主と騎士


 
 
 
 
 
タルタロスから降りて見たユリアシティは幻想的だった。外殻大地とやらでは見たことない技術が沢山使われているようだった。つーか俺たちの元いた世界にもない技術だと思う。ここら辺は多分あいつの方が詳しいだろ。
そしてみんなはルークを見ることなく奥へと進んで行く。そして肝心のルークはラスティの言葉に多少救われたのか、重たいながらもその足を動かしていた。その横ではミュウがちょこちょこと愛らしく歩いていた。俺はあえてさらにその後ろを歩く事にした。もしラスティから何か連絡があればすぐに動けるようにするためだ。あいつの事だからここら辺で顔を出すと俺は予想してる。
 
 
「……いつまでそうしているの?みんな市長の家に行ったわよ?」
 
 
ゆるゆると歩くルークの様子に気づいたティアが振り返ってそう言う。しかしその声は冷たいものが含まれたままで、温かさなど存在しなかった。
 
 
「……どうせみんな俺を責めるばっかなんだ。行きたくねぇ」
 
 
ルークは俯いたままそう呟くように言った。実際その通りだろうな。タルタロスであれだけの事を言ったんだ、責めないはずがない。その時の事を思い出して少しばかり俯く。どうして、みんなルークばかりを責めるんだ…。そう考えていたら苛立った足音が聞こえてきた。その足音が段々こちらに近づいてきて、それと同時に声が聞こえた。
 
 
「とことん屑だな!出来損ない!」
 
 
荒い口調に背中に届くほどの深紅の長い髪。あいつに良く似た髪の色をしているが、中身は似ても似つかない。あいつは誰かの事を蔑むことを嫌っていた。俺が最終決戦前に前世で同じような存在だったあいつを罵ると、ラスティは顔を歪めて止めるように声を上げた。そう、あいつは自分が捨てられて人間じゃない扱いをされたから、だから人間を蔑むのを嫌う。アッシュとは、全然違う…。
 
 
「…お、お前!どうしてお前がここにいる!師匠はどうした!」
 
 
「はっ!裏切られてもまた『師匠』か」
 
 
「う、裏切った…?じゃあ本当に師匠は俺にアクゼリュスを……」
 
 
「ああ、そうさ!畜生!俺がもっと早く奴の企みに気づいていればこんなことにはっ!」
 
 
アッシュは苦々しげにそう吐き捨てるとルークの胸倉を掴み上げた。そして超振動とか良く分からない事を叫び、ルークを責め立てた。しかしルークは先ほどのラスティが言っていた言葉を思い出したのか、俺だけじゃないと繰り返し呟いている。それを見たアッシュはルークの事を鼻で笑いながら「レプリカ」という言葉を吐いた。それを聞いたルークは一気に青ざめ、か細い声で師匠も俺の事レプリカって…、と言った。するとアッシュはにやりと笑い、ルークを見下すように見た。
 
 
「教えてやるよ、『ルーク』」
 
 
アッシュがそう言うと、近くにいたティアが悲鳴に似た声をあげる。俺は訳がわからずにその話を聞いていることしか出来なかった。


「お前は俺の劣化複写人間だ!お前は貴族でもなけりゃ、人間でもねぇ!ただの作られた人形なんだよ!」
 
 
俺はその時何でラスティがルークに固執するのか分かった気がした。ルークは、ラスティと同じように人間として扱われないレプリカだから…。自分と同じ、人形だから…。
 
 
「ちげぇよ、馬鹿。俺はな、奴が人間じゃなくて人形だから気にかけてるワケじゃねぇ。あいつがレプリカだろうと、ルークはルークだ」
 
 
こつんと頭に軽く拳を当てられる。勢いよく振り返ると、そこには厳しい目をしたラスティが立っていた。いつからいたのかわからないくらい完璧に気配を消していた。こいつの気配に気づけないとは…。しかも、騎士だってのに俺はこいつの事を何も分かっちゃいないな。こいつは人形だからとかそういう理由で誰かを助けるような奴じゃない。
 
