魔導師爆走
ジメジメジメジメ……。何なんだよ、この湿り気……。俺の髪が超痛むんですけど…。
あ、どもども、みんなのアイドルラスティくんでっす!……すみませんふざけました…。それはさておき、俺たちはタルタロスをすっ飛ばしてここまでやって来ましたワイヨン鏡窟!現在俺は襲い掛かってくる湿り気と格闘してる最中です!
「おい、何してんだよてめぇ」
俺が湿り気と格闘しているとアッ君が声をかけてきた。何かと思って振り返ると全員が洞窟の奥に歩き出そうとしているところだった。アッ君は物凄く呆れ顔で俺の事を見ている。
「髪が…、痛むんだよぉ!!」
「ぐおっ!?」
全く湿気に負けていないアッ君の髪の毛が恨みがましく思えて思わず腹に一発決めてしまった。アッ君は腹を押さえてこちらを睨みつけているが、俺は気にしない!キャラが壊れていると言われても気にしない!
「ささ、アッ君を置いて行こ行こ!」
遠足に行くみたいにノリノリで言ったらその場にいるナタリア以外のメンバーに冷たい視線をもらってしまった…。何故ナタリアはないかというと、アッシュの心配をしているからだ。
「はあ…」
なぁんか無理にテンション上げようと奮闘してるけど、空回りしてる気がするよ…。どう思う?リリー…。
――あなたはいつだって空回りだから安心して――
むしろ安心出来ねぇわ…。
リリーの言葉により傷つきながらも奥に進んでいくと、何やらクラゲみたいな生物が浮いていた。あー、あれって魔物だよな…。
「あれは、何かしら?」
なんて考え事してたらナタリアがクラゲのような魔物に近づいていく…ってはい!?ちょ、油断大敵だって!!そして俺の予想通り油断しきったナタリアにクラゲが襲い掛かろうとした。俺はその瞬間、素早くリリーを抜いて駆け寄った。
「油断大敵だってば!!」
情けない声を出しながらも同じように走り出したアッシュと共にクラゲを切り捨てた。アッシュはそのまま追い打ちをかけるように残りのクラゲに斬りかかって行った。俺はそれにため息をつきながらリリーを背中へとしまった。
「…無事か?」
アッシュがナタリアを見ながらそういうと、ナタリアはぎこちない様子で答えた。………なんだろこいつら…。全俺が嫉妬しそうな雰囲気を感じる…。予想しよう。こいつら絶対そのうちいちゃいちゃし始めるだろう!
「……ジェイド。こいつに見覚えは?」
「生物は専門ではないのですがねぇ」
さすが陰険眼鏡。どんな場所でも状況でも嫌味を忘れない。専門外とかありえねーし。だってお前死霊使いだろ。
「おや、何やら言いたそうな視線を感じますが?」
「気のせい気のせい」
気づいているくせにあえて遠回しに俺に言う陰険鬼畜嫌味大佐。そんな大佐の言葉に負けないのが俺だ。
「この辺りに生息するものとは違います。新種にしては、ちょっと妙ですね」
ジェイドが落ちていない眼鏡を押し上げながらそういうと、アッシュが眉間に深いしわを寄せた。どうやらそう簡単にはいかないかも知れないってさ。まあ、こんだけ複雑な状況なんだから簡単に済むとは思ってないけど…。
「行くぞ」
どうやら、まだ奥に行かないといけないらしいね…。
「ここは…?」
一番奥と思われる場所につくと、そこには見たことのない大きな機械が聳え立っていた。ジェイド曰くこれがフォミクリーらしい。アッシュたちはそのフォミクリーに近づいて何やら話し込んでいるようだが、俺は全く話に参加する気が起きない。だって俺が聞いたってよくわからねぇし…。まあ俺ほどの天才なら理解するのは簡単かもしれないがな!!
――願望?――
違う!事実だ!
――随分と痛いことを言うのね…。あなたは正真正銘の馬鹿よ…――
どうしたんだリリー…毒舌が酷いぞ…。俺、泣きそう…。
――もう勝手に泣いてなさい――
どうやらリリーは機嫌がよろしくないようである。そして俺もリリーの毒舌攻撃を食らいすぎて撃沈してるのである。
「さっきから何勝手に落ち込んでんの〜?」
誰にも目立たないようなところで小さくなっていると、アニスがそんな俺を不審がったのか声をかけてきた。相変わらずアニスは俺の事を敵視してるのか視線が厳しいんだよなぁ〜。めんどくさ…。
「気にせんでいいよ。勝手に傷心してるだけだから…」
しかし今はそんなアニスの視線が気にならないほど落ち込んでいる。だってリリーがめちゃくちゃ毒舌なんだもん…。
――もんとか言うな気持ち悪い――
何故だっ!?
