堕ちていく物語


 
 
 
 
 
禁術により力を奪われて意識を失ってしまったラスティを見下ろしてから自分の手を眺める。リリーの力が徐々に強まっているからなのか、ラスティがいなくても一人の人間として具現化することが出来ている。いや、リリーだけの力じゃない。肉体を失って精神だけの存在である私の力も、強くなっている。
 
 
「この力が…不幸を招かなければいいけど…」
 
 
少しばかり不安を抱きながらも、倒れているラスティの腕を取って肩に回した。でもいくら私が神だとはいえ、かなり長身の男性を一人で運ぶには無理がある。
 
 
「あんた、大丈夫か!?」
 
 
そんな私のところに、一人の鉱夫が近づいていた。彼が救った、尊い命。その鉱夫が私が運ぼうとしているラスティの腕を取り、自分の肩へその腕を回した。そうやら、運んでくれるらしい。
 
 
「とりあえず、どこかに運ぼう」
 
 
鉱夫がそう言って医務室とは反対側に歩き出そうとしたので、私は鉱夫の服を少し引っ張って反対方向を指差した。
 
 
「医務室は向こうよ。彼をそこに運んでほしいの」
 
 
鉱夫が困惑した態度を見せたが、私は構わず彼を先導するためにさっさと歩き出した。長い廊下の先にある一つの部屋の扉を開ける。ここが医務室。鉱夫に頼んでそこにラスティを寝かせてもらった。
 
 
「あんたは、何か事情を知ってるか?俺たちはいきなりここに来たんだよ。まるで奇跡だ」
 
 
彼を寝かせた鉱夫は、私に向かって興奮気味にそう言った。そう、確かに奇跡の技によって彼らはここへと飛ばされた。ラスティの体力と気力によって。私はそんな鉱夫を脇目で見ながら、ベッドに寝ている彼へと視線を向けた。
 
 
「…知ってる…。彼が、あなたたちをここへ運んだから…。だから、他の人たちがどこにいるのか教えて?」
 
 
「そいつが俺たちを…。みんなは今一番大きい部屋に集まってる。酷い揺れもあったから動かないようにしてるんだ」
 
 
「分かった」
 
 
私はそれを聞いて彼の傍から離れて鉱夫の横を通り過ぎた。一番大きい場所なら把握している。なんて言ったって私たちはこのタルタロスを一時とはいえ占領していたのだから。
 
 
「行きましょう。事情を説明するわ」
 
 
軽く首だけ振り向いてそう告げると、坑夫はハッとして慌てたように私の後ろを付いてきた。鉱夫は聞きたそうな顔をしているが、説明すると言っているので我慢しているようだ。…説明なんて簡単にできる。何故ここにいるのか。それはアクゼリュスが崩落したから。何故助かったのか。それはラスティが助けてくれたから…。それだけの話。
 
 
「最悪の結果になっても、それから最善の行動をすればいい」
 
 
一番大きな部屋へと続く目の前の扉を力を込めて押し開ける。そして中にいた人の視線が一斉に私の方へと向けられる。疑惑、困惑、恐怖。それら全ての視線を一身に受ける。
 
 
「あんたは、誰だい?この町のもんじゃないね?」
 
 
一人の鉱夫がそう尋ねてきたので、私は頷いた。それから周りを見回す。かなりの人数がいるようだけれど、タルタロスが広いおかげでそこまで窮屈しているようには見えない。それを確認してから息を深く吸い込んだ。
 
 
「まず、どうしてあなたたちがここにいるのか。理由は簡単。アクゼリュスが崩落してしまったから。どうやってここに来たのか。それは私の連れであるとある人が術を使ってあなたたちを移動させたから」
 
 
凛と、全員に聞こえるような声で言うと、人々がざわめき始めた。
 
 
「あなたたちを取り残したままアクゼリュスは崩落しようとしていた。ある人はそれを回避したくて術を使ってあなたたちを生かした」
 
 
「じゃ、じゃあアクゼリュスはさっきの揺れで…」
 
 
「…ええ、残念だけれどあなたたちの町は消えてしまった…。けれどそう落ち込まないで。あなたたちには命がある。それに、助けてくれる人もいる。だからそんな顔をしないで。あなたたちを生かそうと必死になった彼に失礼だわ」
 
 
どんよりと沈んでしまった全員に元気づけるような言葉をかける。すると、私の言葉が通じたのかみんなが頷いた。生きていての命。その命をなくさずに生かしてもらったことに感謝してもらわないといけない。それが、彼の望んだことだから。
 
 
「あなたたちはこのままここを動かないで。待っていれば、ここにあなたたちを助けてくれる人たちが現れる。私は、倒れてしまった彼の様子を見に行ってくるわ」
 
 
踵を返して廊下を進む。間もなく、彼らが、スパーダたちがここに来る。あの子たちがアクゼリュスの瓦礫に足を着けたら、これに気づく。そうすれば、後は悲しい結末が待っているだけ。聖なる子と、あの子と、彼を悲しませるだけの結末が。でも、それを和らげるのが私たちの、いえ、ラスティをスパーダの仕事。さぁ、私の番はもう終わり。次の段階へ進みましょう。バトンは彼へと渡される。
 
 
「堕ちていく…深淵へ…」
 
 
 
 
 

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