 
「…うそ…だ…。嘘だ嘘だ嘘だああぁぁぁぁ!!」
 
 
ふらふらと覚束ない足取りで立ち竦むルークは、震える手で腰にあった剣を引き抜いた。そして叫び声を上げながらアッシュに斬りかかった。アッシュはそれを見て同じように剣を抜き、ルークを馬鹿にするように笑った。
 
 
「嘘だああぁぁぁぁ!!」
 
 
ルークが勢いよくその剣を振り下ろし、アッシュがそれを弾くために振り抜こうと構える。その瞬間、紅が通り過ぎた。
 
 
「ストップ」
 
 
金属同士が噛み合う音が響いた。先ほどまで近くにいたラスティは二人の間に立ち、リリーだけで二つの剣を止めていた。さすが勝利の女神の生まれ変わりってとこか…。
 
 
「なっ!?てめぇ、何でここに!?」
 
 
アッシュはすぐにラスティから離れ、剣を構える。ああ、そういえば俺たちの間では特に気にしていなかったけど、あいつって六神将だったな。なんて考えていたら、ラスティが俺に視線を送っていた。内容はもちろんルークを頼む、だ。俺はその指示通りにルークに近づいた。どうやらあまりにもレプリカの事がショックだったのか気を失っているようだ。ルークの腕を取って自分の肩へと回してラスティへと視線を送ると、視線を受け取ったラスティがゆっくりとリリーを背中にしまった。
 
 
「よっすアッ君。久し振り〜」
 
 
さっき一瞬だけ無表情になっていたラスティはすぐに明るい笑みを浮かべてアッシュに手を振っている。ただし、その藍色の目は何一つ笑っていない。その瞳は表現しがたい感情が渦巻いているだけだった。
 
 
「俺を捕まえに来やがったなっ!くそが!」
 
 
「馬鹿だなアッ君。言ったぜ?俺は誰にも従わない。俺に命令していいのは俺のたった一人の騎士だけだ」
 
 
アッシュを嘲笑うかのようにそう言ったラスティは、俺に視線を送るとルークに近づいてきて反対側の腕を掴んで肩に回した。
 
 
「おい、そこの。案内しろ」
 
 
ラスティの命令に似た言葉に、ティアは一瞬顔を歪めるが、ルークの腕を回していること理解しているのか大人しく部屋へと案内してくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「それで?これは一体どういう状態なのですか?」
 
 
ルークを部屋に寝かし終わった後に、俺たちは一つの部屋に集まった。広さはとりあえず全員集まれるだけはあった。そしてそこで話題に上がったのがラスティの存在だった。確かに今まで敵の立場にありながら、ここにやって来て、しかもルークを連れてきたんだからそういう反応が当たり前だろう。それに今ラスティはこの部屋にいるのが当たり前みたいな顔をしてこの場にいる。俺はこいつのこういう唯我独尊みたいなところが嫌いじゃねぇ。
 
 
「どういう状態?見れば分かるだろ?ルークはアッ君に言われた言葉がショックで寝込んじまったんだよ、可哀そうに…」
 
 
「そういうことではありません。あなたが何故ここにいるのです?しかも何食わぬ顔で、元々仲間であったかのような態度で」
 
 
ジェイドが落ちてもいない眼鏡を押し上げて、厳しい目を向ける。一方のラスティはというと厳しい視線をものともせず涼しい顔で笑っていた。もちろん人を食ったような悪い笑みだ。
 
 
「俺がいつ敵だと言った?」
 
 
馬鹿にしたように笑うラスティの言葉に、アニスが眉を吊り上げた。
 
 
「散々こっちの邪魔してきたじゃない!」
 
 
「邪魔ぁ?俺自身が直接邪魔をした記憶はないぜぇ?俺はただそれぞれから頼まれたり命令されたからやっただけだ。俺から直接的な邪魔はしてねぇぜ?それに言わせてもらうが、お前らは何か出来たか?ここにいるアクゼリュスの人々を救えたか?」
 