「おい、そろそろ引き上げるぞ」
どうやら俺が落ち込んでいる間に、必要な情報は入手出来たようだ。全員が一か所に集まっていた。
「結局わかったことって、総長が何かおっきなレプリカを作ろうとしてるってことだけ?」
お、あの髭ってばそんなことしようとしてたんだー。おっきなレプリカねぇ…。
「てかあんたは何も知らないわけ?」
不意にアニスが俺にそう問いかけてくるけど、俺は肩を竦めるだけだった。だって俺はアッシュよりもここにいる時間が短い。そんなこと知ってるはずがない。
「とにかく、それで十分だ。…行くぞ」
「行くって、どこへ……」
「後は俺一人でどうにかなる。お前らを故郷に帰してやる」
そう言って踵を返すアッシュに、それぞれ何とも言えない反応を示していた。ちなみに俺もその中の一人なんだけど、まあどうでもいいや。俺には移動手段があるからな…。とにかく、今はこの洞窟を出る事が目標らしい。今まで通って来た道を魔物を倒しながら戻っていく。俺もリリーを刀の状態のまま持って、技を使わずに切り捨てていく。だいぶ洞窟を戻って来た頃、何かの気配を感じた。魔物…か…?
――気を付けてラスティ。何か大きいのがいるわ…――
いや、調度いい…。最近まともな戦闘をしてないんだ。体が鈍っちまう…。
リリーの柄を強く握りしめてにやりと笑うと同時に、アッシュも何かの気配に気づいたのか、剣を抜こうとする。俺はそんなアッシュの隣に立って、その剣を無理矢理押し戻した。
「おい、てめぇ!」
アッシュが眉間にしわを寄せて叫ぶと同時に、近くの湖から巨大な魔物が現れた。おお、なかなかの大物だぞ!リリー、これはいい相手になるんじゃないか!?
――あなたって戦闘狂だったかしら?――
体が鈍りたくないだけだ!
「アッシュ。こいつ俺にやらせてくれよ!最近体が鈍って酷いんだ」
自分がいかに高揚しているのかわかる。だって目の前に魔物がいるのに楽しそうに笑っているんだから。今までのストレスを発散させてくれよ?
「手出しは、無用だっ!」
嬉々として走り出すと同時に、その魔物が自分の体内から小さな魔物、さっきのクラゲみたいなのを吐き出した。それを全く気にせず切り捨てて本体へと斬りかかる。魔物は俺の事を振り払おうと触手のような腕を振るうが、俺はそれを躱して再び踏み込んだ。
「遊ぼうぜ!クラゲぇ!!」
リリーに炎を纏わせ、それを魔物に向かって振るう。
「第四神、灰神!」
リリーから離れた炎は渦を巻きながら魔物へと進んでいく。魔物はそれをも振り払おうと腕を振るうが、こいつは馬鹿だ。灰神はその対象物が焼け死ぬか、俺が消そうとしなければ消えない神の炎だ。案の定灰神の炎は魔物の腕から全員に駆け巡り、あっという間に火だるまになった。それでも魔物は諦めが悪いのか、火だるまになった体を振り回して抵抗する。アッシュたちはある程度距離が離れているから問題ないな…。それを確認してから冷たい息を吐く。
「終わりだ、氷楼…」
ふうっと吐き出した息が一瞬にして白くなる。その瞬間、火だるまだった魔物は今度は氷漬けとなった。それはそんな魔物をリリーで勢いよく砕いた後、リリーを鞘に納めて振り返った。
「ああ、すっきりしたぁ!!」
満面の笑みを浮かべて振り返ると、なんだか全員が無言で俺の事を見ていた。俺はというとストレス解消できてすっきりしてたからそんな視線をまるで意識してなかった。
「あんたって…強いんだぁ…」
「全くです…。一人で飛び込んだ時には自殺するのかと思いました」
「んお?今更か?俺は強いぞ。戦いの経験が長いからな。ま、俺と戦いたくなかったら敵に回さんことだな。お前らなんて秒殺かもな!」
ご機嫌な俺はアッシュたちの横を通り抜けたから気づかなかった。後ろでジェイドたちがこっそりと敵に回したくない性格をしてるって話をしてたことを…。