絆と信頼


 
 
 
 
 
あーあ…、セシル君が邪魔しなければスパーダ君ととってもいい雰囲気だったのになぁ!そういう意味合いも込めて這い蹲っているガイに冷たい視線を送ると、めちゃくちゃ視線を逸らされた。仕方ないから諦めを含んだため息を吐いてアッ君の方を向く。
 
 
「アッ君はわかってんだろうけど、俺は誰の味方でもないから」
 
 
腰に手を当てて、目をゆっくりと細める。そう、俺は誰の味方でもない。だって俺はこいつらの味方じゃないから。そして俺がそう言うと反応を示すのは我らが根暗マンサー様だ。
 
 
「誰が根暗ですか」
 
 
「いっけね、口が滑っちまったよ」
 
 
「それで?あなたが私たちの味方でないのなら誰の味方なのです?ヴァンですか?」
 
 
その血生臭い目が鋭く細められ、眼鏡がキランと光った気がした。いやぁ、その顔にぴったりの眼鏡でございますねぇ!
 
 
「俺は俺の騎士様と、仲間だけの味方だ。まあ、その騎士様がお前たちに手を貸すっつうんなら俺も貸してやるよ。聞きたい事や助けて欲しい時は呼びな?いつでも駆けつけられるとは限らねーが」
 
 
「あなたの私への侮辱は後ほど利子をつけて返させていただきます。しかし、あなたをどう呼ぶと言うのです?その言い方からしてまた離れる気なのでしょう?」
 
 
おお、利子がつくとは怖いな!ま、そんなことにビビるような俺じゃないけどな。
 
 
「呼びたい時はスパーダに言え。きっと分かんだろ」
 
 
「随分と仲がよろしいようですわね」
 
 
「ん?まあな。長い間旅をして来た仲だし、あいつの事信用してるからな。お前たちは目的がバラバラだから息が合わねぇんだよ。だから互いの事を知ろうとしなかった。それが今回の落ち度だ」
 
 
互いの目的が同じじゃないから考えてる事とやりたい事が食い違う。そこから歪が生まれて関係は悪化する。ちょうどこいつらみたいに。だから、目的は同じじゃなきゃならない。俺たちがそうであったように…。
 
 
「じゃあ、あんたたちは何の目的で旅をしていたの?」
 
 
今まで黙っていたアニスがこちらを睨み上げるように見ていた。その眉間には深いしわが刻まれている。あらら、随分と毛嫌いされちまったようだな…。
 
 
「ん―…。簡単に言うなら、俺たちと同じ境遇にある人たちを探して、欠けている記憶を取り戻すこと、かな」
 
 
「記憶喪失だったのか?」
 
 
這い蹲っていたガイが漸く復活して立ち上がって俺を見た。俺はそんなガイの問いかけになんて答えればいいのか困って髪をぐしゃりとかき混ぜた。
 
 
「いや…そうじゃなくて…。お前は知ってると思うが、俺とスパーダは別の世界の住人で、そこで前世が神だったんだ。俺たちは欠けてしまった神であった頃の記憶を取り戻すために旅をしていた。中には敵同士であった者がいた。けど、現世の俺たちには昔の因縁なんかなくて、あったのは絆だった…。前世から引き継がれてきた負を俺たちは振り払って…、俺は一人の人になったんだ。あいつが、俺を変えてくれた…」
 
 
思い浮かぶのは懐かしい面々。俺のお義父さんやルカ、イリア、アンジュ、エル…。みんなあの旅で成長して、信頼を得て、やがて信用になった。俺の心に巣くう疑心暗鬼を取っ払ってくれたのもあいつらだった。感謝してもしきれない。
シンとした静寂が部屋の中に落ちる。しかしこの静寂は悪くない。思考する事を止める事は許されない。常に考え、行動を起こせ。そんな声が聞こえた気がした。
 
 
「人は一人じゃ生きれない。必ずそこに別の命が関わってくる。親、友、仲間…。それは確かに見えない物だが、確実に俺たちを繋いでくれる。そして俺にとってスパーダはかけがえのない存在だ。この世界で俺を認めてくれる、唯一の騎士だ。だから、お前らも分かってやれよ。自分と周りを繋いでくれるものがヴァンしかいなかったあいつを。あいつにとっての唯一がヴァンだったんだ。絆は何度でも繋げる。過ちだって、それを繋げるための要因になる事だってある。俺たちが今ここで会話している事も一つの繋がりだ」
 
 
「信頼出来ないんじゃなくて、信頼したくないんだ。それはそいつに背中を預けちまう行為だからな。けど、んなもんだったらいつまで立っても変わらねー。人が変わるためには一歩踏み出す事が大事だぜ?あいつを多少なりとも信頼してやれよ。そんで、あいつを信頼させてやれ。それが本当の仲間っつうもんだ」
 
