優男と本物


 
 
 
 
 
タルタロスに乗り込んだメンバーの中には何とも言えないピリピリとしたものが感じられた。ああ、気持ち悪いったらありゃしない!しかもここには俺の好きなスパーダ君がいないんだぜ?いやまあスパーダにルークの世話を任せないとあの餓鬼は何をするか分かったもんじゃないからな…。スパーダに見張ってもらってた方が安心する。あのティアって奴よりも、な。んで、現在の俺たちはというと、無事に魔界から帰還する事が出来ましたとさ。んで、今からあの髭総長が頻繁に使っていたらしいベルケンドの研究所とやらに行くらしい…。ん?何でらしいって?いやいや、俺があの髭総長の行く場所を把握しなきゃいけないのよ?キモいだろ。俺はあいつの事嫌いなんだから。
 
 
――それで場所を知っていたら単なるツンデレよね…――
 
 
こぉら!お前はまたどこで変な知識を身につけちゃってんの!
 
 
――ツンデレの知識なら随分前からあったわ――
 
 
マジか!?リリー、お前お母さんに泣かれるぞ!
 
 
――母様はすでに知ってるわ――
 
 
わあお…。まあベルケンドが行き先っていうのは知ってたんだけどなー。
 
 
――私たちにはある意味最強の助っ人がいてくれるからね…。とりあえずあなたはベルケンドの研究所には行くつもりなのかしら?――
 
 
うーん…。俺は別に行かなくたって何も変わりはいないと思うがなぁ…。
なんて考え事をしていたらいつの間にかベルケンド近くの港にタルタロスをつけていたらしい。俺は窓から景色を覗いた後に降りる事にした。残ったら疑われそうだし、何より外の空気を吸いたかったからな。
 
 
「こっちだ」
 
 
アッシュが先頭を切って歩き出す。他のメンバーもそれに黙ってついてってるようなので、俺は何も口を挟まずにそれについていった。ところでここまで来て疑問に思ったんだが、俺の事を監視しなくても良いのか?俺はアッシュとは違い一応まだ六神将補佐官としての地位とかを持ってるんだけど…?
 
 
――興味が無いからじゃ…――
 
 
それってある意味どんな理由より残酷じゃねぇか…。なあリリー、冗談だろ?
 
 
――え?――
 
 
え…?
 
 
「何百面相してるんだい?」
 
 
いつの間にか進む足が止まっていたらしい俺を見たガイがそう言って苦笑していた。俺はその苦笑顔を見て多少苛立ちを覚えたので視界に入っていた向こう脛を思いっきり蹴飛ばした。
 
 
「!!??」
 
 
ガイは何が何だか分からない様子で蹲って蹴られた脛を押さえた。その顔は本当に何が何だか分からない面白い顔をしていたので、俺は思わずニヤリと笑ってしまった。スパーダがいたのなら怒られていたかもしてない。顔が悪いって。
 
 
「セシル君…。弄りがいがあるなぁ…」
 
 
「そ、それだけの理由で蹴られたのかい…?」
 
 
「ああ、俺って優男が嫌いだから」
 
 
向こうの世界の聖女様に負けないくらい爽やかな笑みを浮かべてそう言うと、ガイは顔を引きつらせていた。しかしそんな俺たちの空気が読めていないアッシュから怒声が飛んできたので、この話を中断せざるを得なくなった。ガイは研究所に入る際も俺の方を見て警戒というかビビッているようだった。やべぇ、超楽しい!
 
 
――やっぱり悪趣味…――
 
 
煩いっ!
 
 
――それにしったって、あなたは話を聞かなくていいわけ?――
 
 
ああ。別に興味ないし。だって根暗マンサーのよく分からない過去話とかレプリカの話とか、ぶっちゃけどうでもよくない?だって俺たちは何も変わらないんだから。作られようと何であろうと。
 
 
――…確かにそうかもね。ここの人たちは預言のせいでおかしいのね。レプリカだとかそうじゃないとか何も変わりはしないのよね。命に変わりはないもの――
 
 
そうそう。俺たちは当事者だったからこそそれが分かる。差別されることの悲しさが…。
 
 
――でも、それはあなたが解消すべき問題ではないわ。あなたがここですべき事は…――
 
 
もちろん理解しているとも。理解しているともさ…。俺は、俺たちをここに連れてきた奴の願いを聞き届けるだけだ。
 
 
――分かっているのなら構わないわ…。私はあなたの意志を尊重するのだから…――
 
 
ああ、ありがとう。リリー。
リリーとの会話をしている間に何やら話は終わったらしく、アッシュが不機嫌そうな顔をして研究所から出て行った。俺も急いでその後を追いかける。アッシュたちは研究所の前でこれからの事について話しているようだ。とりあえず俺はこの話には参加せずに黙っている事にした。ダアトに帰るまでは一緒にいるつもりだしな。まあ疾風があるから一人でも帰れるけど…。
 
 
「ワイヨン鏡窟に行く」
 
 
予想通りだ。あそこには何やらレプリカの素材が取れるとか聞いたことがあるからな…。ぜってぇ行くと思ってたんだよ…。ジェイドも賛成しているようだし、アニスは嫌がっているが断れなさそうな雰囲気ではあるな…。ふむ、このまま全員で…。
 
 
「俺は降りるぜ」
 
 
な、何だと!?い、弄りすぎたのか!?まだちょっとしかしてないのに!?
 
