前とは付き合いがなげぇんだからわかるに決まってんだろ。良いから帰れ。じゃないとここで永遠に眠らすからな」
 
 
「いやいや!それはマジ勘弁だから!……仕方ないなぁ…。リリー、頼めるか…?」
 
 
後ろから魔王でも呼び出しそうなスパーダの迫力に負けて、情けない声でリリーを呼ぶとクスリと笑われてしまった。ほんと、いつでもどこでもリリーは母親みたいな雰囲気しやがる。
 
 
「あなたはいつまで経ってもどうしようもないドラ息子だわ」
 
 
背中から刀としてのリリーの重みが消えて、代わりに少女リリーの重みがかかる。背中同士を合わせるようにリリーは座っていた。多分、ルークたちからはゆっくりと霧のようにリリーが現れたように見えただろう。まあ、間違っちゃいねぇけどさ。
 
 
「ドラドラー…」
 
 
「ふう、ドナドナじゃないんだから。あなたはさっさと部屋に戻りなさい。どうせ私がいないとほとんど能力使えないんだから」
 
 
「いやいや、術は使えるって…」
 
 
「さ、この馬鹿を置いて行きましょう?私が道を開くわ」
 
 
リリーは俺の最後のセリフを無視して立ち上がり、ルークたちへと近づいた。俺はそんな光景を見ながら重たいため息を吐いて立ち上がった。すると、目の前に立っていたスパーダと視線が合った。
 
 
「無理すんな。俺の主はお前だけなんだから」
 
 
スパーダは灰色の目でしっかり俺のことを見ると、それだけ言って踵を返し、ルークたちの所に行ってしまった。あーあ…。あんなこと言われちゃしかたねぇな…。しっかりと休んで禁術の疲れをとらなきゃな!後は任せたぜ、リリー。
 
 
 
 
 

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