 
さっきまでいなくなっていたスパーダがいつの間にか戻って来ていて、俺の隣にちゃっかり立っていた。まあ、こいつがこういうのを言った方が信用性あるだろうな。俺は相手を疑ってたような奴だし。
 
 
「ま、仲間うんぬんは今は置いといて、お前らさっさと外殻大地に戻った方が良いんじゃねーか?俺もいい加減戻らないと何を言われるか…」
 
 
そうだよ!俺はアクゼリュスで勝手に死んでる扱いされてるんじゃなかろうか!?俺は生きてるぞ?不死身だぞ!すまん嘘だ!
脳内で一人でボケをかましていると、金髪のお嬢ちゃん…ナタリアが首を傾げた。
 
 
「どこに戻られるんですの?」
 
 
「ん?そりゃあダアトだろ。俺は補佐だし」
 
 
「えぇ!?あんたアッシュみたいに裏切ってここに来たんじゃないの!?」
 
 
「馬鹿言え!俺がそんな阿呆な真似するわけなかろう!今の状態で六神将から離れると色々支障があるんだよ!本当は地位が嫌いなんだが、目的の為にはやむを得ん。すなわち、お前たちと行動するのは後少しってわけだ」
 
 
「それで?六神将へ戻ってあなたは私たちに武器を向けると?」
 
 
ジェイドの鋭い言葉に、重たい沈黙が落ちる。こいつは本当に人の話を聞いとるんだろうか…?俺が言った言葉を忘れたのかよ…。俺は、騎士様の味方だ。よし、後でこいつの上司に文句言ってやろう!
 
 
「この馬鹿が六神将にいないと困るのは俺たちだぜ?」
 
 
俺の隣に立っていたスパーダが傍を離れて、ルークが寝ているベッドに腰掛けながら全員を見渡した。
 
 
「どういう意味だ?」
 
 
「タルタロスで俺たちを見逃したり、セントビナーで見逃したり、ザオ遺跡であれ以上戦闘にならないように止めたり…。あ、あの預言お前が用意したんだよな?後で覚悟しろよ?んで、アクゼリュス。沢山の命を助けたのも、こいつがいたからだ。俺たちは知らない間にこいつに助けられてる。感謝こそあれ、睨まれる筋合いはないんだよ」
 
 
途中で聞こえた不穏な言葉は聞いてなかった事にしたいと思います。とにかく、俺が六神将補佐としてこいつらをサポートしてなかったら、こんなに早くここまで来れなかっただろうよ。ふん、俺様を崇めると良いさ!


「そう言う事だ、愚民ども。俺を崇めろ」
 
 
「調子にのンな!」
 
 
胸を張って威張ると、スパーダに回し蹴りされた。しかも脇腹…。地味に痛くてその場に蹲る。
 
 
「容赦ないですねー」
 
 
楽しそうに笑う陰険鬼畜眼鏡大佐。………その眼鏡、割れねぇかな…。つか割れろ…1今から割れろ!俺の呪詛を受けて割れろ!!はあ…しんどいなぁ…。
蹴られた脇腹を抑えながらゆっくりと体を起こしてガイの肩を思いっきり掴んだ。掴まれたガイはというと顔面蒼白でとても具合が悪そうだ!
 
 
「セシル君。後で指導室に来てくれないか?」
 
 
「し、指導室ってどこだい…?」
 
 
「そうだな、死体が目立たない場所が最適だ」
 
 
にこりと爽やかな笑みを浮かべながらも肩を掴む手に力を込めることを忘れない。そしてもう一度にこりと笑いかけてからガイの横を通りすぎて階段を下りる。さて…、死体が見つかりにくい場所ないかなー?
 
 
――ガイ、固まってるわ。ふふふ、後でどうなるか楽しみね――
 
 
楽しみなものか!俺とスパーダのせっかくのいちゃいちゃを覗き見しやがって1許すまじ!!
 
 
――場所をわきまえずいちゃいちゃした罰ね。まぁ、ガイは誠実そうだから良いじゃない。これがもしジェイドだったら…――
 
 
まあ…その辺は感謝しないといけないな…。ジェイドだったら面白く全員に話してそうだし…。さて、もうタルタロスの準備は終わった頃だろう。後は俺たちが乗り込んで外殻大地に戻るだけ。
 
 
――それからベルケンドに行ってワイヨン洞窟に行く――
 
 
おう、その通りだ。さぁて、行きますか!
 
 
 
 
 

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テーマ「人外ファンタジー」
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