 
「……どうしてだ、ガイ」
 
 
「ルークが心配なんだ。そろそろ迎えに行ってやらないとな」
 
 
ふうん…?最初にルークを突き放した時は軽蔑してやろうと思ったんだが…。俺とスパーダ君の話を聞いて、多少は行動しようとでも考えたのかねぇ…?まああっちにはスパーダがいるから何の問題も無いんだけどさ。ガイが行こうと行くまいと何も……、いや、変わるか…。ルークの気の持ちようは変わるかもしれないな…。ある意味良い事なのかも知れないな…。
 
 
「ガイ!あなたはルークの従者で親友ではありませんか!本物のルークはここにいますのよ!?」
 
 
ナタリアの言葉は、差別と受け取って構わないのだろうか…。俺には聞き捨てならないね…。どうして『本物』とかつけたがる?
 
 
「ああ。確かに本物のルーク・フォン・ファブレはこいつだろうさ。だけど……俺の親友は、あの馬鹿の方なんだよ」
 
 
――恥ずかしい台詞って思わないのかしら?どう思うラスティ?――
 
 
煩い…。複雑でブロークンな俺のハートを労われ、リリー。あの時は気に食わなかったけど…、まあ認めてやってもいいよ…。スパーダも、嫌ってないし…。
 
 
「迎えに行くのはご自由ですが、どうやってユリアシティへ戻るつもりですか?」
 
 
「ま、なんとかするさ」
 
 
そう言って爽やかに去っていこうとするガイ。あの馬鹿は本当にどうにかしてユリアシティまでの道を見つけるつもりなのか?本当に、ムカつく野郎だ。
 
 
「待て」
 
 
視界の端でアッ君が出遅れたような顔をしているが、俺は無視しといた。だって俺は優しくないし。はは、アッ君も弄りやすっ!
 
 
「何だ?」
 
 
「爽やかでムカつくセシル君に良い事を教えてやるよ。ダアトの北西。そこにアラミス湧水洞ってのがある。ルークが戻る意志を見せたのなら、そこを通ってくる。良い情報だろう?」
 
 
本当に爽やかでムカつくけれど、どこか彼女の友人に似ているガイをどこと無く憎めない気がする。たぶん俺はこいつを完全に嫌悪する事は出来ないんだろうなぁ…。だから俺はこんな良い情報をあげるのかもな。
 
 
――あなたが少しでも多くの人と触れ合う事が出来るのは、喜ばしい事だわ。スパーダたち以外の、多くの人と…――
 
 
「ああ、確かに良い情報だよ。助かる」
 
 
「スパーダが…、認めてるみたいだからな…。あいつに会ったら言ってくれ。俺が活躍してるってな」
 
 
少し茶目っ気を出しながら言うと、ガイは苦笑しながら頷いて俺たちに背中を向けた。これで少しでもルークの心の支えになってくれればいい。そしてあいつが立ち上がってくれるといい。立ち上がって、這い上がって、必死に生にしがみつけばいい。何か目標を持って立ち上がってくれるといい。そうしないと、弱くなる。弱くなると、崩れるから。
 
 
「ルーク!止めないんですの!?」
 
 
「その名前で呼ぶな!……それはもう、俺の名前じゃねぇんだ……」
 
 
相変わらずのナタリアとどこか哀愁を感じさせるアッシュ。ああ、嫌だ嫌だ!こういう雰囲気はいらねぇのよ。
 
 
――ラスティ…。時にはシリアスが必要よ…?――
 
 
おい、リリーがボケるな…!
 
 
――だってあなた、外殻に出た時から何だか暗いんだもの…。私の知っているラスティ・クルーラーはどんな時でも天上天下唯我独尊でなければ…。そういう、男でしょう?――
 
  
……悪かったよ…。ルークの事を考えると気が重くなるような気がしたんだ…。だから…。
 
 
――ほら、また暗くなってる。笑いなさい、ラスティ――
 
 
分かったよリリー。似合わない事はやめればいいんだろ?勝負はこっからなんだ!俺がいつまでもうじうじしてたらスパーダに怒られるからな!
 
 
――そうよ、その調子。早くスパーダと再会するためにも頑張りなさい――
 
 
もちろん。じゃあ、ワイヨン鏡窟に行きますか!!
 
 
 
 
 

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