罪の存在


 
 
 
 
 
最初に話すべきことは何だろうか?ああ、ルークの話か?あのルークは確かに本物の『ルーク』じゃない。本物の『ルーク』を元にして作られたレプリカって奴だ。アッシュは人形って呼んでるけどな…。それで、次は俺たちの事か。そうさな、俺たちはさっきも言ったと思うが主と騎士という関係を取っている。まあそんな堅苦しい関係でもねぇけどな。けどお前たちと違って上面な仲間とは違う。俺たちはお互いを信頼している。これは切れない絆だ。まあ、今まで敵って立場ゆえに敵対している振りをしてもらっていたがな。俺たちはちょいちょい連絡を取ったりはしてたぜ?次は…、そうだな、アクゼリュスの事を話そうか。アクゼリュスはそこのティア…っつたか?から聞いたと思うが、セフィロトツリーとやらの一本だった。そしてそれを破壊したのはルークだって事になってるんだよな?じゃあお前たちはその現場を目撃したのかって話だろ?見たのかよ、ルークがパッセージリングを壊す所をよぉ?それにな、ルークがあそこに行かなくても、いずれアクゼリュスは堕ちるんだ。何故かって?パッセージリングが劣化してたからさ。障気を留めることが出来なくなるほどに。アクゼリュスの惨状を見たろ?あれはパッセージリングが限界だった事を示してんだ。だからよ、ルークが悪いわけじゃねぇんだ。なのにお前たちは何も見ていないのにルークを責めた。これは罪の押しつけだ。
 
 
「罪の押しつけなんかしていないわ。私たちはルークが超振動を使ってパッセージリングを破壊した見たのよ」
 
 
ティアが反論するように眉を吊り上げる。もちろんこうなることは予測済みだ。だってこいつらは自分に絶対の自信を持っているから。
 
 
「ははは、馬鹿かてめぇら…。ルークが超振動を使っただと?つい最近まで第七音素の使い方を知らなかったド素人が高度な技術の超振動を使った…?こりゃあ傑作だ!!お前らはとんでもない妄想野郎だッ!!」
 
 
「落ち着けラスティ!」
 
 
犬歯を剥き出しにして叫びながら腰を上げようとすると、スパーダが慌てたように俺の肩を押して椅子に体を戻した。おかしい…、スパーダに押さえられるなんて…。俺はいつも冷静沈着な男なのに!!
 
 
「どこに行っても変わらないわね…」
 
 
沈黙に包まれていた部屋に、今まで別のところに行っていたリリーが入ってきた。さっきは幻神のために刀に戻ってもらったが、こいつらと会話するために再び一人の少女になってもらった。
 
 
「どうしてあなたたちの目には真実が映らないの?何故?あの時あの場にいたのはルークだけだったの?あなたたちは見ていなかったの?あのヴァンの表情を。あなたたちは知ったはずだわ。ヴァンが敵だって。なのに、何故ルークだけを責めれるの?」
 
 
その問いかけは無邪気な少女の口調だが、その表情は全く動くことのない無表情。とても幼い少女がするような顔をしていない。しかしこれがリリーとという少女なのだ。そしてリリーの諭すような問いかけに、この場にいた全員が考え込むように沈黙した。
 
 
「この事態の原因は…」
 
 
黙りこくった奴らを無視して話を進めるために机を人差し指でこつんと叩いて注目を集めた。
 
 
「お前たちがルークの仲間じゃなかったってことだ」
 
 
こつこつと何度も机を叩く小さい音だけが部屋に響く。そう、この事態の原因は奴らがルークの本当の仲間ではなかったから。ルークにとっては単なる他人。鬱陶しい同行人。何も教えてくれない奴ら。そういう認識をされていたから、ルークの事を守れなかった。スパーダを護衛としてつけたが、それでも防げなかったのは周りのせいだ。
 
 
「な、仲間じゃないって…どういう事よ…!そんなこと言ったらルークがもっと協調性を持ってたら…!!」
 
 
「協調性…?ははっ、本当に何も考えてないな。ルークに協調性を持たせたかったのならあいつがどんな環境にいたのかきちんと把握してから言うんだな。それに、あいつが無知だったにも関わらずそれを放置したのは誰だ?無知を知っていながらもそれを放置したお前たちも、同罪だろう?」
 