 
座っていた状態で足を組み、まるで演説を語るようにわざとらしく言うラスティにアニスたちは驚いたような視線を向けた。確かに、こいつが単体で手を出してきた記憶というものはない。いつも後ろにはアッシュやシンクとか他の六神将が関わっていた。しかも、こいつはアクゼリュスの人々を救ったんだ…。奇跡のような力、神のような力で。
 
 
「あ、あなたがアクゼリュスの人々を救ったのですか!?」
 
 
「…ああ、そうだ。お前たちは出来なかっただろう?ただ無力に喘いで何もしなかった。お前たちが何も知らなかったせいで、坑道に残っていた人々を殺したんだ!知っていれば殺されずに済んだものを!」
 
 
ラスティの目は燃えるような怒りを含んでいた。確かにこいつの言う通りなんだ。誰か一人でもルークを信頼し、信頼させていれば、少なくともルークの異変を感じ取り、相談くらい出来ただろう。そうすれば無知のままじゃなかったのに…。ラスティの言葉を聞いた全員が、何とも言えない表情を浮かべた。後悔や苛立ち、驚愕。そんな表情だった。
 
 
「……残念だったよ、とても、な…。さあ、騎士様。もう止めよう。俺は疲れたよ」
 
 
ラスティはその藍色の目を重たそうに閉じてから重たいため息を吐いた。心底疲れ切ったため息だ。こいつがここまで来るのにどれほど疲れたのかわかるくらいその声は疲れていた。そしてその疲れた理由は、まあ下らないことに俺と敵対していた事だろうな…。
 
 
「はあ…。騎士にくらい、事情を話してくれても良かったんじゃないか…?」
 
 
座っている状態で深いため息をついて腕を組むと、隣に座っていたガイが目を見開いてこちらを見ていた。が、俺はそれを無視してラスティにだけ視線を送った。すると少しだけあいつの視線が柔らかいものになった。
 
 
「馬鹿だなぁ。お前に話して暴走したらどうすんだ?俺の騎士様は猪突猛進型だからな、こっちの作戦を壊されたくなかったんだよ。ま、そこはご愛嬌だろ?」
 
 
「なぁにがご愛嬌だよ。大体俺は猪突猛進じゃねぇよ。主の命令くらい聞いてやるっての!」
 
 
「スパーダ…?」
 
 
ガイが、愕然としたような声を上げた。俺はそれに気が付いてゆっくりと立ち上がってラスティが座っている椅子の近くに控えるように立った。
 
 
「まあ、改めるのも変だがちゃんと言っとくぜ。俺はここにいるラスティ・クルーラーの騎士、スパーダ・ベルフォルマだ。よろしく」
 
 
ちょっとおかしい喜劇みたいに背筋を伸ばして礼をすると、主であるラスティがにやりと笑ったのが分かった。さっきしていた人を食ったような顔だ。
 
 
「というわけだよ諸君。我が騎士スパーダが探していたのは俺だよ。随分と遠回りしちまったがな」
 
 
意地の悪い顔のままそう言ったラスティに苛立った俺はその頭を一発殴っておいた。ラスティは短い声を上げて非難するような視線を向けたが、俺は無視して指の関節を鳴らした。
 
 
「お前のそういう所がムカつくんだよ。きちんと一から十まで説明しろ。今すぐだ。じゃねぇと内蔵的な物が出るぞ」
 
 
殴られた頭をさすりながら非難の視線を向けていたラスティは全ての行動を一瞬止めた後、青い顔をして頷いた。よっぽどこないだの事が効いたみたいだな…。やっといて正解だったぜ…。
そしてラスティは今回の事件の事を話し始めた。
 
 
 
 
 

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テーマ「人外ファンタジー」
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