 
「なんでルークの事を知ってるみたいに…」
 
 
「俺は知ってるよ。それこそ神様みたいに…な…。それに、俺以外の奴がここにはいるだろ?」
 
 
にやりと笑った後に傍に控えているスパーダに視線を送ると、他の奴らの視線が一斉にスパーダを見た。
 
 
「悪ぃが…、俺も同じことを言わせてもらうぜ…。当事者であるルークに何も教えなかったのは、罪だ…。そして、信頼を持たせなかったことも、悪い…。これはルークだけが悪いんじゃない。俺たち全員に罪があるんだ…」
 
 
スパーダがそう言うと、全員黙り込んだ。こうまで言わないとこいつらには効かないだろう。相手に分からせる為には、しっかりとした証拠と言葉が必要だ。特にジェイドみたいな口が回る奴にはこう言ってやらないといけない。それでも何も改善されないのなら……、それ相応の覚悟をしてもらわんとな…。さて、こっから先はこいつら自身が考えることだ。俺がやってやるのは間違いを正す事と道を示すこと。
 
 
「スパーダ、行くぞ」
 
 
「え?おい、ラスティ!」
 
 
大きなため息をついてからゆっくりと腰を上げる。それと同時に控えていたスパーダの腕を掴んで部屋から連れ出した。リリーは俺の意志を分かっているのか黙ってついてきた。
 
 
「いいのか?あんな状態を放っておいて…」
 
 
「ああやって考えさせとかなきゃあいつらにはわからない。それに、ルークが可哀そうになっただけだ。一生懸命師を信じてきたのに、裏切られた。ただ一人信用していた奴だったのに…」
 
 
カツカツと歩く度に響いていた靴音がぴたりと止まる。俺にはあいつの苦しみや悲しみがわからない。でも、あいつが苦しんでいる、悲しんでいるって事ぐらいわかる。裏切りがどれほど辛いものか、知っているから…。
 
 
「あいつさ、人を斬る度に震えるんだ。恐怖で真っ青なんだぜ?なのにあいつは無理して人を殺してる。なぁ、俺は初めて人を斬った時、ルークみたいに感じなかった…。戦場で無理矢理戦わされたんだけどよ、俺はルークみたいに怖いなんて思わなかった。だから俺にはあいつの気持ちは分からねぇ…。俺は、おかしいか?」
 
 
スパーダが縋るような目をして俺の服を掴む。その目は微かに怯えを含んでいるような気がした。その目を俺は昔見た。ああ、言い方は悪いが、命乞いをした兵士に似てるんだ。その恐怖で真っ白になった顔とか、青紫色の唇とか、縋るような目とか…。そしてそれを俺は振り払ってきた。けど俺はもうそんな事をしないと決めた。救いを求める奴に、出来るだけ力を貸そうと決めたんだ。
 
 
「今、お前は恐れているじゃないか…。人を殺すことの恐ろしさを。死を恐れない奴なんていない。ただそれを今まで知らなかったルークが強く死を感じたがら恐れただけだ。だから、お前は大丈夫。お前は正しい騎士様だ…」
 
 
震えているスパーダの方を撫でると、灰色の目が緩く細まる。それに、お前より俺の方がおかしいから…。俺は、戦場で人を殺しても何も思わなかった。人を殺しても怪我をしても、何も思わなかった。あの日、お義父さんに助けられるまでは…。
 
 
「ラスティ…、お前がおかしかったのは昔の話だ。人形と呼ばれていた時だけだ。今のお前は誰よりも優しいよ。誰よりも弱者の気持ちを分かってくれる主だ。だから俺はお前に仕えている。安心しろ。俺はどこまでいってもお前の味方だ」
 
 
スパーダが優しく俺の手を取る。ぎゅっと握られた手の温かさが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。やっぱりスパーダは長い間一緒にいただけあって俺の事を良く知っていてくれる。何だが気恥ずかしくなったけれど、スパーダの手を握り返した。それから指を絡めるように握り合わせて顔を近づける。
 
 
「俺もだよ、騎士様」
 
 
悪戯っぽく笑ってから、お互い目を閉じてキスをした。
 
 
 
 
 

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